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 サラ・ポータリー公爵夫人はダチョウを飼っている。


 時は19世紀、ヨーロッパの某国。


 日の出と共に起きて、裏庭のバラ園の手入れをする。疲れたら木陰でダチョウとティータイム。ミルクをたっぷりと入れた紅茶をこよなく愛す。暇があれば読書と縫い物。それがサラの日課である。

 何の変哲もない、穏やかな上流階級婦人の生活。そんな生活を全て失ったのは、とある午後のことだった。


「愛しいアシュリー、ごらん、ここが自慢のバラ園だよ」


「まあ、なんて美しいんでしょう。たくさんのバラが一斉に咲き誇っていて、私に微笑みかけてくれているみたい」


 初老のしわがれた声と若い女の声。


(誰かしら)


 うずくまった姿勢で枯葉を摘み取っていたサラは首を伸ばして声のした方を見た。


「庭師が丹精込めて世話をしているからな。わしの自慢の庭だ」


 声の主はサラの夫、ノース・ポータリー公爵だった。サラより5歳年上の60歳。


(庭師なんてとっくに解雇しているのに)


 夫の声を忘れていたことに、少しばかりの罪悪感を覚えながらも、見栄っ張りの夫に苦笑した。一緒にいる女は誰かしら。


「いい香り。うっとりしちゃう」


「愛しのアシュリー、このバラ園はお前の物だ。バラ園だけではない、この邸も荘園も、わしの持っている全ての財産はお前の物だ。これからは何不自由ない生活をさせてやるぞ」


「公爵様、本当ですか。その嬉しいお言葉、信じてよろしいのですか」


(まるで三流の恋愛小説のようね)


 アシュリーと呼ばれた若い女は目を潤ませている。可愛い顔をしているが、平民の衣服を着ていて、どこか垢抜けない。まだ十代かもしれない。

 夫の浮気にいちいち目くじらを立てるほど、サラは血の気が多くはない。そっとこの場を離れようと首を縮めたタイミングで、ダチョウが藪の中から首を伸ばした。


「きゃあああ!」


 急に現れたダチョウに女は怯えて、公爵に抱きついた。一方、女の叫び声に驚いたダチョウはバラ園を縦横に駆け回り始めた。バラの花弁が空中に舞う。


「あらあら、だめよ、ピーちゃん。落ち着きなさい」


「そこにいたのか、サラ!?」


 怯える少女、少女を抱きしめた夫、目撃した妻。フリーズした三人の周囲を狂ったように走り回るダチョウ。場違いに舞う、真っ赤なバラの花びら。


「覗き見をするなんて、恥を知りなさい!」


 公爵は真っ赤な顔をして怒鳴った。


「なぜわたくしが恥じなければならないのです。浮気現場を見られて、立場がないのは貴方のほうではありませんか」


「こ、これは浮気ではない」


「あら、説明していただけます?」


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