坂上妖怪屋敷3.5
青い月の昇る日の、夜の帳が降りる頃。
人間は、決して外を歩いてはいけない。
その理由は、ただ一つ。
「おーおー、いるねぇいるねぇ。わらわらいるじゃねえか!」
人ならざる存在、妖怪が跋扈するからだ。
「はあ、本来なら貴方一人で迎えに行かせるのはとても危ない気がしてならないのですが……」
正直今でも私は椿折を一人で外に出す事に不安を抱いている。
理由はその性格。実力はともかく、とにかく喧嘩早い。時間を無駄に出来ない今回のような場合、無駄に戦われては困る。
「もう一度言いますよ。坂上智也を保護しなさい」
「んなこたわかってんだよ、鈴鹿。問題は……」
椿折が見つめる先には、無数の妖怪が群がっている。
そのどれもが、姿などを持たぬ不定形な澱み。
赤い目をしたそれらは、強い妖気に中てられたか私達の方へ向かってくる。
ゆっくりと、地を這いながら。
最初はこれらも、片手に収まる程度の大きさだったのだろう。しかし、今は人と同じ程の大きさまで膨れ上がり、醜く蠢いている。
「こいつ等全員ブッ潰さねぇと先に進めねぇようだぜ?」
「解ってますよ。ですが……」
「それもわかってるよ。とりあえず、赤い目の黒いのを倒してけばいいんだろ!?」
全然解ってなかったッ!?
制止する前に澱みの群に突撃する椿折。
「はあ、仕方ないですね……」
右手を天に向け、パチンと指を鳴らす。
それとほぼ同時に、空から四つの鞘が落ち、落下地点にいた澱みを粉砕する。
その落下地点の近くに椿折が居たのは偶然ではない。
「てめぇ、わざとやったんじゃねえだろうな!? 死ぬところだったぞ!!」
「事故です」
コレで少しは頭を冷やすだろう。
「ここは私が引きうけますから、さっさと坂上智也を回収してきなさい」
「おう、解った!!」
本当に理解してくれたのか、不安要素は多いが……とりあえず今は目の前の敵をどうにかしよう。
軽く身体をほぐし、澱みの群に飛び込む。
それぞれ離れた位置に落ちた鞘のうち、一番近いものを探す。
距離は二歩程度でいけるような距離。方角は一時と二時の間。
「素早丸」
私は、その刀の名前を呼ぶ。
一番近い場所に落ちた鞘から刀が飛び出し、進路上の澱みを切り裂きながら私の手元へとやってくる。
右手を伸ばし、手に触れる寸前でそれが空中で停止する。
それは自然と私の身体の周りをくるくると回り始める。
空中に浮いたままの刀は、私の腕の動きと連動し自由に動く。
私が二刀流ならぬ四刀流。手を使わないから、四振りの刀を一度に扱える。
だが今は一つで十分だ。
「椿折、私より後ろに下がりなさい」
「あ?」
「せーのっ!」
右手を横に薙ぐ。それに呼応し、素早丸が動く。
首のあたりの高さまで浮き上がると、腕の動きと連動し、大量の澱みを切断する。
かつ、薙ぎながらも素早丸は飛び出し、遠くの澱みも切断。右手を動かすのをやめると、手元へと戻ってくる。
ぽっかりと、切り裂いた部分だけ澱みがなくなり、おそらくであるが上空から眺めるとその部分だけ白くなっていることだろう。
「て、てめぇ!? 首、首のところ通ったぞ!?」
「なら大丈夫ですね」
「大丈夫じゃねえよ!? あ、いや。俺は大丈夫なのか。首ないし」
飛頭蛮に首はない。ちなみに男が飛頭蛮と呼ばれ、女はろくろ首と呼ばれる妖怪になるとか。
そんな豆知識を私達が語ったところで、妖怪を熱心に研究している人たちからすれば異説も異説。むしろ冒涜に近いことなんだろう。
「けどなあ!!」
「ほら、さっさと行った行った。道ふさがっちゃいますよ?」
「うがあああああッ! もう、いい!! わあったよ、行ってくりゃいいんだろ行ってくりゃあよぉ!!」
ダン、と地面を蹴って跳びあがり、椿折の姿があっという間に視界から消えた。
「しかし……」
これはまあ多すぎる。
正直、疲れそうだ。
「……大通連、小通連、顕明連」
それぞれ三方向から澱みを切り裂きながら私の周囲をくるくると回り、臨戦状態となる。
そこへ素早丸も加わり、計四振りの刀が、私の周囲を回っている。
私は、それらに命ずる。
「散れ、我が刃達」
私は、そう宣言し……刃を放った。




