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坂上妖怪屋敷  作者: 銀色オウムガイ
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坂上妖怪屋敷11

「あのトリガーハッピー!! なんであんな火器持ってんのよ!!」

「知りませんよ、そんな事!! 密輸入じゃないんですか!?」

「鈴鹿さん、完全に紫苑さん目的見失ってますよね!?」

「あれは弾撃ちきるまで収まらんぞ!」

 ガトリングの弾丸が次々とヴィーヴルの身体に命中する。が、ヴィーヴルの硬い鱗に弾かれて、ありとあらゆる角度に兆弾。至る箇所に弾痕を残していく。

「ちょ、オチオチ寝てられねぇ!!」

 椿折も休んでいられなくなったようで、物陰から慌てて飛び出してきた。よく見ると、首に巻いたマフラーに穴が開いている。本当に首がなくてよかったね、椿折。

「くぉらぁ、貞子ォ!! こっちとら怪我人なんだ、無茶苦茶すんじゃねえ!!」

 と、椿折が叫んだ直後、こちらに向かって弾丸の雨が飛来する。

「ちょ、バカッ!」

「今の紫苑さんを刺激してどうするんですか!」

「だってよ、燐ノ介ぇ!」

「言ってる場合か! 今は逃げろ!!」

 ふと、弾丸の雨が止む。

「終わっ……た?」

 ヴィーヴルのほうを見ると、しっかりと紅玉の目が砕け、息もしていなかった。

「ヴィーヴルは、紅玉の目を失うと視界を失い、絶望のあまり死に到るそうです」

「何か、物悲しい龍ですね」

「さて、と」

 陰陽師たちのほうを向くと、それぞれが怯えきった様子で私達を見ていた。

「そんな……藍様の召喚したドラゴンが……」

「勝てない……勝てっこない!」

 あらあら。陰陽師たちはもう怖気づいたようですね。

 それに比べ――――

「あなたは堂々としていますね。賞賛に値します」

「……貴女達、指揮官がいるわね」

「おや、そこまでお見通しですか。正解です」

 にっこり、と笑みを浮かべてやる。

 あちらは明らかに不機嫌そうな顔をしているが、それが愉快で仕方ない。

「百鬼夜行規模の妖怪を集めておきながら、集めた当人は一切指示を出さない。

 種族の違う妖怪同士は、基本的に上下関係がない限り互いに互いへの命令なんて聞かない。

 なのに、どうしてか妖怪達には統一性があった。一見すると好き勝手に暴れているように見えて、ね」

「そちらは統率が取れていませんでしたね。経験不足、とでも言いましょうか。

 まあ、私達は今の今まで人間に危害を加えたりせずに生きてきましたから、戦う相手もいなかったというべきですかね」

「その通り。援軍を呼んだのはいいけど、訓練は足りてないし、実戦経験もない若い陰陽師……いえ、陰陽師見習いばかりでしたし。

 でも……さっきの攻撃で指揮官がいるであろう場所は特定できたわ」

「ッ! 何を……!!」

「先に式神を放っておきました。私、陰陽師としての才能は皆無ですけど、式神だけはなんとか使えるんですよ?」

 まずい、智也さんの命が……!

