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第8話 村への襲撃

 村に馬に乗った一団が近づいてきていた。それは物々しく武装した伯爵とその側近たちだった。


「伯爵たちが大勢でこっちに来るぞ! 武器を持っているぞ!」


村に見張りの者の声が響き渡った。それに村人たちが騒ぎ出した。


「なんだと!」

「話が違うじゃねえか!」


村人の一人がジャックに向かって声を荒げた。


「そんなはずはない。何かの間違いだ・・・」


ジャックは驚きで目を見開いた。必ずマクライが伯爵を止めてくれると信じていた。彼はすぐに道の方に出ていった。すると伯爵が側近たちを従えて馬で近づいてきていた。それぞれが鎧をつけ、剣や槍を持っていた。もはや伯爵が武力で抑え込もうとしているのは間違いなかった。


「お待ちください! お待ちを!」


ジャックは伯爵たちを止めようとその前に出て、両手を広げて立ちふさがった。伯爵たちはその前で馬を止めた。


「ジャックではないか? どうしてお前がここにいる?」

「大騒ぎになっておりますが、これは村人たちのたわいもない喧嘩です。止めようとしていたのです。伯爵様。この場は私一人で静めて御覧にいれますので、どうぞここはお任せください。」


ジャックは伯爵の機嫌を取るように笑顔で言った。だが伯爵は(ならぬ)と首を横に振った。


「嘘を言え! もう何もかもわかっておるぞ! この反逆の動きに加担した者は一人残らず成敗してくれる。」

「そればかりはご容赦を。村人たちは反逆する気など毛頭ありませぬ。」


ジャックはすがるように言った。だが伯爵は剣を抜いてジャックに突き付けた。


「邪魔すればお前も斬るぞ。マクライの様に!」

「えっ! マクライ様を・・・」


ジャックは絶句した。育ての親さえも伯爵が手にかけただと・・・まさか・・・。


「そうだ。無礼にも私に意見をしようとしたからだ。斬って捨ててやったわ!」


伯爵が吐き捨てるように言った。その言葉にジャックは気が動転して茫然とした。


「ではな!」


伯爵は馬を走らせ、ジャックの横をすり抜けそのまま村に入って行った。


「あっ!お待ちを!」


ジャックは我に返ってその後を追っていった。


(止めねば。何とかして止めねば・・・)


ジャックは焦っていた。



伯爵たちの一団が村に馬で乗り入れた。カノーテら側近たちは剣や槍を振り回して村人たちの中に突っ込んでいった。


「うわー!」「きゃあ!」


叫び声が上がり、辺りに血しぶきが飛んだ。村人たちは馬に追われて次々に斬られていったのだ。やっとその場に追いついたジャックは、急いで彼らの前に立ちはだかった。


「やめろ! 伯爵様の御命令とはいえ、何をしているのかわかっているのか!」

「ええい! うるさい! どけ!」


側近のカノーテはかまわずに剣を振り回した。ジャックがその剣を避けるとカノーテはまた馬を走らせ、村人たちを襲い始めた。他の側近たちもその後に続いた。


「やめるのだ!」


ジャックも剣を抜いて彼らから村人を守ろうとした。だが多勢に無勢、ジャック一人で防ぎきれるものではなかった。村人たちがまた次々に斬り倒されていた。


「これはいかん!」


それを見た老人は声を上げた。横にいるハンスに、


「ここは危ない。あなたは奥に隠れておるのじゃ。すべて儂に任せるのじゃ」


と言うと、老人は側近たちの前に出て行った。呪文を唱え、


「ビャッコ、キリン。」


と呼び出した。すると赤い服を着た男と2本の剣を背負った男が現れた。


「村人たちを救うのだ!」

「はっ!」


2人は側近たちに向かって行った。ビャッコは側近たちを剣で平打ちにし、キリンは突きと蹴りで倒していった。側近たちは思わぬ強敵にひるんで後ろに下がった。

その様子に伯爵は苛立ち、


「火を放て!」


と命じた。すると側近たちは燃え盛る松明を家々に投げて火をつけた。すると家々が激しく燃えて「ごう!」と火柱が立った。そして火の粉が容赦なく村人たちに降り注いだ。


「逃げろ!逃げろ!」


村人たちは叫びながらそこから逃げて行った。その火の勢いにビャッコもキリンもなす術はなかった。彼らにできるのは逃げ遅れた村人を助けることぐらいだった。

ジャックも火の中に飛び込んで村人を救い出していった。だが多くの村人が犠牲になった。


「ふふふ。いい気味だ。反逆した者はこうなるのだ!」


伯爵は笑いながら満足して引き上げていった。火はまだ強く村を焼いていた。老人が呪文を唱え、強い雨を降らせて火を消していった。しかし後には泣き声と悲鳴が響き渡り、焼き焦げた亡骸が散らばる地獄の様な光景が広がっていた。

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