表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
32/89

32

 サラが立ち上がる間もなく、扉は内側にはじけ飛んだ。蝶番がはずれている。

 

 ダチョウのキック力はすさまじいものだ。まともに蹴られたら、人間は内臓破裂でひとたまりもない。ヘビー級ボクサー5人分の威力があるのだから。

 飛び込んできたダチョウを見て、サラを除く全員が硬直した。


(ピーちゃん、どうしたの。落ち着いて!)


「こ、怖いわ!」


 アシュリーの悲鳴が響く。振り返ると彼女を守ろうと盾になって立つ公爵の姿が目に映った。


(あら、ちょっと見直したわ)


 身重の愛人を庇う公爵の足は小刻みに震えている。彼は渾身の勇気を奮っているのだ。


 ダチョウはくるりと向きを変えて、自分が入ってきた方向に向かって腰をかがめた。


「あの、サラ夫人。この生物はいったい……」


 レインの声は裏返っている。


「大丈夫です、ちょっと興奮しているだけですわ。ピーちゃんはすぐに外へ出し……あら」


 ダチョウが興奮しているわけがわかった。ダチョウの視線の先に、ガイがいる。


「ごきげんよう、みなさん」


 いつもと同じ、浮浪者の姿である。しかも頭上にはハエのおまけつき。


「部外者は入ってくるな! ダチョウを連れて出ていけ!」


 トールは震える指でガイに命じた。


「俺はあんたの部下ではない」


「なんだと。生意気な口を叩くな!」


 場を取り仕切らねばと考えたのだろう、レインが笑顔と困惑と怒気をないまぜにした表情で立ち上がった。


「取り込み中なので、退室いただけますか。ダチョウと一緒に」


 ガイはピーちゃんの首をなでながら、さらりと言った。


「俺は弁護士です」


「は?」


「サラ夫人の」


「え、でも、その格好……あ、いえ、失礼」


 一瞬、部屋が静まり返り、耳障りなハエの翅音だけが場を制した。


「……はらってもはらっても、離れなくて」


 ガイは何度も頭の上を手ではらったが効果はなかった。


「これが領収書です」ガイは領収書をレインに見せた。「サラ夫人から手付金をいただいて、正式に雇われている証拠です。ですよね、サラ夫人」


 ガイはこちらに向かって微笑んだ。

 笑顔に促され、その通りですと頷いた。直後に、胸一杯に名状しがたいあたたかいものが満ちてくる。


「1ジェニーだって。ビスケット一つ買えない、そんなはした金で」


「手付は手付です。サラ夫人は俺に1ジェニーを支払った。それは間違いないですよね」


「ええ、間違いありません! ガイはわたくしの……弁護士ですとも!」


 ガイはさっさとテーブルに着いた。サラの隣である。促されたように、レインも定位置に着き、公爵とアシュリーもしぶしぶのていで座った。

 納得していないのはトールである。


「冗談のつもりかもしれないが、まったく笑えないぞ!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