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ありがたい申し出だ。
一階の大家の部屋で食事をいただくことになった。質素だが量は十分。食後はミルクティーではなく、ホットミルクだった。紅茶はないのかと訊ねると、茶葉はミルクより高いので買えないという。紅茶の茶葉が高いと知って、先行きが不安になった。
「ところで、あんたに言われたことを噛みしめてみたんだ。ドレスを着た貴婦人。そう思ってダチョウを見てみると、確かに貴婦人っぽいんだよ。もう怖くはないね」
「あら、それは良かったですわ」
「首の曲線はしなやかで美しい。特筆すべきは足だね。とても魅力的だ」
大家はサラの横で寛ぐダチョウを、うっとりと眺めている。
「ハイヒールを履いた足みたいだ。持ち上げたドレスの下を覗いてしまった背徳感があるね。どきどきしちゃうよ」
「……一晩の宿をありがとうございました。朝食もご馳走様でした。さあ、行きましょう、ピーちゃん」
「今夜も泊まるとこがなかったら遠慮せず来なさい。食事はサービスするよ」
大家は上機嫌でサラたちを見送ってくれた。
法律事務所の受付係はサラの顔を見ると「所長のトールですね」と言ってすぐに彼を呼んでくれた。所長だとは知らなかった。ガイの弱小事務所を併呑したやり手は彼自身なのかもしれない。
トールはサラを目にすると、鷹揚に微笑んだ。包容力のある温かい笑顔だ。綺麗に整えられた髪からは高級な整髪料の香りがする。みすぼらしい格好になったサラを目にしても、その理由を訊ねない配慮がうかがえる。トールは間違いなくやり手だ。頼りがいのある男を雇えてよかった。サラは上品さと優雅さを湛えた笑みを返した。
(トールはわたくしの指標となる人物だわ)
努力と研鑽を重ね、地位と名誉を手に入れた人間。知的で誠実で善良。おそらく経済的にもゆとりがあり、自己評価も高い。これでユーモアがあれば完璧。
(あら、わたくしとしたことが、まるで結婚相手を品定めしているよう)
(夫のことも品定めしていたかしら。あまりに昔のことすぎて覚えていないわ)
(トールはあくまでも目標よ。こうなりたいという憧れの人)
サラはひそかに呼吸を整えた。離婚をするということは自由の身になるということだ。新しい相手を求めることも自由なのだ。とはいえ、それはあくまでも一般論。
「サラ夫人、お待ちしておりました」
「午前中に公爵邸に赴いていただけるという話でしたけれど」
「ええ、さきほど行ってきました」
「迅速な対応、ありがとうございます」




