「何を知ってるって言うんだ」
5月11日
エマが心を開いてくれた。安堵する一方、腹が立ってしょうがないことがある。
エマの幼馴染みの二人のことだ。
エマと長い時間一緒にいるだけで、彼女の何を知っているって言うんだ。
何も分かってやしないんだ。無邪気に他人を見下している感じも苛つく。
本当に俺のことが好きなら、簡単に部屋を漁ったりキスをねだったりしないはずだ。
くそむかつく。
余計にエマを甘やかしてやろうとの決意を固くした。
でもエマは彼らをどこかで許しているみたいだ。
おしおきリングを渡したけど、使わなかったようだし。
これが幼馴染みの妙か。正直羨ましい限りだ。
まだ俺はどこかでエマとの間に壁を感じている。
彼女は、まだ深いところで俺を信用していない。
下手したら、あの幼馴染みたちよりも。
それが最近寂しいのだが、言えば余計に信用の浅さが露呈する気がして、何も言えなくなる。
俺の方は彼女をずっと見て来たけど、彼女の方は俺と会ってまだ日が浅いのだ。
焦らないようにしよう。
本来この現状だけでも、充分なのだから。
俺の体が気になっているエマ。
人間にとっては、そういうことはとても大事なのだろう。エマの質問で、改めて思う。
人間と魔王の、肉体の違い。
分裂の症状が現れるにつれて、こっちも色々変化して来ているんだが、まだ説明するには時期尚早か。
現状ああいった説明しか出来なかったが、エマはどう受け取ったんだろう。
人間に気に入られるように出来ている、魔王の体。
きっと、俺の体も分裂の症状が進むにつれ、エマの好む体になって行くのだろう。
少し不安に感じる。おかしな衝動が、体の芯を突き抜ける時があるのだ。
人間の男は絶えずこの衝動と戦っているのか?
押し倒したいとか触りたいとかねじ込みたいとか。
人間の男とは、何と哀れな生き物……
でもこの感じを彼女が好きになってくれるのだとしたら、衝動に任せるしかない時も来るのだろうか。
あーあ。何か嫌だな。
でもエマに嫌われたくないし仕方ない。
今から緊張するから、過去の魔王の日誌でも漁って研究しなきゃな……
でも、そんなこと懇切丁寧に書いてくれてる魔王の日誌なんてあったかな?
もし俺が成功した暁には、未来の魔王たちのためにきちんとしたためておくか……