『鈴鹿さん』

「え、あ、はい」

『委員長と話がしたいんです。有無を言わさず拉致って着てください』

「了解しました。あと、そちらに式神が向かったそうですけど……」

『ああ、紫苑さんが倒しました』

「そうですか」

 ならもう思い残す事はない。

「え、ちょ……!」

「私達の指揮官が貴女に会いたがっています。なので、無理矢理連れて行くことにしました」

「なっ!」

 流石に表情がこわばるか。

「それじゃあ、ごあんなーい」

「嘘っ、ちょ……誰かッ!!」

『各自、S01の進路を妨害する敵を退けろ』

 そのお陰か、私は何の妨害も受けず、先ほど紫苑が身を乗り出していた窓から教室内へと侵入する事が出来た。




 指示を出し終え、自分の席に座る。

「ふぅ……」

「お疲れ様でした」

「うん、紫苑さんもありがとう」

 まあ、真横でいきなりガトリング砲出された時はびっくりしたけど。

「こにゃにゃちわ~」

「あ、いらっしゃい」

「ちょ、坂上くん!?」

 ああ、五月蝿いのが来た。まあ、自分で呼んだんだけどさ。

「いらっしゃい。委員長。まあ、座ってよ」

「座ってよ、じゃないわよ!」

 それもそうか。

 うーん、じゃあどうするか。

「委員長、今日のパン――――」

『セクハラ禁止!』

 拳が三方向から飛んできた。

 痛い。どれくらい痛いかっていうと、痛くて気を失いそうになるのに、これまた痛くて意識が引き戻されるっていうくらい痛い。

「いや、うん。さっきのは僕が悪かったです」

「それはそうと、この状況はどういうことなの?」

「どういうことって。見ての通り、僕があの妖怪達の指揮官だけど?」

「なっ……」

 あー、驚いてる驚いてる。

「それで、ウチの陰陽師たちの骨折ったりしてたの!?」

「いや、殺さないだけマシでしょ。

 そもそも妖怪の力で殴られて平気なやつなんていないっしょ?」

「ほんの数秒前に自分がされたことを思い出してから、その台詞をもう一度言ってみようか」

「まあ、正直委員長を無力化すれば戦いは止まると思ってたんだけど、まさにその通りみたいだね」

 窓から下の様子を見ると、陰陽師たちが妖怪に包囲されてガクガク震えている姿が見える。

「おお、人がゴミのようだ」

「とりあえず智也さん、性格変わってませんか?」

 鈴鹿さんにツッコまれたところで、本題に移ろう。

「ん、とな。まあ委員長。単刀直入に僕の要求を言うよ」

「何よ」


「鈴鹿さん達に二度と手を出すな」


 はっきりと、怒気をこめて告げる。

「なんでよ、陰陽師が妖怪と戦って何が……」

「じゃあ、僕は今ここで、この場所に集まってきている陰陽師達を皆殺しにする。委員長も含めてね」

 あくまでもこれは脅し。本当にする気なんてない。

 それでも、委員長の顔は蒼白。本気と受け取ったようだ。

(鈴鹿さん、お願いします)

(はい、わかりました)

 鈴鹿さんに目で合図すると、鈴鹿さんは刀を一つ手に取り、それを委員長の首に突きつける。

 ちなみに、鈴鹿さんの持ってる四つの刀のうち、どの刀を使っているのかは僕にはわからない。

(紫苑さんも)

(はい)

 紫苑さんも、懐から取り出したハンドガンを委員長のこめかみに突きつける。

「本気、なの」

「ああ、もちろん。僕は命ずるだけで、自分の手を汚さずに多くの人間を始末する事が出来る。そんなリスクのないテロをやるつもりはないし、スリルもないし罪に問われない殺しも意味がない。

 やるなら自分で手を下すよ、僕は」

「坂上くん、あなた何を……」

「その気になれば、この辺り一帯を一晩で掌握できる。でしょう、鈴鹿さん」

「はい。現在の消耗状況を見て、今日中に侵攻を開始すれば明日の朝までには支配完了するかと」

「僕はね、委員長がここで僕の条件を飲まないのなら、この町を妖怪の楽園に作り変える。その覚悟はあるよ」

「……まるで、妖怪ね」

「それで結構。僕は委員長みたいに自分の信念を捻じ曲げない、わからずやばかりの世界にいるくらいなら、鬼なり悪魔なりになってやるよ」

 まずいな。委員長、一切自分の意思を曲げる気がない。

 だが、ここで引き下がる訳にはいかない。

「けどね、委員長。いや、日和見藍。君には僕たちを止めることが出来る」

「それが、条件を飲むこと、なの?」

「その通り」

 わざとらしく足を組んで、改めて委員長の方を向く。

「悪くないと思うよ。条件を飲むと誰も死なずに済むんだから。

 でも、もし条件を呑まないんだったら、僕の目の前で日和見藍という少女の、こめかみに大穴の空いた生首が転がり、学校の正門には巨大生物の死体と、人間の死体が数体転がるだけだから」

 これが最後の脅しだ。

 これ以上は、本当に何も思いつかない。

「……こっちにも条件があるわ」

「ん?」

「なんで、ヴィーヴルの動きを、あんな糸で封じ込められたのか、教えて」

「ああ、簡単な事だよ。

 絡新婦ってクモの妖怪なんだろ。クモの出す糸って、世界中のどんな繊維よりも丈夫な物質なんだ。その強度は、鉛筆大の大きさにすれば飛行中のジェット機だって捕縛できる。

 今回の場合、それを使ったのが妖怪だ。同じ太さでも、強度は数倍、あるいは数千倍かもしれないけど、動きを封じる事くらいは出来るんじゃないかと思ってね」

「智也さん、生物に関する知識が豊富なんですって」

「へえ、そうなんですか」

「まあ、好きってだけで少し人より知ってる程度ですけどね」

 そう。だから絡新婦にヴィーヴルの動きを封じるように命じた。

 相手はジェット機じゃないし、上手くいく保障なんてなかったけど、結果的には上手くいった。

 もし失敗してたら、それこそ校舎ぶっ壊して下敷きにしようと思っていたけど、そうならなくて本当に良かった。

「……ふぅ。もういい。坂上くんには負けたわ。

 私達は、鈴鹿御前を始め、この町に住む妖怪に手を出さないわ」

「あ、条件ちょっと変えていいかな?」

「何よ?」

「この町に住む妖怪に、じゃなくてこの町に住んでいて人間に友好的な妖怪に、で」

「……っ、あはは! 何よそれ!!」

「鈴鹿さん、紫苑さん。もういいよ」

 二人が獲物をしまう。

「僕は、妖怪屋敷の主の任を任された。任された限り、僕は屋敷の妖怪達を正しく導いていく。だから、人間に手出しはさせない」

「解った。私も、両親に掛け合って説得してみる」

「では、交渉成立ですね」

「委員長、陰陽師達に戦いは終わったって伝えてくれないかな?」

「わかった」

 こうして、およそ一時間の戦争は幕を閉じた。

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