坂上妖怪屋敷8
一方その頃(なぜか言わなければいけない気がした)僕、坂上智也はというと――――
「坂上くんからいくつもの妖怪のニオイがする」
登校中に遭遇してしまった委員長に絡まれていた。
「なんでもいいじゃん」
「なんでもよくない!! もしかして、何か揉め事にでも巻き込まれたんじゃないでしょうね?」
半分正解。油取りっていう妖怪に襲われました。
そういえば、足刺されたのにどうやって僕普通に歩いてたんだろう。今も痛くないし。
「なんで目をそらすの? まさか、心当たりが――――」
「ないよ。別に。いいじゃないか、どうだってさ。委員長からすれば、他人事なんだし」
「他人事って……!!」
なんかすごく怒ってるのは解る。けど、何に対して怒っているのかがわからない。
「あのね、妖怪と関わっていいことなんてある!?」
「ある」
あの両親のところにいるよかしっかりとした生活ができる気がする。
朝食を比べてみようか。
実家の時は……マーガリンを塗りたくったトースト一枚とインスタントのレモンティー。
妖怪屋敷の朝食は……アジの開き、ワカメの味噌汁、十六穀米、キュウリの浅漬け。
皆様、お解りいただけたであろうか。この栄養バランスの差。ていうかそもそも、皆様って誰に対して皆様なんだろうか。
「あ、あんたねえ……!」
懐からお札を取り出す委員長。
あれ、なんだろ。このイヤな感じ。
「今、ここでその根性ひん曲げてやる」
「言ってる事が何かおかしいんですけどぉッ!?」
しかも、お札がバリバリ電気みたいなの放ってるしッ!
え、何これ。朝っぱらからサバイバルゲーム開始ですか?
「天誅!!」
「その言葉はおかしいぃいいいいいい!!」
投げられ、まるでマジックショーで使われるナイフがごとき勢いで僕のほうへと飛来するお札。
それをマトリックス避けする僕。
スカーン
しかも、それが命中した駐車禁止の道路標識に突き刺さった。
「こ、殺す気か!?」
「バカは死なないと治らないでしょ!」
「死んだら元も子もないわ!! ていうか、死ぬなら自分で死に方選ぶわ!!」
いくら死にたがりでも、同級生に殺されたかない!!
「逃がすか!」
「逃げねえよ!!」
次の一撃を、身体を捩じらせて回避する。
スカーン
音のしたほうを見ると、今度はどこかのオッサンが被ってたであろうヅラが、コンビニの看板に貼り付けられていた。
「おまっ、他人にまで危害加えるなよ!! 今の委員長、妖怪とかよりもよっぽど妖怪らしいよ!?」
「誰が鬼で悪魔で人手なしかああああああ!」
「言ってねえよッ!!」
スカーン、スカーン、スカーン、カキーン
カキーン!?
何、何なの今の音!?
「待ちなさい!!」
ていうか、凶器が紙だから警察も銃刀法違反とか、危険物所持とかでマークしてないってのが一番怖い!!
紙って、強度的には木と一緒だから、本当は滅茶苦茶危ないんだぞ!? だから時々紙でも指切ったりするんだぞ!!
「とりあえずお札投げつけるのやめてもらえないかな!!」
「じゃあ式神で――――」
助けて、鈴鹿さん!!
む。なにやら智也さんの身の危険を感じましたね。
「むむ。これはどうやら本気で門を開けなければならないようですね」
「だからといって、私を……呼ぶ、な……」
ああ、眠そう。すっごく眠そうだけど頑張ってね、朔。
「ああ、もう駄目。死ぬわ。眠くて死ぬ。明るくて死ぬ。おやす、み……」
「朔、寝たら部屋にあるお酒全部飲むから」
「はい、おきてます」
夜行性なのに、紫苑に「酒を飲む」といわれただけでシャキッとして活動を開始する朔。
「今日はなんだか、飲みたい気分なの……」
そりゃあ、あれだけ精神にダメージを受けりゃあねえ。
「その大半はテメェだぞ、鈴鹿」
「はて、なんのことでしょう」
「加害者はいつも自分のやったことなんて覚えてないんですよ!!」
さて、そんなことより――――
「そんなこと!?」
「ちょっと紫苑。人の心の中を読まないでください。もう、眠さんじゃあるまいし」
「そういえば眠はどうした?」
「はて。そういえば今日はまだ見てませんね」
「眠なら……あそこに」
引きつった顔の朔が指差す先には、パジャマのままシャチホコのように仰け反り、すぅすぅ、と寝息を立てている眠さんがいた。
眠さんの部屋は二階のはず。なのにどうやって一階の、しかも庭の部分で寝るような器用な真似ができるんでしょうか。それよりも、なんでシャチホコポーズで寝てられるんでしょうか。
あ、よく見ると眠さんの部屋の窓ぶち抜かれてる。これは……落ちたな。だったら起きろよ、といいたくなるが本人が寝てるので仕方ない。
しかし、どうしたものか。
智也さんを助けに行きたいものの、門があかな――――
「あの、鈴鹿さん。門、閉め忘れてますけど?」
燐ノ介さんが軽く触っただけで開いた。
「こっ、これは……ゴル○ムの仕業だ!!」
『な、なんだってぇー!?』
「ていうか、お前等もボケに付き合ってねぇでさっさと坊主ン所に行けよ!!」
そうでした!!
すっかり本来の目的を忘れていました!!
