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「……いえ、それぞれが別にとっておりました……」
「家庭内別居の状態ですね。夫人に落ち度がなくても離婚は不可避な状況かと思いますよ。公爵にたいして不満があったのですか。何かあればお聞かせください」
そう言われても具体的に浮かんでくることは殆どなかった。
「あの……とくには……」
「そうですか」
「今すぐには思い出せないだけです」
「わかりました。思い出したら教えてください。査定に関わりますから」
レインは再びペンを取った。書類に何かを書きつけていく。サラは不安な気持ちでいっぱいになる。トールが言ったように、争点は慰謝料の算定へと流れているようだ。
(でも当然かもしれない。妊娠中の15歳を守るのは当然だわ)
アシュリーを責めるつもりなどない。もとより離婚には同意するつもりだったのだ。
「サラ夫人との間には、お子さんはいないわけですね。35年間の婚姻でとくに問題がなかったとなりますと、精算は複雑にはならないと思います。それぞれが元々持っていた財産は戻されます。婚姻中に増えた財産は半分になります。資料があれば提出してください。あとは慰謝料ですが、公爵ご自身は何か言いたいことはございますか。夫人に落ち度がないとお認めになるのなら、相場は──」
「いえ、認めておりません」
「はい?」
「サラには重大な落ち度があります」
今まで無口だった公爵が突然口を開いた。
「サラは公爵家を好き勝手に取り仕切ってきたんだ。夫であるわしの許可を得ずにな。思いつきで雇い人のクビを切ったり、馬を売ったり。荘園を片手間に経営したり。そして財産をすり減らしてきた。当然その分の利益と、わしが被った損害は払ってもらうぞ!」
口角泡を飛ばす勢いだ。
「サラ夫人のご意見は?」
「クビを切ることに関しては相談しましたわ。でもあなたはこうおっしゃったじゃないの。『わしは貴族院議員という重要な職責を担っていて忙しいんだ。些末なことでいちいち相談しなくてよろしい。お前が差配しろ』と。ですから、そうしたんですのよ」
「だとしてもやりすぎだろう。わしは驚いたぞ。邸には執事のカーンと、料理人のロンしかおらんじゃないか。どちらも外国人の男だ。メイドはどこにいったんだ!?」
「あなたのお気に入りのメイドは結婚が決まって1年と半年前に辞めましたよ。ロンは外国人だけど7年前から公爵邸の食事のすべてを一人でこなしている優秀な料理人です。給仕だって彼がしてくれていたでしょう、何をいまさら。インド人のカーンも邸に来てすでに5年と3か月経ってるわ。今ごろ気がつきましたの? カーンは執事だけでなく従僕も従者も厩舎管理も部屋管理もしていたのよ。いつもあなたのそばにいたじゃないの」




