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二週目勇者は世界を救わない  作者: 神崎シノ
3/9

スケルトンダンジョン①

勇者は夢を見る

勇者は強くなる為に

かつて過した迷宮へ挑む

夢を見た。夢と分かる夢。明晰夢というやつだ。夢の中では黒髪の少女が倒れている……。白い服を鮮血で染め、虚ろな眼をこちらに向けている。

「勇者……。お前は……自由に生きろ。我は……もう無理みたいだが。」

「おい、意識をしっかり持て。逝くな!お前は魔王なんだろ?第二第三形態にでもなって見ろよ!」

「はは……お前は……。本当に……面白いことを言う。」

「お前がいなくなったら狼鬼族はどうする?他の魔族はどうするんだよ!」

「……大……丈夫。我ら魔王……は周期的に……現れる世界の機構……のようなもの。お前も長く生きれば……また会える。」

「人間の寿命なんざよく知ってんだろ!」

「はは……そう……だったな。……勇者……。我を倒した救世の勇者……。もし、お前が死ぬような事が起これば……それが理不尽なものなら……この……ロザリオを使え。」

「クソっおい!しっかりしろ!目を覚ませ!死ぬんじゃねぇ!」


そう、俺の腕の中で少女は……魔王は死んだ。俺は……彼女を殺した。心優しき魔王を……。この世界の人間の都合に振り回され、洗脳され……。この血塗られた手で……。彼女を……。魔王を……殺したのだ。

「……。」

夢見は最悪。またも汗が滝のように流れていく。日はまだ昇っていないというのに。

『魘されていた。』

「悪ぃ起こしたか?」

『いいや。私は夜に強い種族。夜は私の時間。』

「あぁそう。なんか様子が違うな。」

『大丈夫?』

「まぁ?どうかな。」

『どんな夢?』

「昔の夢だ。遠い昔俺が傀儡だった頃の弱い記憶だ。」

『……そう。』

「……少し出てくる。鍵かけて寝てろ。」

「……。」


夜。街灯のないこの世界の夜は本当の闇に落ちる。せいぜい衛兵が夜回りをしているくらいでこの時間に起きているようなものはいない。


夜に生きるものでなければ。


「よう。良い夜だな」

宿を出てから西の城門に向かって歩けば気配もまたそちらへ向かう。このまま城門に向かえば衛兵に気づかれる恐れがある。故に声をかけた。

「おっと。返事は死ねってか」

殺意と共に投げられたナイフを槍で弾き飛ばすと気配に向かって肉薄する。

「お前、何もんだ?俺が恨みを買いそうなのはあのモヒカンクラブの三人くらいのもんだが?」

もしくは王族かだな。

振り抜いた槍はするりと躱され仕切り直しとなる。

「さすがに雇い主は言えねぇか。まぁいいけど。」

ここからは殺意と殺意戦いだ。他に何も割り込むことは無い。


突き、払い、切り上げ。お相手は短剣。リーチに差があるが技量にも同じように差がある。相手の方が上手だ。徐々に切り傷が増えていく。毒はどうやら塗られていないようだ。助かった。

数回の切り結びで相手の力量を知る。このままでは勝てない。そう、以前の俺なら負けていただろう。何も知らない俺なら。

俺はもうこの世界の常識がどうなろうと関係ない。だから全力で改変する。

まずは目潰し。閃光弾をストレージから取り出し発動させる。眩い光で視界を奪ったあとは命を狙う。ペンシル型に圧縮した爆裂魔法を内包した手榴弾相手の服に引っ掛け、槍先であえて脇腹を狙う。

「ドゴンッ」

「グフッ」

立て続けに相手は未知の攻撃に晒され戸惑ったことだろう。それで致命傷を負わないところは流石としか言えない。


「おい、今の音はなんだ!」

「向こうからしたぞ。」

クソっ魔法陣を減らして爆音を抑えたのに気づいた奴がいたか。

「ちっ。おいお前。次は殺してやる」

「……勇者……。どうやら見くびっていたようですね。次は確実に殺します。あの人の為に。」


夜闇に紛れ、帰路に着く。転移魔法陣で居室に帰っても良かったがシルキーを起こす可能性があったので気配を消して、着替えてから床に戻った。運動したせいかすんなり眠れそうだった。

