5話 ハルヤ君のハッタリ
俺有坂陽哉は喧嘩が強い。
基本的には売られた喧嘩はほぼ負けたことはない。
どんな手を使ってでも勝利をしてきた。
時には卑怯と呼ばれる手を使ってでも。
いつしか周りは卑怯でずるがしこい有坂と呼ぶようになったらしい。
上等だ。ハッタリだろうがどんな手を使ってでも負けない。
だが、久しいことが起きた。
負けたといってもいい出来事が起きた。
彼女は少女とは思えない妖艶な笑みをうっとりと浮かべ俺に攻撃をしてきた。
俺は反撃を試みようとしたが、できなかった。
発育はとてもよろしいといえないが、とても綺麗な白髪の髪。赤子のような綺麗な肌に長いまつげ。
そしてとても整った顔立ちが俺の目に入ってしまい拳を振るうことはできなかった。
現に反撃していても勝てなかっただろう。
俺は頭脳は決していとは言えないが、彼女の提案に乗り従うことにした。
それが最善といえるのか分からないが、あの魔術とやらさえ使えれば、二度と負けることはない。
一度、二度と負けてしまった。
三度目はない、二度と俺は負けない。
彼女を利用させれもらおう。
どんな手を使ってでも。
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「…あいつずるいだろ。クソガキの癖にマビィじゃねーかよ。昼飯も奪い損なったし返るか……」
俺は理事長室をあとにし、校庭へとでた。
今の時間帯は放課後。
といっても、入学式が終わって時間がたったにも関わらず、校庭は盛り上がっていた。
いろんな部活が新入生を必死に迎え入れようと、血気盛んに励んでいる。
そんな中俺は、見知ったあいつを見つけた。
「おー高良。精が出るね。部活の勧誘か?」
「あれ?陽哉じゃないか?いつも帰宅は早いのに今日は遅いんだね?なんかしていたの?」
「いやー実はさ。理事ちょ……カップラーメン食ってたんだよ」
先ほどのユルの言葉を思いだし、俺は言いとどまった。
「カップラーメン?お湯とかどうしたんだい?」
「うるせーな!なんでもいいじゃねーかよ。あれだよ科学ビンだよ!」
「……魔法瓶のこと?」
「魔術だと!?」
「えっ?」
くそっ俺としたことが、調子が狂う。
俺はこの話から高良をそらすためにほかの話題を出しことにした。
俺は周りを見渡す、サッカー部にも入部希望者が結構いるようだ。
「おい、今年は入部希望者集まりそうなのか?」
「うん、そこそこかな?先輩たちが必死に声をかけているおかげかな?まあ、うちは文化部のほうが強いからね。必然的に…ほら、あれを見てよ」
俺は高良がさしたほうを見ると吹奏楽部だろう。人だかりができている。
確かにこの学園は文化部のほとんどが全国レベルだ。
それを目当てに入学した奴もいるだろーな。
「まあ、がんばれ」
「ねえ、陽哉はサッカー部い入らないの?昔やってたんでしょ?この辺りじゃ有名だったの結構知ってる人多いよ」
「天才な陽哉様でも苦手なものはあるんだよ」
「昔上手かったから知っている人多いんだよ。少なくともサッカーをやっている人はね」
確かに俺は昔サッカーをやっていた。
天才な俺は結構上手かったしやめる理由はなかった。
「この学校のサッカー部お前には悪いけどあんまし強くねーじゃん。俺はモテたいからサッカーやってたんだよ」
「陽哉もともとモテないじゃん。残念イケメンとか、髪が変とか、喋るな危険とか裏で言われているよ?」
「うっせい!モテる奴には俺の気持ち分からないんだよ!……髪の毛変じゃないよね?」
「ハイハイ変じゃないよ。僕だって別にモテたいわけじゃないよ。ただ一人女神様が振り向いてくれればね」
「この話長くなりそーだな……」
こいつの月羽美談を聞いていると長くなる。
