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本能寺は炎上した、光秀のSNSも炎上した

作者: 青木のう

☆☆☆☆☆は場面転換です

 天正十年六月二日、早朝。京本能寺にて凶事あり。

 織田家重臣惟任(これとう)日向守(ひゅうがのかみ)――明智光秀の突然の謀反によって、天下に覇を唱えていた織田信長、そして息子にして後継者である織田信忠は自刃(じじん)へと追い込まれた。


 織田家家中である高橋(たかはし)平之助(へいのすけ)周忠(ちかただ)は、かく凶事の報を備中国(びっちゅうこく)にて毛利勢と対陣する重臣――羽柴秀吉に伝えるという命を受けて、馬を乗り継ぎ乗り継ぎ必死の思いで昼夜を問わず疾駆した。



 ☆☆☆☆☆



「は、羽柴(はしば)筑前守(ちくぜんのかみ)様にご報告!」


 尋常あらざる様子で陣中へと駆けこんで来た高橋周忠に羽柴陣中の者一同は驚愕したが、一杯の水を与え落ち着かせた後秀吉の下へと案内した。


「こ、これに……!」


 周忠は自身の衣服に織り込んでいた密書を震える手で取り出し、小柄な男――秀吉へと渡す。


「うむ。人払いを、官兵衛だけ残れ」


 秀吉は周忠の様子を見てただならぬ報告であると判断し、帷幄(いあく)の中から出ていくよう周囲の者に指示を出す。


 秀吉の他に一人残った杖をついた男、あれが噂に聞く知恵者の黒田官兵衛(くろだかんべえ)か。


「ふむ……、ふむふむ……」


 書状を読む秀吉は不自然なほどに落ち着き払っている。

 あまりの出来事に茫然自失となっているのか、いやそういう風でもない。


「大殿が――織田信長様が惟任(これとう)日向守(ひゅうがのかみ)――光秀のやつめに弑逆(しいぎゃく)されたと!? ……まあ知っておったが」

「ご存じでしたか!? まさか(それがし)の前に到着していた伝令が!?」

「いいや、ここに到着したのはお主が一番最初じゃ」


 ならば何故。もしや羽柴様も明智に与する者かと周忠の背筋が寒くなった時、秀吉は懐から板状の機械を取り出した。


「ほれ、長岡兵部大輔(ひょうぶたいふ)からのNINE(ナイン)で知った」


 ――()()()だ。


 緑色のアイコンが特徴的な通信アプリを表示した画面を見せてくる。

 確かに長岡兵部大輔様からのメッセージで『光秀ちゃん謀反起こしたみたい。マジ勘弁』とある。


「それにほら、ウィンスタにもな」

「左様でございます秀吉様」


 官兵衛はそう言って手に持つタブレットの画面を見せてくれる。そこには――、


『クソ上司が宿泊している寺を焼き討ちしました! 新政権がんばるぞ! #朝活 #クソ上司にさよなら #謀反のある生活 #応援してね #お味方募集中 #朝廷公認』

『心強いお方、旧若狭国(わかさこく)守護武田元明様がお味方に! 続々とお味方が増えています! #若狭国守護 #名門 #お味方募集中 #今なら一国プレゼント #長岡筒井も合流予定』


 ――といった投稿内容の明智光秀のウィンスタアカウントがあった。


「なるほど……、いえお待ちください。このウィンスタによらば光秀は続々と味方を集めているとのこと。……不味いのでは?」


 出過ぎた発言だとは思うが言わずにはいられなかった。

 光秀が畿内を固めればそれだけこちら側は手出しをしづらくなる。

 そうなれば信長様の仇討なぞ遠のくばかりだ。


「心配するな、さっき見せたように長岡は光秀につかん。それにワシらは光秀のトゥイッターの裏垢(ウラアカ)も特定しておる。のう官兵衛」

「左様でございます秀吉様」


 ――トゥイッターの裏垢を!?


