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第1話 父に会いに行く少年

 そこは王都から離れた人通りの少ない裏街道だった。一人の少年が分かれ道に立ち止まり、どちらに道を行くべきかを迷っていた。彼はヨースチン伯爵領に抜ける道を探しているようだった。


「お困りですかな?」


その少年の後ろを歩いていた老人が尋ねた。その老人は手入れされていない白髪と白いひげを伸ばしていた。


「はい。ヨースチン伯爵領への道はこちらかと思いまして。」


少年は老人の方に向き直った。彼はしっかりした態度できちんとした身なりをしており、その様子から役人の子弟であるように思われた。


「それならこの道でよいと思います。私もそこに行くのです。あなたはヨースチン伯爵領に何かご用があるのですか?」

「はい。父がいるのです。」

「ほう、お父上が。お父上は伯爵様の家中の方ですか?」

「はい。父はジャック・ルーセントという伯爵家の家臣です。私はハンスと申します。」


少年の受け答えはしっかりしたものだった。きちんとした教育を受けているらしく、その態度は丁寧で洗練されていた。


「これは申し遅れました。私はライリーという旅の方術師です。気の向くままに旅をしております。実は昔、伯爵領に行ったことがあって、そこに古い知り合いがいましてな。一度訪ねようと思っていまして。」

「そうですか。私はずっと王都にいましたのでここは初めてです。しかし道がなかなかわかりにくくて迷っていました。」


ここに来るまでハンスはかなり道に迷っていたようだった。その年で王都から一人でここまでやってくるとは・・・何か深い事情があると老人は思った。


「それならともに参りましょう。少しなら道を覚えております。」

「それは助かります。道に迷ったらどうしようかと思っていたところです。」


ハンスはほっとしたようだった。



 ハンスと老人はヨースチン伯爵領への道を進んでいた。その道すがらハンスが老人に尋ねた。


「ヨースチン伯爵領はどのようなところですか?」

「緑豊かでのどかな光景が広がる、空気もすがすがしくてなかなかよいところじゃった。なにより村人たちは幸せそうに暮らしていたのを覚えている。」


老人が答えた。それは先代の伯爵時代の話で、老人はその幸せに暮らす村人の様子を鮮明に覚えていた。しかし今は・・・。


「そうなのですか。それは楽しみです。父からは仕送りと簡単な手紙しか来ないものですから。」


ハンスはヨースチン伯爵領のことをいろいろと美化して想像していたようだった。多分、手紙にはこの地のことについてあまり書かれてはいまい、いや書かなかったのだろう・・・。老人はハンスの父について尋ねた。


「お父上はどんなお仕事をされているのですか?」

「詳しくはわかりませんが、伯爵様付きの指南役の剣士と聞いています。きっと伯爵様の警護も任されているのだと思います。」


ハンスは答えた。指南役の剣士といえば、その家中では一番の剣の使い手が任される役目である。その様な重職にハンスの父は就いているようだった。


「それは、それは。お父上は御立派な方なのですな。」

「はい。小さい頃に母を失くした私は、物心つく前から王都の親族に預けられていたのでよくは知らないのです。しかし周りの方がおっしゃるのには剣術に優れ、学識があり、胆力があると聞いております。」


ハンスは言った。その言葉には父を誇りに思う気持ちが見えていた。


「それではお会いになるのが楽しみですね。」

「ええ。」


ハンスはうれしそうに微笑んだ。

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