明日はシルキーをダンジョンに連れていく。今回は留守番をさせたが他の連中が俺を狙って彼女に危害を加える危険がある。強さが身につくまで……いや、一人で生きていける様に教える必要があるだろう。

予定を考えると睡魔がやってきて、気持ちよく意識を手放した。


翌朝。早めに俺は叩き起される事になった。

「……。痛てぇんだが……。」

『……。バカ!何があったの!?説明して』

朝イチからグーでボカスカ殴られて起床……なんて酷いものである。

「痛てぇって」

『だって……だって……こんなに血が……』

明るい室内で見てみれば、確かにびっくりするほど血が着いている。

「俺の血じゃねぇよ。取り敢えず殴るのをやめろ。」

「……。」

ムスッとした表情。明らかに不機嫌オーラが出ている。

「お前なぁ……。今日はダンジョンに行く準備の予定なんだが……先が思いやられる……。」

『ダンジョン?』

「あぁ。まずは防具だ。次に武器。取り敢えず店に行こう。」

『奴隷に武器を持たせる気?正気?』

「お前、奴隷って意識あったんだな。というか奴隷だったのかよ。それなのにあんなにグーで殴ってきたわけ?」

『あ……うぅ……。』

「そもそもお前、俺の奴隷でも何でもないだろ。何も気にすることねぇじゃん。」

『……。確かに……。もっとグーで殴れば良かった」

「それもそれでどうかと思うがな」

武具屋に向かい、防具と武器を見繕ってもらう。

「おいあんた。あの子の主人か?」

「あ?あぁ。」

正確には主人ではないがまぁその辺は言わない方がいいだろう。

「あの子は奴隷なんだろ?武器なんて持たせて大丈夫なのか?」

「逆に聞くが武器を持たせないでどうやって自分の身を守るんだ?」

「なっ戦わせるのか?」

「俺は冒険者だ。ダンジョンに潜る。その中で何があるか分からないだろう?たとえ俺が死んだとしてもあの子が生き残るかもしれない。なのに自分を守る手段もなくては死ぬのが先か後かの違いしかなくなるだろうが。」

「……。普通そんな危険なところに行くのに奴隷を連れていくのは奴隷を使い潰して弾除けにする貴族くらいなもんだが……。まぁわかった。大事な奴隷なんだな。なら惜しまず協力しよう。」

大事かと聞かれれば別にそうでも無いんだが……。まぁ言ったところで伝わらないだろう。


しばらくしてシルキーは防具を選んだらしく、武器まで整えた。もう傍目から奴隷と分かるものは腕に入れられた墨くらいのものだろう。それも外套と長袖で隠せる様なものなので問題は無い。

『どう?』

「いいんじゃねぇの?お前スキルとかあるのか?」

『むぅ……。あるよ。レベルは十二。』

「そうか。なら自分の好きなスキルを伸ばせばいい。俺から何か取れとは言わねぇから。」

『何故?』

「俺の方針だ。」

『……。そう』

「さて、今日のダンジョンだが、冒険者成り立てでもクリア出来るようなものだ。主なモンスターはスケルトン。打撃武器か刺突武器があると楽なダンジョンで平均レベルは十五。暫く周回する事になるだろうから気を引き締めるように。」

