坂上妖怪屋敷10
どうする。外ではヴィーヴルが暴れまわっている。
弱点は判ったが、それでもまだ不安要素が多すぎる。
あの巨体。ざっと見積もって十メートルはある。それでも少なく見積もった方だ。
胴の太さは約五メートル。切り出したばかりの丸太くらいはある。
「どうやってあれほどの大きさのものを止めるか、だな」
「智也さん、妖怪のリストをお持ちしました」
「ありがとう、紫苑さん」
妖怪のことはよくわからない。
が、紫苑さんが簡単な能力や特徴を記載したものを用意してくれていて、それを見ながら指示を出す事が出来ている。
「A31、背後から陰陽師接近中。対応を」
資料を見ながらも、現場に指示を出す。しかし、これも長くは続かないだろう。
あの委員長のことだ。そろそろ、誰かが指示を出しているという事に気付いていてもおかしくない。
「紫苑さん、僕の周囲に何か近づいてきたら迷わずそれに攻撃を。敵味方なんて見てる余裕はありませんから」
「はい、でも……」
「相手は勘のいい人ですから、こちらの位置を探すために探査用の式神を使ってこないとも限りません」
僕には、そういったものの気配を察知する事なんてできない。
防御面は全て紫苑さんに任せて、僕は目の前で暴れまわるドラゴンの動きを封じられる妖怪を探す。
素早い動きで翻弄し、動きを鈍らせる。
それもありだが、あの巨体だ。身体をくねらせただけでこちらの動きはかなり抑制され、後手に回る可能性がある。
ならば力任せに押さえつけるか?
否、不可能だ。さっき鈴鹿さんが弾き飛ばされた事を見ても、かなりの力を持っていることは間違いない。力自慢の妖怪を集めても、抑え切れるような相手じゃない。
ゴリ押しは、椿折さんが失敗している。落下の勢いを使った攻撃でも、あの身体に傷一つ入れることが出来なかったのも確認済み。
校舎の一部を崩落させ、ヴィーヴルをその下敷きにして動きを封じるというのもアリだが、これは最終手段にしたい。出来るだけ周囲への被害は少なくしたいしね。
じゃあ、どうする。
縄や網があるわけでも――――
「待てよ」
この戦いに参加している妖怪のリストを見直す。
ろくろ首、化け蟹、しょうけら、のっぺらぼう、百々目鬼、天狗……違うこいつ等じゃない。
二口女、蝦蟇、山彦、骨女、飛縁魔、鉄鼠、以津真天、絡新婦――――
「居た! こいつだ!!」
「どうしたんですか?」
「絡新婦ですよ、絡新婦!」
「カラミシンプ、じゃなくてジョロウグモですよ、それ」
「え、あ。そなの?」
ちょっと恥ずかしくなったけど、こいつならいける。
「これってクモの妖怪なんですよね?」
「ええ、そうですよ。それが何か……」
よし、いける。
「えっと、コードは……K90か。よし」
「何をするつもりですか?」
にやり、と不適な笑みを浮かべてみせ、カゼハヤくんに向かって各自への命令を通達する。
「K90、ヴィーヴルの翼、顎を糸で固定しろ。また、首と尾を繋いで固定し完全に動きを塞げ。ただし、糸の太さは鉛筆の直径より大き目にすること。総員、K90を援護。以上!」
「あの、智也さん。言っている事が……」
「僕はね、今の今まで妖怪になんて興味がなかったんです。今後はイヤでも妖怪について学んでいくんでしょうけど。
まあそんなことは今はいいですよね。というか、妖怪どころか、世界中のあらゆることに興味がない。そういう人間なんですよ、僕は。
でも、僕が唯一興味を示したものがありました。それは――――」
智也さんの指示を待ってからどれだけの時間が経っただろうか。
長いとも感じるし、短いとも感じる。
『K90、ヴィーヴルの翼、顎を糸で固定しろ。また、首と尾を繋いで固定し完全に動きを塞げ。ただし、糸の太さは鉛筆の直径より大き目にすること。総員、K90を援護。以上!』
「指示が来た……!」
K90? はて、誰だ。
「眠さん、誰だかわかります?」
「えっと……絡新婦です」
「絡新婦……一体何を」
「余所見してられるのかしら?」
「っ!」
眠さんを抱えて飛び上がる。
直後、先ほどまで私達が居た場所を巨体が通過する。
というか、この日和見藍という娘。龍を使役できるなんて、想定外にも程がある。
「鈴鹿さん!」
「あれは……」
絢爛豪華な衣装を纏った女の妖怪が、まっすぐヴィーヴルへと向かっている。
あれが絡新婦か。
絡新婦は、手から糸を出し、ヴィーヴルの翼を縛る。まず右側の翼を封じる。
これでもうあいつは飛べない。
「その程度の糸、引きちぎれ!!」
だが、無意味に翼が動くだけで、糸が千切れる事はない。
続いて、左の翼も動きを封じられ、縛った翼同士もまた糸で縛られる。
それでもまだ、ヴィーヴルは地を這いずり、巨体をうねらせ私達に襲い掛かる。
が、ヴィーヴルの口を絡新婦が糸で縛りつけたため、大口を開けることができず、ただの突進と化す。
突撃してきたヴィーヴルに向かい、ぬりかべが突撃。その勢いを止める。
なお、本来のぬりかべの外見は白獅子かカバに近い。巨大な壁に小さな手足のあるあの形状のぬりかべは、とある漫画家によって描かれた創作の姿である、なんて言ってる場合じゃないか。
「ぬりかべ、そのまま押さえててください!」
だが、正面突破を防いだところでまだ巨大な胴や尾が残っている。ヴィーヴルはそれを振るおうと身をよじらせる。
「燐ノ介さん!」
「わかってますよ!」
燐ノ介さんと、それに付き添う複数の妖怪により尻尾の動きが抑えられる。
ただ今は胴体が空しく地響きを鳴らしているだけ。
『今だ、K90!! 首と尾を繋いでしまえ!!』
智也さんの指示と共に、絡新婦の糸が放たれた。
その糸は長く、ヴィーヴルの首と尾を締め付け、動きを封じてしまう。
反り返るような形になったヴィーヴルは横転し、胴体を動かせる限りの範囲で動かそうとしているが、それも空しい抵抗だ。
「す、鈴鹿さん……」
なぜか眠さんの顔色が優れない。
「どうしたんですか?」
「あ、あれ……」
「あれ?」
眠さんはガタガタと震えながら、智也さんがいる教室のほうを指差す。
その指差す方向を見ると、どこから持ち込んだのか、教室の窓から身を乗り出し、ガトリング砲を構えた紫苑がいた。
「あ、あはは……」
大きく息を吸い込んで――――
「総員、ヴィーヴルから離れろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
直後、ガトリング砲が火を吹いた。




