16話 VSティラノと舎弟
ティラノが咆哮を上げながら俺に向かってくる。体長3メートルはあるだろうか、でかいカギづめで俺を狙う。
俺はその攻撃をギリギリまで引きつけ横によけるが、素早くティラノが切り返し俺の腕を切りさいた。
幸い、軽症で済んだが鋭い痛みが右腕を駆け巡る。すかさず、メロリアがヒールを唱え、俺の腕は回復。
俺はミサンガを出し、ティラノの背後に回り魔法式を展開。ティラノの背中にパンチをぶち込むが、ダメージを受けたのは俺だ。硬い装甲を持っているのだろう。俺の拳から血が噴き出す。
「クソこいつでたらめすぎるぞ。」
メロリアが風魔法スピニを唱え援護射撃を繰り出すが、ティラノを切り削くことなくケガ一つ負った様子がない。
「やはりだめです。ハルヤさん逃げましょう!」
メロリアは俺にヒールをかけ何とか拳を回復したが、痛みが消えることはない。ティラノは俺からメロリアに標的を変え、すぐに切り返し突進をする。魔術を唱えていたせいか、よけるのが遅れメロリアは真正面から食らい、木々の後ろに吹っ飛んだ。
「メロリア!!」
俺はすぐに駆け寄るがメロリアは気絶しているようで、腕や足が折れているように見える。
「クソッ!!」
俺はすぐさまメロリアのカバンから、妖精族の秘薬とを取り出し、(なぜか卑猥な下着が見えたのは見なかったことにして、腕や足に塗りたくる。そうしていう間にも、ティラノは切り返し、また突進を繰り返す。
標的は俺のようだ。もうメロリアの回復は見込めない、痛む腕を構えメロリアを抱え、逆に俺とティラノを同じ磁力線によりティラノが近づくと俺が離れるように魔道具を展開。
上手いこと近寄ってくるたびに俺はメロリアを抱えその原理を使い走る。敵が追いかけてくれば来るほど追いつくことはない。
「よし、このまま逃げ続ければ・・・」
だがしかし、急にミサンガが起動しなくなったのか、どんどん追いつかれていく。
魔道具の使用量を超えてしまったのか。あるいは俺の魔力が尽きたのか、戦うしかない。
俺はメロリアをそっと降ろし、木にもたれかからせ、ティラノの方へ向かう。勝ち方など何も思い浮かばない。せめてメロリアだけども、俺は地面にあった石をティラノにぶつけるが、やはり魔道具が発動しない。
「くそ!なんで使えねーんだ!!」
ティラノは俺に突進してくる。そして腕を振り上げ俺の身体を切り削く。
「・・・ってえ」
俺は地面に崩れ落ちた。体中から血が滴る。もう回復魔法が使えるメロリアは気絶中。俺には絶対絶命の危機に陥っていた。だが、俺は約束したんだ。絶対に森の外にだすと。
俺は血だらけになった身体に鞭を打ち、ギリギリ立ち上がる。ティラノは俺を食おうとしているのか、でかい顎で俺をかみ砕こうとする。俺はギリギリのところで横に転がるように交わし、ティラノの足に全力で足払いをかけるが、こちらの方がダメージが受けるほどの硬さだ。まるで鉄を蹴っ飛ばしているような。
後ろに回り込んだ俺に対してティラノが尻尾を器用に扱い、俺の腹部に直撃。俺は血の塊を口から吐き出す。勝てない、初めて俺は負けるのか?ここで死ぬのか。
ティラノは俺に止めの一撃をかまそうとする。
負ける。負ける。負けたくない。負けたくない。マケタクナイ。
「まけたくねーーーんだよ!!俺はどんな手を使っても勝つんだ!!!」
その時俺の髪色がまるでユルの魔法の時のようにいろが変わる、金色から漆黒の黒色に、身体の痛みがアドレナリンのが出てるせいかボロボロにもかかわらず、立ち上がる。
「クソティラノ!!!俺に勝てると思ってんのか!!てめえは俺より雑魚なんだヨ!このクソが!!」
俺は力のないパンチをティラノに放つ、勿論きいた様子はない。だが、ティラノが急に止まったように動かなくなった。と、同時に俺の髪色はいつも通りの金髪に戻る。
俺は茫然とした。固まったのか?
そのすきに急いでメロリアの方に駆け寄るとなんとか意識を取り戻したようで、身体にヒールをかけているようだ。
「ハルヤさん!」
メロリアは俺のことを抱きしめる。
「いてぇ!ちょあんま強く触らないでくれ。」
「生きててよかった・・・私が気絶している間にそんなボロボロになって。」
「あ?これは返り血だよ。」
「なわけないじゃないですか!」
メロリアはヒールの呪文と秘薬により多少は回復したのか俺よりは大丈夫そうなので良かった。
メロリアが必死にヒールを俺にかけるが・・・止まっていたティラノがまた動き出す。
「何だか知らないが、また来るぞ。メロリア援護を頼む。」
「わ、分かりました!」
「オラ!こいこのクソ雑魚がぁ!!ってお、おい何するんだ。」
ティラノが俺の目の前で座り込みまる忠誠を誓うように俺の方を見る。
「お、おいお前なにを企んでやがる。」
「グルルルッ」
俺は訳も分からずティラノに近づく。だが攻撃してくる素振りも見せない。
メロリアがはっとした表情をして、ティラノの頭をなで始めた。危ないぞと止める暇もなく。
「グルルッ」
「ハルヤさんこれ魔物使役じゃないですか!?」
「なんだそれ?」
「聞いたことがあります。極まれに魔族には魔物を使役する能力を持つ者がいると。・・・ハルヤさんって魔族なんですか?」
「はぁ?俺は正真正銘ただの人だっつーの、なんかこいつ妙な目で俺を見てないか?なんか舎弟を持った気分だぜ・・・」
まあとにかく助かったようだ。絶対絶命の淵から生還できたのだ素直に喜ぼう。
魔物使役がなんだかわからないが俺はティラノに近づくとそのでかい腕で捕まれ、背中の上に乗せられた、同じようにメロリアもだ。
「す、凄いです!魔物が私たちの味方になってくれたんですよ!!」
「よ、よくわかんねーけど流石俺様だな!!」
何が起きたかチンプンカンプンだが、こいつの背中に乗っていればひとまずその辺の魔物も安心だろう。
「ハルヤさんは魔物使いだったのかも知れませんね。」
「そうなのか?よしじゃあティラノお前この森から抜けるために協力しろ!まずは走れとにかく走れ」
「ガーゥ」
ティラノは一つ返事で走りだす。
そのスピードは車並みの速さだ。木々をよけながらドンドンドンドン進んでいく。途中で出てきた魔物は一ひねりでティラノが押しつぶし、俺たちの出番はない。
「凄いです!凄いです!ハルヤさん!こんなに速いんですよ!!」
「ああ、車みたいだな」
「車ってのがよくわからないですけど、この調子なら森なんてあっという間ですよ!!」
「まあ、俺の威圧間に負けたんだろうなこいつは。」
いつもだったら突っ込んでくるメロリアだがその目はキラキラしていて、俺の背中を抱きしめながらティラノは進んでいく。
この調子なら森の出口はもうすぐかもしれない。俺は取り合えず第一の目標をクリアできそうだ。