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 サラはガイをそっと盗み見た。

 すると、秀麗な弁護士は無表情のまま問う。


「農奴を放っておけないと考えているのか?」


 的外れな問いに苦笑する。


「そうね。それもあるけど、でも、賢い弁護士さんたちが解決方法を考えてくださったのではなくて」


 テーブル上の紙には簡単な計算が書かれている。工場労働者一人当たり給金はいくらになるか。稼働に必要な人数。川から水を引きいれるための工事費用。推定売上の上限と下限。株の配当の条件、などなど。


「農奴を雇ってくださるのね。家族も数に入っているわね」


「ええ、彼らの意思次第ですが。まとめて引き受けさせてもらえれば」


 レオノールは何度も頷いた。


「ガイとトールが考えていたのは、売買ではなく貸借のこと? それとも一括で売り渡すのではなく、代金の一部を株に変えること?」


 サラが問うと、くだんの二人は少し驚いた顔になった。公爵夫などは世間知らずだから株のことなど聞いたこともないだろうと思っていたようだ。トールが表情を引き締めた。


「継続的に公爵家に金が入る仕組みを考えました。私は株を勧めます。離婚になっても分けやすいですから」


「ガイも同じ考え?」


「ああ、めずらしくトールと意見が合ったよ」


「僕も荘園経営よりは株主のほうがいい。気楽そうだ」と、ポールも乗り気だ。


 これも時代の潮目だろうか。サラは気づかれないように小さく嘆息した。これまで苦労してきた厄介なものでも、いざ手放すと考えるとためらいが生じる。

これを感傷と呼ぶのだろうか。


「土地売買についても離婚についても、肝心のノースの考えが知りたいわ。彼こそが権利者ですから。……彼はまだトイレかしら。少し遅すぎるわね」


「呼んできましょう」


 トールが席を立った。まもなく息を切らせて戻ってきた。


「トイレにも自室にも公爵の姿が見えないのですが」


「まさかアシュリー嬢を追って?」


「馬は馬小屋に残っていたので、出かけたのなら徒歩になりますが」


「屋敷の中にいるのかしら」


「公爵がいないと話が進みません」


 というわけで全員で探すことになった。サラは刻限を区切ることにした。


「見つけたら居間に連れて戻ってください。見つからなくても一時間後に全員集まってください」


「いざ探すとなると、このお屋敷は広いですねえ」レインはわくわくしている。「古く厳めしい邸の中に愛憎渦巻く人間が大金をめぐって集合しているのですから、公爵がお亡くなりになったら得をするのは誰か、サラ夫人がお亡くなりになったら得をするのは誰か、はたして離婚になるのか死別になるのか、そう考えるとわくわくしてしまいます。あ、失礼しました。高揚すると心の声がダダ洩れになってしまう癖があるんです」


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