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「元同級生だ。あっちは成功したが、俺は失敗した。まあ、たしかにあいつは親切だよな。俺に仕事を回してくれるんだから」


 便利屋は自嘲の笑みを口端に浮かべた。口調はすっかり砕けたものに変わっている。商売にならないと踏んだようだ。


「その格好は変装でしょう。いくらなんでも……」


 すえた臭いがサラの鼻腔を刺激した。変装にしては手がこみすぎている。

 袖口が破れたシャツ、穴だらけのズボン、垢じみた手。サラは少々困惑した。法律家と同級生だとしたら、かなり若いはずだ。それこそ、自分の子供であってもおかしくないほどに。20代半ばでぼろきれをまとい、衆人に口外できない仕事をあてがわれるしかないとは気の毒に。


「王立学院法律専科の学生だったのですか? ではあなたも弁護士?」


「……トールとは別の法律事務所に就職したんだが、弱小だったんで、あいつんとこに呑み込まれた。悪いけど俺はもう行くぜ。そろそろ教会に行かなきゃならねえ。それに身過ぎ世過ぎの手助けは出来ないぜ。俺を見りゃわかるだろ」


 便利屋は名残惜しげにダチョウの背中を撫でる。


「ピーちゃんは売りませんよ」


「わかってるよ。おや」


 天使はダチョウの羽の中からバラのつぼみを取り出した。少しだけ花弁が開きかけた、ピンク色のつぼみ。バラ園で暴走したときに紛れたのだろう。


「今日の報酬はバラ一輪で充分だ。俺に用があるときは、このベンチに来ればいい。人間ってのはよく気が変わる生き物だからな」


(まあ、最後の最後で、なんて気障ったらしいんでしょう)


 サラは呆れたが、不思議と嫌な気分にはならなかった。気が変わって夫に復讐したいと考えたら彼を頼ることにしよう。おそらくそんな気は起きないだろうが。


(まずは働く場所を探しましょう。汗水流して働くことなら、私にだってできるもの)


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