あいつのどこがいいんだか分からないけどな。
俺に釣り合うようなエロねーちゃんのほうがいいわ。
茉里奈?あいつはやだわ。
確実にビッチだろう。
「そうだ!陽哉ちょっと来てよ!」
「ん?お前部活はいいのかよ?」
「いいからいいから先輩達が何とかしてくれるって」
と俺は高良に半ば強引に連れていかれた。
向かった先は体育館。
学園から少し離れた場所にあるため、結構不便といえる場所に建っている。
一度校舎の外に出なければならない。
「あちゃー遅かったか」
「なんだよこの人だかりは」
体育館の入り口には大量の人が集まっていた。
吹奏楽部の比ではない、多分新入生以外も集まっているのだろう。
「おい、高良。何が始まるんだ?」
「ふふふ、今日はね。14時からチア部のパフォーマンスが見れるんだよ!!!でも人が多すぎて入れなさそーだなぁ」
今現在は13時半だ。
時間的にあと30分近くあるが、よっぽど人気のようだな。
因みにだが、入学式なので、今日は午前中で終わりである。
「そうなのか?別に興味ねーんだけど」
「かわいい女の子の巨乳が揺れる姿。みたくないの?」
「……あまり興味ないけど、見てやろうじゃねーか。でもお前ロリコンじゃなかったっけ?」
俺は前かがみになりながら高良に聞いた。
急に腰が痛くなっただけだからな。
「ロ、ロリコンじゃないよ!」
「近いわ!!」
俺は高良の顔面を殴った。
反動で高良は後ろに倒れた。
それを見てしまった、ほかの生徒たちは俺の存在に気づく。
あれ、有坂じゃない?殴られるっ!やばんだわっ!高良くんが……など
好都合じゃねーか。
「おいおいおい、ここにいるお方は高良様だ、お前らどけどけ」
「ちょ!?陽哉やめて、目立つってやばいって!」
ずるずると高良を引き釣りながら人込みをかき分けた。
必殺高良ガードじゃ。
あり得ない、邪魔なんだけど。ふざけんなよ。など罵声が聞こえるがシカトだ。
俺様に逆らえる奴はいねぇ!フハハハハハ
さらに、こちらには高良がいる。少なくとも女の子たちは文句言わないだろう。
人込みをかき分け、入口まで付く寸前に、知らない5人組が立ちふさがった。
「ちょ、き、君たち順番は守ってもらおうか」
俺たちの前に立ちふさがった。汗臭そうなデブは俺にそう言った。
ほかの4人も似たような奴だ。
みんなメガネをかけていたりバンダナをしていたり、典型的なオタクだろう。
俺の嫌いなタイプだ。
「うっせーデブくせえどけ、殴るぞ高良が」
「え!?ちょ僕はそんなことしないって!」
オタクどもは挙動不審に俺に伝えた。
「ぼ、暴力はい、いけないんじゃないかなルールは守ってもらわないと」
「そ、そうだよ。あ、有坂くん。殴ってみなよ。絶対にいろんな人に言いふらすからね」
俺のこと知っているようだ。
ハフハフと息を切らすオタクAとBは(みんな同じようにしか俺には見えん)必死に俺にいうが。
俺は全然気にせんのだ。
殴りたいときに殴る。
それは俺の心情であるのだよ。
「陽哉、大人しく引き下がろう。彼らが言ってることは間違ってないよ」
「うるせー俺は正義の元にこいつらに立ち向かっているんだ。俺は正しい」
「陽哉、君はなんて無茶苦茶なんだ…」
俺はにらみを効かせた。
ヒョっと変な声を上げるオタク達は、ほかのやつらに向けて言った。
「こ、こいつらが間違っていますよね!?みんなこの暴力男共を成敗しましょう」
「ちょっと!ぼ、僕も!?陽哉だけにしてよ!」
だが、だれも聞き入れようとしないようだ。みんな困惑した表情を浮かべる。
高良がいる効果なのか、女の子たちはオタク達に賛同しない。
キモッなど、小さい声で悪口を言うやつらもいるようだ。
イケメン効果スゲー!
