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【プロローグ】

~~某国、某所~~


「目標接近。数はおよそ120」


 隣で伏せている女性が淡々と報告をする。「OK」と返事をしてスコープを覗き込む。


 一心不乱に走る奴らを視認する。相変わらず醜い姿だ。反吐が出る。こんな奴らの思い通りには絶対させない。


「いい?小川を越えてからが始まりよ。それまで引きつけて」


「分かった」


 ライフルのレバーを引いて、射撃の態勢に入る。離れた高台で伏せている俺らに、奴らは気づいていない。


「後は任せたよ。カウントダウンよろしく」


 女性がそう肩を叩いて後退した。俺はスコープを覗き続けて、奴らを追う。


「戦闘態勢!」


 女性の短く鋭い声が背中越しに聞こえる。それに呼応するように、各々が弓をつがえる音が聞こえる。


「20!」


 俺がそう発すると、後ろの部隊がぎゅっと弓を握る手に力が入ったのが伝わる。


「19、18、17、16、15」


 と淡々とカウントダウンをしていく。思っていたよりも自分自身が落ち着いていることにホッとする。命を危険に晒している状況であるが、これなら冷静な判断や行動ができそうだ。


「14、13、12、11、10」


 奴らを捉え続ける。タイミングは完ぺきで、20から減っていく数字が0になるのと同時に奴らの先頭が小川を越える。


「9、8、7、6、5」


 いよいよだ。あの少女や村を守るため、俺は戦う。


「5、4、3、2、1」


引き金に指をかける。奴らが小川を越え始めたのを確認する。


「撃て!!!!!」


  俺はそう叫びながらライフルから射撃を開始する。「プシュン」と消音された銃声と、風を切る弓の音が鼓膜に響く。



* * * * * * * * * * * * * * * * *


~~現代日本、某県某所~~



 突然身体が飛び跳ねる。何事かと周囲を見渡すが、何も変わりはなく、俺はビルの屋上で伏せていた。


「お前任務中になにボーッとしてるんだよ。人の命がかかっているのに、たるんでるってもんじゃねえぞ」


「んなこと言う奴はガムなんか噛んでねえだろ」


「うるせえ。噛んでた方が集中できるんだよ」


 観測手の佐藤が顎を動かしながら双眼鏡を覗いている。


「なあ、俺今寝てたか?」


 さっきまでのは夢だったのだろうか。俺はどこか丘のようなところでライフルを構えていた。そして隣にいたのは佐藤ではなく、女性だった。


「寝てたらそれこそぶっ飛ばすで済まねえよ」


 佐藤は視線を動かす返事をする。「変なこと言うんじゃねえよ」と釘を刺される。


 人間は起きながら夢を見るのだろうか。あの時の俺は確かに何かの使命感を持って動いていた。


「アルファワン。聞こえるか」


「こちらアルファワン。聞こえます」


 本部からの無線に佐藤が答える。


「発砲許可が下りた。目標を確認次第、無力化しろ」


「了解」


 ターゲットとされる車の車種、ナンバーを伝えられる。それを頭に入れ、該当車両を探す。くちゃくちゃとガムを噛む佐藤が再び話を逸らす。


「しかし、いくら特殊部隊とはいえ、警察がこんなことするようになるって、俺らが子どものときの時代では考えられねえよな。テロを未然に防ぐための行動を取れるようになったんだからな」


「いいからもう無駄口を叩くな」


「分かったよ」


 佐藤が間抜な返事をするが、すぐに声が変わり「当該車両を確認」と無線で呼びかけた。


 俺もその車両をスコープで目視。車のナンバーを読み上げ、佐藤と確認する。


「車が停まって、目標が降りてきたら迅速にな」


「OK」


 車が速度を緩め、停まる。それと同時に佐藤から目標までの距離や風向き、風速など狙撃に必要な情報が知らされる。


「了解」


 そう返事をし、射撃体勢に入った瞬間。ドクンと心臓が大きく脈打った。緊張しているのかと一瞬思ったが、再び心臓の大きな動きに否定される。


 ドクン、ドクン、と心臓が胸から飛び出るかのように脈打ち、思わず右手で抑える。


「おい、北上どうした」


 異変に気づいた佐藤が声をかけるが、耳も徐々に遠くなっていく。


 視界がぼやけ始め、呼吸が苦しくなる。


「こちらアルファワン! こちらアルファワン! 緊急事態発生!」


 佐藤が無線で必死に連絡を取っているのが、かろうじて分かる。


 ぼやけた視界が端から暗くなっていく。尋常じゃない心臓の動きがさらに激しくなり、呼吸ができなくなる。


「あ・・・・・・あ・・・・・・」


 ノドを通して発せられるのは声になっていない。


 うつぶせの状態から無意識に仰向けになっていた。


なんだこれは。死ぬのか。


 そう思いながら、左手を空へと伸ばす。右手では相変わらず胸を押さえるが、収まる気配はない。


「あっ」


 大きく脈打っていた心臓が何か細いものに突かれる感覚がすると同時に、すべてがブツンと途切れた。


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