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千代五星異聞奇譚 白光の焔  作者: トヨタ理
序章
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丑三つ時

 冷えた空気と真の闇が支配する丑三つ時――。

 青葉ヶ山の麓から程近い一軒の民家から一人の若い娘が姿を現した。


 ロゴの入ったスポーツウェアを全身に装い、長距離ランニング用のシューズを履いている。

 日の出前から明け方まで青葉ヶ山の山道を走る。それは娘の毎朝の習慣だった。


 午前三時五分。


 スマートウォッチの時刻を確認し、軽くストレッチしてから娘は走り出した。


 しばらく道なりに走り続け、青葉ヶ山の山道入り口付近まで到達した頃だった。

 草木の生い茂る一本道。

 ぬらりと、向こうから大きな黒い影が現れ、不意に足を止めた。


 こんな時間に人がいるなんて。


 一度娘はそう思ったが、その影が明滅した街灯にわずかの間晒された時、それが誤りだったと気が付いた。


 娘の倍以上はあるだろう身体。

 二本足で立ってはいるが、明らかに人間ではない。

 ニュースで何度か観た凶暴な熊を連想させるが、それとも異なる。


 なぜなら目の前のソレは、どんな獣にもない恐ろしく長いかぎ爪と、全身という全身におびただしい数の眼球が埋まっていたのだ。


 鼓膜が破れそうなひび割れた慟哭。


 この世のものと思えない不気味な咆哮に、娘は反射的に身をすくめた。


「ひっ」


 それから娘がわずかの間にできたのは、小さな悲鳴を漏らす事だけだった。


 その黒い影――化物は、目にも留まらぬ速さでひた走り、その大きなかぎ爪で娘に襲いかかった。


 恐怖で身体がこわばり、ようやく逃げるという選択肢を思いついた時にはもう何もかも遅かった。

 化け物の振り翳されたかぎ爪は、容赦なく娘のたわやかな胸を抉り、鮮烈な唐紅の飛沫が空に舞う。



 絹を裂くような娘の悲鳴は化物の大爪に容赦なく切り裂かれ――やがて散り散りになり、常闇の空気に溶けていった。

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