第1章10 【追撃準備】
「私たちは怪物たちを侮っていたのかも知れませんね」
ユティンが怪物の死体を見下ろす。120近い怪物の集団を殲滅させることに成功したが、後味はよくない。
俺が後方で観察をしていた怪物を狙撃することに成功したが、その死体の確認に行くと違和感が残る。まず外見が、他の怪物と違った。一般的な、というより、普通のゴブリン族は下半身を布切れで覆い、半裸の状態であったが、この最後の1体だけは、上半身のも服を着ていた。ランニングシャツのような袖がないタイプで、おそらく元は白色だったのだろうが、汚れで黄ばんでいる。
「1人だけ見た目が違うということはリーダー的立ち位置なのかな?」
コトハがあごに手をやる。1体の死体を俺、ユティン、コトハ、アイザックで囲む。
「元々怪物というのは集団行動みたいな動きはしないのか?」
「そうですね。何も考えずにただ突撃してくるものだと思っていました。実際、私が戦闘に立ったことが何度もありますが、今回のようなリーダー格と言いますか、そういうのはいませんでした」
「さっきコトハとも話したんだけど、これは俺たちの戦力を見極めるものだったという可能性もあるんじゃないか」
「なるほど、それはあり得なくもない。怪物の頭が悪いという先入観が我々の発想を縛っているのかもしれない」
腕を組むアイザックがうなずく。
「トシヤの仮説が正しかったとしよう。となると相手はどういった行動に出るだろうか」
「私が思っただけだけど、戻って来ない仲間の様子を確認に新しく隊を送ってくるとか?」
「怪物たちの集団が組織化されていたとしたら可能性はある。トシヤもコトハも憶測でしかないが、看過できない問題なのは間違えないだろう」
「では、私たちは引き続き村を拠点に防衛に努めるとしましょう」
「守るたけではなくて、攻めるのもどうだろう」
ユティンの言葉を受け、提案をする。「どういうことですか?」と尋ねるユティンに対して、説明を続ける。
「ほとんどの怪物は知能が低いというのは分かった。それはユティンも言っていたことだし、さっきの戦い方を見てれば分かる。なら、怪物全体と一気に戦うんじゃなくて、その親玉を倒せさえすれば、向こうの体制が崩れて叩きやすくなるんじゃないか。いくらこっちの戦力が整っているとはいえ、多少なりとも消耗はするはずだ。なら効率よく倒そう」
「確かにトシヤの言うとおりではあります。でもどうやって向こうの指揮官を攻撃しますか。接近することを悟られず、ピンポイントで攻撃なんて。コトハの弓でも簡単ではないですよ……。あっ、もしかして」
ユティンが察したらしく、言葉の途中でこちらを見る。
「トシヤ、あなたがやるのですね」
「そう。近くに怪物の拠点があるだろう。そこに潜入して、この銃で親玉を撃つ。長距離でばれずにできれば、向こうは慌てて撤退するはず」
「いい案ではある。だが単独で行くのは危険すぎる。かと言ってこちらの防衛布陣を敷くのに人員を残す必要がある」
「なら私が行くよ。トシヤと同郷だし、トシヤの分からないこととかに説明してあげられるし。コミュニケーション取りやすい方がお互い楽でしょ? あとは補給でグスターボがいれば。最低3人で十分だと思う」
アイザックの懸念をコトハが解消する。確かに俺が異世界転移してきたことを知っているコトハやグスターボなら、元の世界とこちらとの違いを教えてくれるし、ライフルへの理解も深い。狙撃地点の決定など、作戦を立てる上ではスムーズに進められるだろう。
「では3人に任せます。少数なので無理は絶対しないでください。少しでも危険と感じたらすぐに戻ってきてください。私たちは村で迎撃準備を整えます。時間はありません。すぐに出発してもらえますか」
一連の会話を聞いていたユティンが指揮官として判断。怪物たちのリーダーの暗殺が実行されることになった。
「了解」
俺とコトハは同時に返答し、ユティンへ敬礼した。