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第1章12  【憤怒】

 林の中は木々が生い茂り、日差しを遮っているためかなり暗い。そのため体感温度もガクッと落ちて肌寒い。


 三角形を作るような陣形で進み続けている。先頭に俺がライフルを構えながら歩き、右手側後方にはコトハが弓を持ち、その反対側にはグスターボが備える。


 皆が黙り、足音も立てないように静かに林を歩く。1時間以上は歩いただろうが、鳥のさえずりが響き渡るだけで、怪物らしきものは見当たらない。たまにガサっと物音がして、慌ててライフルを向けるとウサギのような小動物で安堵する。


 だが1つ確かなことがある。林の入り口ではほのかに感じるほどであった何かが焼ける臭いが徐々に強くなってきたことだ。着実にそこに近づいている。だが、まだ奴らを確認できない。


「なんか独特な臭いだな。良い香りとは言えねえ。木が燃えてる臭いでもねえ」


 グスターボがつぶやく。確かにその通りで、鼻を突くその臭いは直感的に不快感を抱く。できれば何かで鼻を覆い、自分の体内に入るのを防ぎたい。


「もう出口みたいだね」


 コトハが先を指さす。暗く、ジメジメとした林であったが、目の前に光が燦々と輝いている。


「結局林はなんでもなかったか」


「でも奴らに近づいてきてるのは間違いねえぜ。思ったより早かったな。林の先に何があるか、だ」


 警戒は怠らずに歩を進める。林の出口で止まり、木々に隠れて先の様子を見る。


「トシヤ、何か見える?」


「村かな。建物が何棟か見える」


「村? そんなはずは・・・・・・。ここあたりはどこの国の領土ではないはず。人が住んでたら、私たちも把握しているはずだけど・・・・・・」


 1キロほど先だろうか。平原の中にポツポツと何かが見える。俺の言葉を疑ったコトハも木から顔を出して確認する。


「本当ね。でも誰がこんなところに住んでいるんだろう」


 スコープを覗き、さらに確認をする。建物からちらほらと何かが見え隠れする。人ではない。緑色の奴らだ。


「怪物たちだ。5体は見えた。建物は全部平屋で4棟。ワラでできているのかな。結構簡素な造り。中にもいると思う」


「焦げてるような臭いの正体は分かった? パッと見て煙が上がっているようだけど」


 さらに周辺をよく見てみる。確かにたき火のようなものがあった。だが規模は大きい。火柱が平屋の屋根あたりまで上がっている。その周辺には何かが転がっている。よく目を凝らす。その何かに思わず声が出た。


「人間だ」


「人間!」


 コトハとグスターボが同時に驚く。予想していなかった自体に皆が困惑する。


 よく確認すると、その人間たちの数は10を超えている。横たわっていたり、あるいは火の中にいたり。生きているものはいない。陵辱され、殺されたのどろう。


「トシヤ、ライフルを貸して」


「いや、見ない方がいいと思う」


 そこにいた人たちは皆女性だった。衣類を剥がれ無造作に放られている彼女たちを見て、腹の底からふつふつと怒りの感情が湧いてくる。


「許さない・・・・・・。絶対に許さない」


 俺からライフルを奪ったコトハが涙を拭いながら唇を噛んだ。ライフルを地面に置き、背負っていた弓を持ち、右手を背中に回して矢筒から矢を出す。


「エンハンスメント」


 コトハが呪文を唱えると、木製の弓や矢が金色に光る。今にも射そうなコトハをグスターボが強い口調で止める。


「やめろ」


「やめない!」


「いいからやめろ!」


 グスターボが足早にコトハに寄り、強引に弓を奪う。弓の輝きが失われ、元の何の変哲もないものへと戻った。


「もう生きているやつはいねえんだろ」


「だからなに? あのまま怪物たちの好きにさせろって言うの? 私はあいつらを全部殺す。止めないで」


「何も止めはしねえ。だが、怒りに任せて闇雲に攻撃したところで意味はねえ。1度冷静になれ。まずは相手のことを知ってからだ。全部で何体いて、どこにどれぐらいいて、親玉はどれか。それを全部把握して、作戦を立てて実行する。人間があんな風にされて、何も思わない訳がねえ。許さねえって思うのは嬢ちゃんと一緒だ。だが、感情だけで動くのは怪物と一緒じゃねえか。俺らは人間だ。堪えろ」


 グスターボが真っ直ぐコトハを見つめる。コトハは木に隠れて泣きじゃくった。その悲痛な声を俺とグスターボは黙って聞いていた。


「なあ、ユティンの命令の解釈を変えてもいいか? 親玉が分からなかったので全部倒してしまいました、とか」


 それから数分が経った後、グスターボに問いかける。俺は怪物たちを監視し続け、奴らの陣容はなんとなく把握できてきた。日が落ちかけて来ていて、夜行性の怪物たちの行動が活発になる時間帯に差しかかってきた。


「指揮官の命令に背くのは規律違反だぞ。軍法会議もんだぜ。やりてえことは分かるけどな。まあ俺らの隊長に頼んでみるとしようぜ」


「どういうことだ? ユティンはいないぞ?」


「超貴重品ではあるがこの際使うしかねえな。石を使って小言ぐらいは後で言われそうだが」


 グスターボがズボンのポケットに手を入れ、コンパクトのようなものを出す。開くと1面に鏡、もう1面には丸い溝があった。さらにポケットから石を出し、その溝にはめる。すると、コンパクトが光った。


「これは魔法鏡だ。簡単に言ったらビデオ通話ができる代物だ。これでユティンと話す。今は呼び出し中ってところだな」


「そんなものがあるなら、密に連絡が取れるじゃないか。ユティンたちが接敵したときも狼煙を上げなくても済む気がするんだけど」


「そううまい話ではねえ。こいつを使うには魔法石が必要なんだが、これがかなり珍しい。アリラスでも5個しかない。それを1回で1個消費する。念のためと持たされたのだが、まあ仕方ねえだろ。あと3つしかなくなるが、なんとかなるだろ」


「魔法石ってそんなに貴重なのか」


「ああ。マナを使い切った人もこれがあれば一瞬で全快する。瀕死の人間もこれを介して治癒魔法をかけたら治る。なんでもできるな。それに数も少ない。だから価値はとんでもなくある。これを売れば3代が一生遊んで暮らせるほどな」


 グスターボが説明をしてくれていると、再びコンパクトが光った。「どうしたのですか」とユティンの声が聞こえ、鏡にはその姿が映っている。


 俺とグスターボで現状の報告をする。一通り話し終えたところで、ユティンが口を開いた。


「一切の損害を出さずにやりきれる保証はありますか?」


「敵の数は15です。俺とコトハの弓で長距離攻撃をすれば問題ないかと」


「分かりました。コトハを呼んでください」


 ユティンの言葉に応じ、木にもたれて体育座りをして顔を伏せているコトハに寄り、魔法鏡を持っていく。


「コトハ聞こえますか。話は聞きました。同じ女性が残酷な仕打ちを受けたことに対して、私も憤っています。殲滅を許可します。ただし3人は無傷で帰ってくることが絶対条件です。本来は敵の指揮官を叩き、指揮系統を失わせることが目的です。深追いする必要もありません。作戦変更は私たちのエゴです。冷静さは常に失わず、少しでも危険と感じたらすぐに戻ってくること。怪物たちを逃すことより、あなたたちを失う方が大きな損害です」


「ありがとう」


 コトハが一言だけ答えた。真っ赤になった目で魔法鏡を見る。これまで優しげな表情ばかりだったコトハとはまるで別人と思うほど、殺気に満ちていた。


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