だが陽哉様効果じゃないと思うと納得しねーけど!
俺は一発高良の頭を殴ってから言った。
「おいおい、モブ君たちよ。君たちのほうが迷惑なんじゃないか?」
「な、なにを言っているのかね!?君たちのほうが明らかに迷惑じゃないか!?」
「いーやお前たちのほうが悪いね。なぜなら顔的に犯罪犯しそう」
「だ、誰が犯罪を犯しそうですか!?ちょ、そこの女なに笑っているんです?私たちの味方じゃないんですか?」
クスクスと周りは笑い始めた。
先ほどまで俺たちに不満を抱いていただろう奴らは、今は味方らしい。
ってことは少なくともこいつらも迷惑な存在であるんだろーな。
あとは臭いし。キメーし。
「は?誰があんた達の味方っていったの?高良君の味方に決まってんじゃん」
と一人の女が言う。
どこかで見たことがある顔だなと思ったら、クラスメイトの佐藤か。
こいつは確か高良のことが好きだったような気がするな。
ギャルッぽいこいつクラスのカーストランクも高いはずだ。
チラホラとそうだそうだという声が聞こえてきた。
「ほら見たまえ!みんな陽哉様の味方のようだ」
「あの、一応僕たちも悪いんだからね…」
高良は申し訳なさそうにしているが無視だ。
お前の味方ではねーよって声が聞こえる。
後でぶっ飛ばす必要があるようだな。
「お前らはやくどけ、どうせ盗撮とかしてんだろ?顔的に」
「だ、誰がそんなことを!?し、ししし、してないですよ!濡れ衣はよくないですな!」
一人のモブオタクが慌てだした。
馬鹿め上手いこと挙動不審になってくれたぜ。
そのおかげか、周りの人たちも怪訝そうな眼付きで、こいつらを見つめ始めた。
はったり大成功だぜ!やはり俺様は天才すぎるわ。
「おう、ならお前らこの場でジャンプしてみろや」
「そ、そんな昔の不良みたいに……」
「陽哉…僕のこといつまでつかんでいるんだい。完全に忘れているよね?」
「おら、ジャンプもできねーのか?疑われるぞこら」
周りからカツアゲ?あいつさっきまでカメラ疑ってたのになぜジャンプなど、聞こえてくる。
うるせー奴らだ!全部はったりに決まってるだろーが。
俺が周りをけん制していると、一人の少女が体育館から出てきた。
ざわっと少しばかりの歓声が上がる。
俺にとっては不都合な奴が出てきた。
彼女は、チャームポイント?のサイドテールをポニーテールにまとめ毅然とした態度で、体育館の外に出てきた。
「芹沢さんっ」
と一人のオタクが嬉しそうに吠えた。
ほかの連中もニヤニヤと嬉しそうに笑みを浮かべた。
周りのオタク以外も月羽のほうに一斉に顔を向けた。
ついでに高良もなにやらブツブツとお祈りをしているがそっとしておこう。
ツキはオタク達を俺らを一瞥し、相変わらずのない胸を張り言った。
「入部希望者以外は帰ってください。それと見学なら静かにしてくれない?練習の邪魔だわ。主にそこのアホヤンキー」
俺は後ろを向いた。アンタのことよっと声が聞こえる気がするが無視だ。
俺はヤレヤレとわざとらしくため息をついた。
「おい、チビ。このオタクどもが邪魔……盗撮していたから、善意で助けてやろうとしたんだ」
「そんなことしてない!」
「芹沢さんをチビとか言うな!」
オタク共が吠える吠える。
「つ、月羽様さっきぶりです、可愛らしい衣装ですね」
高良が動揺しながら月羽を褒める。
ツキは怪訝そうな顔をして、高良を見つめた。
「この騒動、関君も絡んでるの?」
「ぼ、僕は無実だよ!!」
まあそうだろうね、ツキは呟いた。
ツキはオタク達の方を向いた。
「このアホヤンキーが言ってるのも実は正確なのよ。貴方たち、練習の度に入口に鎮座するのをやめてもらえるかしら?」
ツキは一人のオタク男のポケットの中に手をつこっむ。
そんな、大胆なと気持ち悪い声を男は声を上げた。
中からツキはカメラを取り出した。
「この中身を見られたくなければ、もう近づかないでもらえるかしら?」
「ひ、ひえっなんなことだい?」
ツキはオタク達を冷たい目で睨みつける。
「ご褒美です」
俺に聞こえるか聞こえないかの声で、呟く高良は無視する。
というか、陽哉様のハッタリがもしかして、的中していたんじゃないか!
