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「ええ……」


 トールは困った顔をしてサラを見つめた。彼の説明によると貴族議員の多数決と国王の認可を得て、新しい結婚に関する法律が施行されているのだという。


「どんな内容なんですの?」


 サラは嫌な予感を押し隠しつつ、神妙な顔で法律家に尋ねた。


「実質的に婚姻が破綻している場合は、有責無責に関わらず、一方の申し立てにより離婚が成立することになりました」


 サラは目をぱちくりさせた。


「あー、つまりですね。夫婦仲が完全に冷え切った状態が長年続いていたら、浮気していた側からの申し立てでも離婚できるんです」


「まあ、どうしてですの!」


「貴族階級では今まで離婚は避けるべきと考えられてきましたよね。それにはいろいろな理由がありました。あえて申し上げませんが。しかも離婚を選ばずとも夫と妻がそれぞれ愛人を持つことが黙認されてきましたね」


 サラの脳裏には友人知人の顔がポンポンと浮かんだ。あまりに浮かびすぎて頭痛がするほどだ。


「ですが彼ら彼女らは分別を持っていましてよ、ええ、多分、おそらく……」


「おかげで愛人との間に子供が出来ても跡継ぎに出来なかったり、事実上の重婚になったり、遺産相続でもめたり、不都合が続出したのですよ。それでなるべく実態に合わせようという考えが支持を得たんです。貴族議員が5年前から議会に提議を──」


(貴族議員ですって?)


 サラの夫は貴族議員である。5年前といえば、サラと寝室を別にしたころである。サラは夫の仕事のことは殆どわからない。だが5年前から夫が離婚を計画していたことは間違いないことだと思われた。声が震えないように腹にぐっと力を入れた。


「夫婦仲が冷え切った状態と判断される『長年』とは……5年ですか」


「そうです」


「まあ、たったの5年で?」


「5年前、私は王立学院法律専科の学生でした。5年間のたゆまぬ努力の結果、卒業し資格を取り、下積みの修行を経て事務所を開くまでに成長できました。私の体感では苦労した5年間は大変長かったですよ」


 サラは居住まいを正した。サラにとっての5年と、目の前の法律家の5年は重みが違うようだ。


(わたくしは努力をしてこなかった。結婚して35年、公爵夫人の地位に安穏としていたせいで、今こんなに惨めな思いをしているのかしら)


 サラは頭を振った。


(違うわ。たしかに、夫婦関係を継続する努力はしてこなかった。それは事実。修復する気もなかった。いいえ、破綻していることにさえ気づいていなかった。それは、おそらく、ノースへの愛情を、とっくに失っていたからよ)


「トールさん、私、離婚します!」


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