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1-14 ただただ不器用

 帰りのホームルームが終わる。

 野沢(こころ)はスクールバッグをげ、周りの談笑に加わらずにさっさと退室しようとしていた。


「ココちゃん、もう帰るの?」


 ドアへ向かう野沢に愛華あいかが近寄り、地雷を踏まないよう探り探りといった様子で話しかけた。

 彼女もなかなかあきらめが悪い。

 声を掛けられた野沢のほうは、無表情をつらぬいている。


「ええ。勉強するから」

「そっか。……ええと、頭いい人はやっぱりちゃんと勉強してるんだね! 入試も余裕だったんじゃない?」


 愛華がなんとか話題を絞り出す。


「頭がいいって、私が? そんなことないわよ。入試だって結構難しかったわ。……それだけ? もう帰るわよ。忙しいの」


 荷物を片付けるふりをしながら、つい二人の会話に聞き耳を立てていた。


 「結構難しかったわ」?


 新入生代表を務めたほどの成績だ。「難しい」ことなんて有り得るのだろうか。

 しかし彼女の性格を考えると、その言葉は謙遜けんそんとも思えない。


「愛華ぁ、もう野沢さんに話し掛けるのやめたら?」


 野沢が扉を閉めると同時に一人の女生徒がそんな言葉を掛けた。野沢に聞かれていても構わないと言ったふうに。


「朝だって意見は全然出さないくせに『き水はやめろ』なんて言ってきたし……」

「俺も無理して話さなくていいと思うぜー。気取ってんだろ。もう彼女候補からも外したわ。顔だけは断トツでいいんだけどなあ」


 何様だよ、とクラスメイトたちが遠藤を笑う。


「エンショーくんはココちゃんと同じB棟だよね? ココちゃんは寮ではどんな感じなの?」


 エンショーこと遠藤翔太に愛華が尋ねる。


「ずーっと一人だぜ。メシのときもイヤフォンしてるから話しかけられないんだよな。あ、でも今朝、野沢と大隅が喋ってたよな?」


 遠藤に話を振られ、大隅おおすみが恥ずかしそうに頭をかく。


「パンばっかり食べてたら、それじゃ炭水化物()りすぎって言われちゃった」

「えー、余計なお世話じゃん!」

「野沢さんって、なんであんなに偉そうなんだろうね。美人だからニコニコしてればいいのに」

「それ言うと怒られるよお」


 不在の人物の噂で盛り上がっている教室に居たいたたまれなくなり、バッグを持って立ち上がる。


 罪悪感もあった。

 自分の発言が引き金となり、彼女をクラスメイトたちから孤立させてしまったのだ。

 大人げなかった。教室であんなことを言うべきじゃなかった。

 愛華は陰口に加わることも止めることもせず、存在感を消してその場に突っ立っている。そんな彼女にもじりじりとしてしまう。


 しかし、俺と愛華と同罪だ。「野沢心は『利き水はやめろ』だなんて言っていなかったし、恐らく気取っているわけでもない」とこの場で言い出せないのだから。


 野沢のことを、確かに初めはプライド高く鼻持ちならない人間だと思っていた。今は違う。

 友達が欲しいと思っているのに周りに上手く溶け込めない、ただただ不器用な人間。

 それが彼女に対するイメージだった。


 教室を出て廊下を見回す。

 当然ながら、すでに彼女の姿はそこに無かった。



 夕方、寮の食堂では生徒たちがやたらと帰省の話で盛り上がっていた。今日の献立こんだてである肉うどんのどんぶりを受け取りながら、明日が土曜日だということを思い出す。


 土曜日の朝から日曜日の夕方までは外出が許されているのだ。実家が恋しい新入生も多いのだろう。

 寮が完全に閉まる日以外は帰らないつもりだから、全く関係の無い話だ。


 部屋に戻り窓を開けると、今夜も歌声が聞こえてくる。窓を閉めればいいのだが、ついずっと聞いていたくなってしまう。

 英単語の小テストの範囲も配られたことだ。いい加減、今日からは勉強に集中したい。寮生が漏らす音についてそろそろスタッフに苦言をていすべきかとも思うが、これ以上のトラブルは避けたい。


 勉強道具と飲み水の入ったペットボトルをまとめて部屋を出た。

 校舎にある自習室が消灯時間ぎりぎりまで解放されていることを思い出したのだった。




第1章「佐藤蒼紀(そうき)」 了


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