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(わたくしが気取りすぎているのだわ。誠実な態度を取らなければ。わたくしには守るべき大切なものがあるのだから)


 羽を拾い上げて指先でくるくると回す。ダチョウの羽は空を飛ぶ鳥のそれとは構造が違う。小羽枝がまとまっていないので、頼りなく、ばらばらに揺れる。羽毛の生え方は左右対照になっている。飛ぶことをやめたダチョウは自ら姿を変えていく勇気を持っている。

 

「有益な情報をありがとう。たしかにドレスはもう必要ないわね。そうするわ」


「動きやすい服になさるといいですよ」


「心苦しいのだけれど、しばらく泊めていただけませんか。すぐに働くところをみつけますわ。そうしたら出ていきますから。駄目でしたら今夜一晩だけ」


「……」


「ほほ、少し図々しかったわね、反省してますわ。ドレスを古着屋に売って格安ホテルに泊まりますわ。ですが、離婚したあとはこの町で暮らしたいと考えております。落ちつくまで生活できるだけのお金を貸していただけないかしら。すぐにお返しできると思いますわ」


 サラはひたすらにまっすぐに誠心誠意を込めて金の無心をした。


「……」


(知り合ってからこんなにも無口なアンは初めて見るわ。わたくし、まるで漆喰壁に話しかけているみたいだわ)


「アン様。これをご覧になって。ピーちゃんの羽。大きいでしょう」


「……」


「アン様の住居は掃除が行き届いていらっしゃるわね。はたきは何をお使いなの。布を細く切ったものかしら。わたくし、今度いいものをプレゼントいたしますわ。ダチョウの羽で作った羽はたき。静電気が発生しないのでお掃除には最適なんですよ」


「……」


 思わず窓辺に視線を泳がせる。真横から差し込んできた西日。日没まであと少し。

 ダチョウはすっくと立ち上がり、決闘を控えた騎士のように、ぶるんと体を震わせた。出発しようと語っているのだ。


「長いことお邪魔いたしました。失礼いたしますわ」


 せめてもの矜持で微笑をたたえた。恥かしいことを口にしたわけではない。サラはそう思い込もうとした。

 ちょっと待って、とアンは衝立の奥に消えた。すぐに戻ってくると、サラの手に何かを握らせた。


「サラ様、私はかわいそうなんて思ってません。思ったとしても助けることはできない。だって私に助けられても、あとで絶対後悔なさるから。だから……」


 手の中を確認するとメイドの一か月の給金程度のお金がある。今のサラにとっては大金だ。


「どういうことかはわかりませんが、なるべく早くお返しに上がりますわ」


「いえ、返さなくてけっこうです」


 招かれざる客なのだとようやく気付いた。

 どう思われていようと気にすることはない。だが必ず返そうとサラは決意した。


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