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 裕福な両親の元で何不自由なく過ごした少女時代。幸福だった。結婚適齢期に公爵と知り合って、川の流れに身をまかせるように結婚した。疑問に思うこともなく、後悔することもなかった。夫の浮気を知れば、そのたびに腹立たしくはあるものの、あえて干渉するまでもないと放置した。嫉妬するほど夫を愛してはいなかったのだ。いつから愛していなかったろうか。最初の数年間はときめいた覚えがあるというのに。

 唐突に気づいてしまった。


(私は公爵夫人という肩書と結婚していたのだわ)

(そして今公爵夫人という肩書に、今まさに捨てられようとしているのだ)

(愛しているのは虚像。あとはピーちゃんだけ)

(私は透明人間だ)


「一応、どれも経験者優遇となっておりますので、初心者は不利なのですが」


「そうですか。……出直して参ります」


 サラは丁寧に礼を言って、その場を去った。

 トール弁護士の言ったことには一理ある。きっとこうなることを見透かしていたのだろう。助言のとおり、友人を頼るほうがよさそうだ。この町には、その一人、アン伯爵令嬢が住んでいる。会うのは5年ぶりだけど、元気でいるかしら。




 地面ぎりぎりに張りだしたテラスハウスの二階がアンの住まいだ。一度訪ねたことがあったが、その時サラは疑問に思ったものだ。なぜこんなにみすぼらしいところに住んでいるのかと。思っただけでなく声にも出した。今考えると慎みがないうえに無礼だった。

 サラは5年前と変わらないテラスハウスを見上げた。二階の窓辺には鉢植えがひとつ見えた。大きな葉を持ち、小さな白い花が咲いている。


「突然訪ねてくるなんて。びっくりしたわ。町に用事でもあったのかしら。私を思い出してくれるなんて嬉しいこと」


 アンはミルクティーをサーブしながら記憶のままの笑顔でサラを迎えた。今年30になるはずの令嬢は慎ましく暮らしていた。髪はひとつにまとめ、宝飾品はまとわず、化粧は口紅程度だ。


「お元気そうでなにより。お変わりありませんか」


「ええ、いまだに結婚もしておりません。あの節は父がご迷惑をおかけしました」


「いえ、いえ。こちらこそ余計なさしで口を」


 アンは父親から意に染まぬ結婚を強要されていた。相手は確か鉱山開発で成り上がったアメリカの富豪だった。親の言うことがきけないのなら出ていけと言われたアンは、その日のうちに邸を出たのだ。アンをかばったサラは、それ以降、伯爵と疎遠になっていた。


「貴女が伯爵のお邸を出たと聞いたとき、心臓が凍りつくかと思いましたわ。とんでもないことになったと」


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