3話 氷の少女
「まず、一年生の皆さん。我らが扉ケ丘学園入学おめでとう。そして、ニ、三年生の皆さんは先輩としての自覚を持って……、一年生の皆さんは先輩方のとても勤勉で由緒正しい姿を……」
毎回恒例、どこの学校でもそうだと思うが、とても長い長い、校長先生の話に眠気を誘われ、必死に耐えながら、私月羽は欠伸をかみ殺した。前の方をみると、堂々とハルは当然のように眠っていた。隣の女の子が起こそうとしているけど……あら、あきらめた。
隣にいる茉里奈の方に視線を向けると。
「ナガイナガイナガイナガイナガイナガイナガイナガイナガイナガイナガイナガイナガイナガイナガイナガイ」
怖ッ!女の子がしちゃいけない顔をしてるよ。やめやめ見なかったことにしよう。
ツメを噛み締める?茉里奈から視線を外すと、校長先生の話は終わったようだ。
そして同時に甘いシロップのような香りが辺りを漂った。
いつものようにこの学校の理事長が上がってくると思ったが、明らかに違った。
今までの厳格な男の人、と言ってもあまり覚えてないけれども、とにかくその人とは違い綺麗なキューティクルを纏った白髪ノツインテール。
小中学生と勘違いしてしまいそうな、慎ましやかな身長と胸。とても可愛らしい顔立ちから想像できないほどの気品に溢れていた。いわゆるお嬢様みたいな感じ。
誰?私もロリでしょって思ったやつ!
はっとハルのほうを見るとニヤニヤとこっちを、って関君?なんで?
そんなことよりも、私は理事長のほうをまた見る。
(理事長って変わったのかしら?てかどう考えても子供でしょ!胸とか!身長とか!←そんなこと言えない人。って誰のことよっ!)
一人漫才って違う違う。冷静に自分のポテンシャルについて考えていた。ふと気になり隣の男の子、野原君に小声で話かけた。
「ねえ、野原君。理事長っていつ変わったの?」
「は!?か、せ、せりざわひゃんっ?おはようございます!」
「え?お、おはよう」
もう10時過ぎなんですけど…
ガバっと凄い勢いでお辞儀をしてきて、ビックリした……
彼は野原充君。学年で一番頭脳の持ち主。大人しい性格で癖毛が目立つメガネの男の子。
関君とよく話しているのを見かける、野原君には悪いけど何処で接点があったのだろうか?
「ロ…ツ、愛くるしい…尊い…」
「あの…なんでそんなに感動しているの?」
「い、いえ!なんでもありますんッ!?」
私は彼の反応を不思議に思ったが、話をつづけた。
「理事長っていつの間に変わったの?」
「え?理事長って?」
「だから今喋っている理事長のことよ」
「い、いつもどおりじゃないかな?ロ、リ……芹沢さん大丈夫?」
私の勘違いだったのか、野原君はなぜか挙動不審だけど嘘ついているわけではなさそうだ。
周りを見渡したが、誰も気にする様子はない。私が休みの日に変わったのかな。
でも、学校を休んだ記憶はない気がする。
一度だけあったかな…?
不思議そうな顔で見つめる野原君(なぜか顔は赤い)に私は謝った。
「…ごめん、確かにいつも通りだったわ。気にしないで」
「そ、そうなんだ。これからも是非僕に相談してね!!」
「は、はぁ……?」
私はまた理事長に目を向けた。相も変わらず可愛らしい顔立ちをしており、幼いながらも大人の女性へと変貌していく丁度よい色気をだしていた。
ちなみに私は大人の女性なので、同類ではない。そんなことはない。断じてない!
「今回入学された、皆様もこの学園で素晴らし学校生活を送れることを、お祈りしますわ。私が見たところ一部飛びぬけた才能をお持ちの方もいるようですし……」
にこりと可愛らしい笑みを浮かべた少女。
見た目からは想像できない威圧感を私は感じた。
なぜそんなことを思ったのか私には理解はできなかった。
「では、私のお話は以上です。長くなりましたわね」
クスクスと可愛らしく笑うと。
「皆様ではまた、ご機嫌用」
とその場を後にした。
その後も滞りなく入学式は進んでいったが、私の疑問は解けぬまま終わった。
私もこの出来事は次第に忘れ、いつも通りの日常に生活は戻っていった。
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ツインテールの理事長の歩き方は独特だ。(以下少女と呼ぼう)
そもそも歩いていえるのだろうか?
