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公爵はあんぐりと口を開けている。ポールの顔は悔しそうだ。
そのときようやくガイが口を開いた。
「まだ手つけも払わないうちからよく言う。契約が成立していないのだから違約金は発生しない」
ガイがさらりと反論してくれた。
「……では違約金はけっこう。で、総額をきれいに支払って、買い取っていただけますか?」
今現在の公爵家にとっては総額は大きな数字だ。だがほんのひと昔前なら、公爵は鼻で笑っていたであろう金額でもあった。
「失ったものは思いのほか大きかったんだな」公爵は溜息を吐いた。「この程度の借金で零落してしまうとは情けないことだ」
「ちょっとピーちゃんを呼んでいいかしら。事務所の外にいるんだけど」
サラの発言で全員がぎょっとした顔になった。
「暴力反対です!」
トールが真っ青な顔で拒絶した。
「間違えたわ。モワりんよ。ちょっとバスケットを取ってくるわね」
戻ってきたサラは、公爵にモアを預けてバスケットの中に手を突っ込んだ。
「ああ、あったわ」
「なんなんですか、それは」
サラが取り出したたくさんの金貨を訝しげに見下ろすレオノールとトール。
「……まだ少し足りないわね」
サラは全財産を数えた。
「どこからこんな大金が……」
「どこからかは関係ないでしょう。うーん、一割ほど足りないかしら。ねえ、まけておいていただけないかしら」
サラが出した金貨はブローチの対価である。アンからブローチを返してもらったときに、すぐにそれを買い取ってほしいとお願いした。
アンは苦笑して、高値で引き取ってくれたのだ。
サラが大金を持っていたと知らなかったレオノールとトールは一瞬気をのまれたようだったが、どうにか笑顔を作った。
「ビジネスはシビアなんですよ」
「きっちり払っていただけないと困りますね」
「しかし」公爵が粘った。「ポールのアイデアを他の銀行に持っていけば金を貸してくれるかもしれない」
「そうだね。僕の将来性を信じて貸し付けてくれるかもしれない」
「仮定の話はけっこうですよ」
公爵とポールは悔し気に唇をかんだ。
たとえ貸し付けてもらったとしてもポールの経営がうまくいかなければ、また借金を増やしていくだけだ。
正直、公爵にもサラにも、ポールに商売や経営の才覚があるかどうかはわかっていない。
わかってはいないけれども、ポールに後継をまかせてみたい、という欲はある。
「貴族というのはやっかいな生き物です。自分たちが瀕死になっているのを直視できない」
トールは署名欄をとんとんと指で叩いた。
「早くしていただけませんかね。決断ができないのはトップとして最悪ですよ」
レオノールは嘲笑を隠さなかった。
それまで黙っていたガイが「署名の前に」と言って、一枚の紙をレオノールの前に滑らせた。「こちらを確認してください」