俺様すげーーー!!
俺はツキからカメラを奪い取り、中身を確認する。
そこにはチア部の女の子達の隠し撮り写真(主にツキ)の写真が大量に入っていた。
俺は後ろの人だかりに言う。
「ほれみろ、俺の言った通りこいつらは隠し撮りしてたじゃねえか」
「ち、ちが……」
「オラ、テメーラもポケットに入ってる携帯をだせヨ!」
俺が一人一人に殴るフリをすると、しぶしぶと携帯を出した。
俺はそれを一台一台確認をし、写真を消した。
周りの連中が騒ぎだす、先ほどまでは軽蔑していた連中も尊敬の眼差しでこちらを見ている。
しめたぜ、ここで一発シブい一言を言えば、俺様のモテモテ生活の始まりだ。
「フッ俺じゃなかったら、追放していたところだが、今回は大目に見てやんヨ」
決まった…沢山の連中が歓声を上げる。
「さすが、関君だわ!ステキ!」
「高良ー!お手柄だぞ!」
「芹沢さんもかっこよかったわ」
……なぜっ!なぜだっ!!
流石のオタク達も俺を同情するようにこちらを見ている。
やめろ馬鹿、こっちをみるなよ。
ポンポンと高良が肩を叩く。
「ゴメンヨ」
「テメー!俺の手柄を奪いやがって!!!」
俺が高良を殴ろうとする手をツキは抑えた。
「ハイハイ、この件はもう終了。そこの5人組は大人しく帰ってもらえるかしら」
と言われた奴らは、逃げるように帰っていった。
ツキは人だかりに向けて続けて言う。
「部活見学の方はどうぞこちらに集まってください。それと、写真撮影は禁止ですから」
とツキの号令で人だかりはそれぞれ散ってった。
「それと関君貴方は部活大丈夫なの?」
「……や、ヤバイ流石にこんなに抜け出してたら!ゴメン陽哉!先に戻るね!月羽様もまた!」
高良は全力でグラウンドのほうに走っていった。
それを見送った後ツキは俺のほうを見て言う。
「アンタは何しに来たの?」
「女を見に来た」
「不純な動機に成敗」
「グハッ、急に顔を狙うなクソチビ!結果的に俺のおかげじゃねーか」
ツキは顔を俺からそむけた。
悔しそうにプルプル震えながら俺に言った。
「ま、まあ結果的にハルのハッタリが偶然よ、偶然!当たってただけど」
「…ありがと」
マビィこいつ可愛いところあるじゃねーかよ。
くそ、ムカつくぜ。
俺は平常心を取り戻すためにツキをからかうことにした。
「でもお前のどこがいいんだ、こんなロリのくせに」
チア部の衣装、スカートに手をかけめくった。
ツキの顔が先ほどとはうって変わり、燃えるように赤くなる。
「とか言って!!ナチュラルにセクハラしてるんじゃないわよ!!」
「いてぇ!!!そこはやめろ!!急所はやめろ!!!」
「さりげなく私で立ててるんじゃないわよ!!!!」
「う、うるせーー!!俺の股間はオートマなんだヨ!クリープ現象だ!」
俺は一目散に逃げだした。
あいついちいち股間を狙いやがって!!
陽哉が逃げ出したのを月羽は見送り、そのまま体育館へと戻っていった。
「フンッ!マジでお礼を言ったのに……」
その呟きは誰も聞くことはなかった。