両足をツーッっと滑らせるようにして歩く。
まるで氷の上を軽やかに移動する、とても機嫌がよい氷の女王のように。
見た目的には氷の妖精というほうがあっているかもしれないが。
少女が歩けばただの廊下もあっという間にパキパキと小気味の良い音を立て、スケートリンクの様に美しく変わる。
比喩ではなく実際に変わっているのだ。
少女は立ち止まる。
扉には理事長室と書いてあった。
この学園での理事長とは絶対的権力の持ち主。
理事長室に入れる者はごくわずかであり、普通に在学していては入室は当然のこと、室内を見ることすら叶わないだろう。
もちろん扉には厳重に鍵がかけてあり、たとえ教師でも入室は簡単にはできない。
「……ッ……!」
少女はポツリと何かを発すると扉がパッキっと氷が溶けるようなを音を鳴らした。
そして扉が開いた。
「……さて、ここならだれにも聞かれないですわね」
少女は理事長室の中に入る。
扉の先には、部屋の中央に年代物の机が一つ置いてあり横には二つのソファーが鎮座している。
その奥には理事長が座るのであろうとても豪華な机、そして理事長の趣味なのだろうか。棚にはティーポットやティーカップ複数並べてあった。
少女は机に向かおうとするが、怪訝そうな顔を浮かべた。
少女は一点を見つめる。
「おかしいですわね。入れるはずないと思いますが」
少女は机に向かって叫んだ。
「誰か!そこにいますの!?」
途端にガタガタを音を立て机が揺れだす。
少女は引きつった顔を浮かべた。
それは年相応?の見た目通りの表情だ。
関高良が見たら、写真を撮りスマートフォンの待ち受け画面にしてしまいたいぐらいである。
「ちょ、や、やめてくださいまし!私こういうのはあ、あまり得意ではないんですけれどっ!何もいないですわよね?」
少女は恐る恐る、机に近づいていく。
「…ッ!…ガ…」
「…ひゃぁ!」
謎の擬音に少女は可愛らしい声を漏らした。
と可愛らしい声を少女は漏らした。
だが恐れてばかりはいられない。
事実を確認すべく少女は机に手をかけ恐る恐ると覗いた。
すると香ばしい香りと、こちらを見つめるギラギラをした目が…
「へ、へへへ、変質者ですわ!!!ど、どうやって入ったんですの!!??け、警察呼ばなきゃですわ!!??」
「ちょ、ちょちょ!?飯食ってるだけだって!!俺は変質者なんかじゃねー!人畜無害の超イケメン陽哉様だっつーの!」
ズルズルズルとなんとも間抜けな音を立てながら彼(陽哉)は反抗した。
だが、少女は軽いパニック状態である。
「け、消さなきゃ!変質者は私の手で成敗しますわ!!」
と少女は陽哉の首に手をかけ、そしてギリギリと締め出した。
バシャと音を立て陽哉の体にカップラーメンは飛び散る。
「あ、アッツッー!!!!お、おま!!殺す気か、っく、ぐるじぃ!は、はなせ!」
「あわわわ、意外とこいつしぶといですわ!」
「こ、子供に負ける陽哉様じゃねえ!!」
と陽哉はそのまま体を起こし、首を絞めたままの少女ごと首で持ち上げた。
「な、なんて力なんですの!?」
少女は首から手を放し、逃れようとするがそれを陽哉は少女の体をつかみそれを制した
そして無理やり引きはがし床に押し倒す。
「て、テメェ。よくも俺様の飯をぶちまけやがったな!!食い物の恨み、晴らさず置くべきか!!!」
「ひゃ、ひゃあああ!?!?犯されますっ!母上!私!この清らかなユルの体。いまこの乱暴な男に!顔はまあまあだけど、髪の毛はおかしい変態に犯されますわぁ!!」
「ちょ、か、勘違いしないでくれない??俺ロリコンじゃないんですけど!!しかもそっちが先に攻撃してきたじゃねーか!…あと髪の毛変じゃないよね?」
みるみると少女の顔は真っ赤になっていき、そしてついに覚悟を決めたかのように目を瞑った。
「…いいですわ。覚悟します。でも体は許しても決して心までは貴方の物にはなりませんわ!この変態!!」
少女はとうとう力を抜いた。
「おいおいおいおい!テメェみたいな小ガキ生に手を出すわけねーだろ!!そんな特殊性癖もってねえわ!」
「な、なんですって!?私は大人ですー大人ですーー!お!と!な!ですーー!!」
月羽が入学式で感じたような気品はもうない。
そこにいたのは、ちょっとおませな純情乙女白髪ツインテール幼……少女の出来上がりである。
ちなみに関や野原が見たら発狂してしまうだろう。
現に陽哉も頭にも下半身にも血が上っているようだ。
「と、というかどいてくださいまし!いつまで私の上に覆いかぶさっているのです!」
「お前が攻撃してくるからだろう!!攻撃しないなら離れてやってもいいけどな!」
「もうしないですわ!とにかくここにいた理由を話してもらいますからね!!って早くどいてくださいな」
陽哉はそこをどこうとしない。
そしてニヤリを笑みを浮かべた。
「この勝負俺の勝ちだよな?」
「な、なにを言っているのですの?」
「だから!俺様の勝ちでいいよなこの勝負!お前より俺のほうが強いって認めればどいてやろう」
「め、面倒くさい男ですわね…分かりました。認めますからどいてください」
「ワハハ、陽哉様は世界一強え!」
前かがみになった情けない男をみてユルはため息をついた。
こんな男見たことがないと。
「とにかくなんでここにいたか話してもらいますからね!」