『うん。』

ダンジョンの入口に誰かがいることも無く。淡々とスケルトンを駆逐していく。

サクサクと先に進み、ボスの部屋前で立ち止まると気配探知に反応があった。

「そこにいるお前。何してるんだ?」

「やぁ……どうも。最近この辺に優秀な冒険者が現れると聞いてね。張ってたんだけど。君、若いのに探知系のスキルを持っているのかな?」

「どうだかな。お前はどうなんだよ。」

「失礼。それで?君が最近この辺に来る冒険者でいいのかな?」

「冒険者なんて山のようにここに来んだろ一々聞いてるのかそれ」

「仮に君が優秀な冒険者ならば私は君をパーティに誘いたいんだ。優秀な人材はいつでも欲しいからね。」

「胡散くせぇ話だな。どこのパーティだよ」

「『宵闇』と言うんだが……。」

「あっそ。興味無いね。」


話を一方的に終わらせてボス部屋の扉に手をかける。するとスカウト男は姿を現し駆け寄ってきた。

「は、話をさせてくれよ。」

「逆に聞くが俺がお前の話に乗ることになんの旨みが有るんだ?」

「わ、我々のネームを使えば国内でのいざこざにある程度対応出来るぞ?」

「興味無いし。つかいざこざなんてまだ起きてすらいない。起こす気もない。」

いざこざで突っかかって来るなら皆殺しにでもしてやる。

「ま、まぁ取り敢えず話を聞いてくれよ。」

「話なら聞いただろ?」

「もしかして君、『宵闇』知らない?」

「知ってる。大手のギルドの中核パーティだろ?討伐、採集、護衛と何でも引き受けるオールラウンダー。俺みたいなのに声掛けてねぇでもう少し上のダンジョンに行ったらどうだ?」

「……。この街で活動を始めて一週間足らずでよく調べてあるね。私は君のその調査力も買ってるよ。」

『へぇ。知らなかった。』

『今後の為にもその辺の情報は仕入れるようにしとけよ?情報は生命線だからな。』

『……うん。』

「俺に関わるな。ろくな事がないぞ。」

「……そう思うかい?()()()

「ってめぇ……」

「何故勇者が冒険者の真似事をしているかは聞かないよ。何かあるんだろうけどそれは私の預かり知らぬところだ。」

「お前……自分が何を言っているのかわかってるのか?」

場合によっては殺すしかない。殺意を持って睨む。しかし、男は飄々と殺意を受け流すと会話を続ける。


「勿論。君の秘密を私は持ってる。ここはダンジョン内。君に殺されるかもしれない。覚悟はしてあるよ。」

「命を懸けてまで俺を誘う理由はなんだ?」

「楽しそうじゃないか。君のような冒険者他にはいないだろ?皆生活や憧れから冒険者を目指す。だが、君は真逆だ。何かからの逃避で冒険者になった。山奥に逃げ込んで静かに暮らすとかそんな未来だってあるのにわざわざ命を削る職に就くのはどうして?」

純粋な疑問に当たった子どもみたいな顔をしている。


「……お前……相当狂ってるな。」

『怖い……。』

「お褒めの言葉をどうも。だからさ、宵闇に是非来てくれよ。」

「……関わるな。ほかのメンバーに会わねぇなら……。」

「決まりッじゃあササッとボスぶっ飛ばしちゃおうか。」

「お前も来んのかよ」

「私だって少しは戦えるぞ」

『……ねぇ、この人……なんなの?』

『宵闇のギルドマスター「紅蓮術士」ヤマト・キリツグだな。人類最強レベル。』

『じ……人類最強……。』

シルキーがちらりと背後を見遣れば口笛を吹いて歩く人類最強がいた。

「……何かな?綺麗なお嬢さん。」

「……。」

「こいつは訳あって話せねぇんだ。」

「そうなのか。まぁいいんだけど。しっかし腕がなるね!」

「お前……。ここは初期クラスのダンジョンだぞ?」

「は?君は……一体何を?確かに上の方はお気軽ダンジョンだが、ここは最深部。最高難度を誇る霊廟だが?」

「は?」

『レベル……すごい勢いで上がったのは……そのせい……?』

「え?いや、そんなはずは……?え?」


スケルトンなんてコアぶち抜けばただの骸骨だろ?

「君……レベルは?」

「一五二……。」

『私さっき八六になった。十二から』

「えぇ……。」

ここに来るまでシルキーへの攻撃は無かった。大体俺がヘイトを稼いで視点を固定し、シルキーが魔法攻撃。俺が槍でコアをぶち抜くだけだった。


「え?俺最初にここで修行させられたぞ?え?あれ?」


間違いない。王城にいる白髭の爺さんにここに投げ込まれ、一週間近くダンジョン暮らしをする羽目になった。


「ここのボスは魔法攻撃と即死攻撃、使役魔法を使う気をつけて。」

『……。行くよ。』

「あーはいはい。」


前回の記憶が正しければ数十分で終わるバトルの幕が上がった。

次回は9/27

夕方頃かと思われます

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