「とりあえず、椿折と朔は付いて来て下さい。残りは玄関を死守。あーゆーおーらい?」
「慣れてないなら英語使わなくてもいいですよ」
「れっつぱーてぃ!!」
「行くぜ行くぜ行くぜ行くぜェェ!!」
「推して参る……」
とりあえず、三者三様のポーズをキメてみてから走り出した。
こうしていると、ふと思う。
私達、ものすごく暢気だな、と。
こちら現場の智也です。むしろDEATH。
カカカッ、という感じでお札四枚によって両腕と両脚を見事に封じられていた。
ていうか、人の服に穴あけるなよな。
「さあ、観念しなさい」
「あの、委員長さ。ポキポキ関節鳴らせると、あまりよくないよ?」
「ダラップ!」
なんか訳のわからないことを言われたんですけど?!
「さあ、ゲロっちまいなさい。カツ丼も出すわよ」
そういってカツ丼(なぜか手足つき)を出す委員長。
それはもはや食べていいものなのかと、ものすごく疑問なんだが。
「ぼくカツ丼のドンちゃん」
「喋ったッ!?」
「腹話術です」
「嘘つけい!」
「ぼくを食べて、君も元気百倍になろうよ」
口パクをするが、タイミングがまったくあっていない。
「さあ、Eat or Die?」
「究極の選択?!」
「むしろ、Die or Die」
「死しかねえッ!」
「さあ、ボクをおた……べほいみッ!?」
ドンちゃんがきれーに吹っ飛んだ。中身をぶちまけながら。
きっとアニメとかならモザイク処理しなきゃいけないようなものまで飛び出している。
うわーなんだろー。
逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃ……いや、逃げなきゃダメだ!!
「ったく。これで俺が助けるのは二回目だぞ。坊主」
「え、ああ。椿折さん。それに……」
「早朝から物騒な事をしてくれるな、陰陽師」
「朔さん!」
でもなんで電柱柱の上に? スカートだから中のパンツ丸見えですよ。
ちなみに、黒でガーターベルトつき。
って、いかん。僕は何を見てるんだ!!
「感心せんな。そもそも陰陽師とは、人間をまも……り…………」
あ、あれ? 何か朔さんの様子が変だ。って、まさか……!?
「あや、かゆ……うま……」
「おい、テバサキィッ!! 寝てんじゃねえ!!」
「ハッ!!」
やっぱり、眠いんですね、朔さん。
「こいつら……妖怪!」
あーあ。委員長が警戒態勢に入ってるよ。
でも、その表情はとても余裕のあるものではなく、むしろ緊張で強張っている。
いくら僕が一般人程度の能力しか持っていないとしても、椿折さんの強さはこの目で見てるし、朔さんきっと強い。
何より――――
「本当に、感心しませんね。人間を守る陰陽に通ずる者が、我を忘れて人間を追い回し、危害を加えようというのですから」
この人たちを纏め上げる、鈴鹿さん。
この三人に囲まれた委員長は、既に震えていた。
「そこの二人はともかく、貴女だけは知っている……」
「どうも」
「って、おいコルァ、小娘!! テバサキはともかく、俺を知らねぇだとぉっ!?」
「椿折、黙ってて」
「だがよぉ!」
「黙りなさい、椿折」
その声に、椿折さんの顔が引きつる。
「ごきげんよう、鈴鹿御前」
「ごきげんよう、陰陽師」
なぜか、貼り付けにされた僕をほったらかしで、笑顔の女二人が火花を散らしている。
ていうかなんかドス黒いオーラが見える気がする。
「この度は、我が屋敷の主に対する無礼。それ相応の覚悟があっての事とお見受けしますが」
「貴女こそ。人間の少年を、自分達のほうへと引き入れて何をするつもりですか?」
両者共に譲らず、そして折れない。
というか、椿折さんと朔さんは何をしに出てきたんだろうかと思うほどに空気と化しつつある。
「すぅ、すぅ……」
「ああ、もう!! テバサキ、寝るなぁッ!!」
で、いざ目を向けてみればこの通り。シリアス台無しである。
「今ここで決着をつけてもいいのですけれど……右京、左京」
「え、きてるの?」
「はい、来てます」
「はい、来てます」
と、二人がかりで鉄のように硬く壁に突き刺さったお札をはがしてくれる。
「ありがとう、右京、左京」
「いえいえ」
「いえいえ」
「智也さんは学校へ行って下さい。私達はこの人に話があります」
「鈴鹿さん、でも……」
「あと十分で遅刻ですよ?」
うわ、本当だ。コレは急がないと。
でも、委員長もほっとけない。
「委員長も、バカなことしてないで学校へ……」
「そうね。その通り」
「放課後、こちらから学校へ伺います。全員で」
全員で? まさか、屋敷にいる妖怪全員で委員長を襲う気なのか?
「いいでしょう。私も本気で式神を使って暴れたいと思ってたところなんです」
委員長、実は破壊マニアとか何かですか?
いや、問題はそんなところじゃない。
委員長と、鈴鹿さんたちが戦う?
駄目だそんなの!
「坊主、口を出すなよ。俺達にとって、あそこにいる女は一度白黒つけねぇといけねぇ相手なんだ」
「その通りだ。故に、戦いは避けられん」
朔さん、実はまだキャラ定まってないでしょう。
「いきましょう、坂上くん」
「え、あ、うん。それじゃあ、また後で」
「はい、行ってらっしゃい、智也さん」
すごくギスギスした空気のまま、僕は委員長に引きずられ、鈴鹿さんの目だけの笑顔による見送りを受け、学校へ向かうのだった。