 さすが天下に名を轟かせる羽柴秀吉。諜報力においても敵う者はいないということか。

 官兵衛は再びタブレットの画面を周忠に見せる。


『<みっちゃん@ブラック社畜>クソ上司に対する不満をつぶやきます』

『酷使酷使酷使、今日も超絶ブラックです #クソ上司のいる生活』

禿(はげ)って言う方が禿じゃボケ』

『もう無理。こっちが懸命に取り持ってきた外交潰すとかなんなん?』

『護衛少なく寺で寝てて草。ガチで謀反起こします』

『はー。信用していたやつらは援軍に来ねえし。長岡筒井早よ』


 なるほど。ウィンスタでは好調なように見せかけて、その実情は厳しいのかと周忠は得心がいった。

 苦境にある者ほど見せかけは綺麗に取り繕うのだ。


「……というように、光秀の奴は仲間集めに苦慮しておる。そしてその間隙(かんげき)をついてこちらの策略は始まっておる。のう官兵衛?」

「左様でございます秀吉様。既に匿名掲示板を用いての光秀のウィンスタの炎上工作、トゥイッターにおいては複垢により信長様が生きているという情報の拡散を行っております」


 ネット上はみるみるうちに光秀政権に対する否定的なコメントで埋まっていく。

 曰く、『光秀は独裁者』『黒幕は足利』『禿に政権は任せられない』『信長は生きており蒲生氏に保護されている』などなど……。虚実入り混じった情報の拡散は早い。


佐吉(さきち)らにはもう道中の手配を命じてあるし、権兵衛(ごんべえ)茂助(もすけ)らには兵たちの統率を命じてある」


 部下への的確な指示。巧みなSNS(エスエヌエス)戦略。これが羽柴筑前守の手腕か。

 周忠は目の前に座る小男が何倍にも大きく見えた。


「して周忠よ、お主はなんで馬を走らせてきたのじゃ? 連絡事ならNINEかメールで良かったであろう?」

「は……、某は下級の士にて()()()()しか持っておりませぬ故……」


 ガラケーすら持たせてもらえない下級の士である周忠にとって、スマホなぞ夢のまた夢。

 お勤めを果たすには()()()()()()()()()()()()


「ポ、ポケベル!? 逆にレアじゃな。のう官兵衛」

「逆にレアでございます秀吉様」

「そ、そう落ち込むな。此度の知らせの褒美にスマホをやるから。頑張って来たわけだし、良いよな官兵衛?」

「左様でございます秀吉様」

「ス……スマホを!? ありがたき幸せ」


 人たらしと後世に伝わる秀吉は、人の欲しい物が手に取るようにわかった。

 周忠はNINEスタンプなるものを送ってみたいという、心の中で湧き上がる喜びをかみしめた。


「よし! それでは急ぎ京へと戻り、逆臣明智光秀を討つ!」


 かくして秀吉の狙い通り光秀のSNSは大炎上した。

 秀吉は山崎の戦いにてSNS炎上により味方集めに苦戦した明智光秀を破り、その後の勢力争いをも制して豊臣の世を創った。


 しかしその裏にSNSを駆使した戦略があったことはあまり知られてはいない。


 ちなみに石田三成がNINEグループからハブられたりして関ヶ原の戦いが起こるのは、これより少し後の時代である。

読んでいただきありがとうございます!

まああるあるとは思いますが私も書いてみたくて……

感想、評価いただけると嬉しいです!


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― 新着の感想 ―
[良い点] だから謀反理由のデマが飛び交っているのかw
[良い点] あーなるほどー、戦國MYUTUBERって有名ですもんねー。 ······。 もしも戦国時代がSNS時代だったらってことで、戦○自衛隊みたいな発想でおもしろかったです。
[一言] 某Hさん「同僚が社長の悪口を言ってたから、つい同意しちゃったんですよね。それがまさかあんな事になるとは……これを機に退職して、のんびり余生を過ごすつもりです」 ※プライバシー保護のため音声…
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