坂上妖怪屋敷6.5
智也さんの性格が、これでもかというくらいにネガティブ思考で、歪曲している理由が、智也さんの部屋へ荷物を取りに行って理解できた気がする。
両親とのすれ違いが原因なら、それは本人達にしか改善できない問題だ。もし、智也さんにその気があっても、相手がそうでないのならば意味がない。
智也さんの話では、彼の両親は本当に息子に対する興味がないようで、何をやっても文句一つ言わないらしい。完全に、親子の関係が冷め切ってしまっている。こうなると、もう改善なんてできない。
ならばせめて、なんとかして、彼の性格を改善させていきたい。
だって、彼は私の愛した人の子孫だから。
しかし……このくらいの年齢の男の子なんだから、えっちぃ本の一冊くらいもっててもいいようなものなんだけどな。
ハッ。まさかそういう趣味――――な、わけないか。それなりに私の事を意識しているようですし。健全なる一般男子高校生、といったところですかね。
「楽しそうですね、鈴鹿さん」
「はい。それはもう」
ただ、一つだけ気に入らない点を除けば。
智也さんから、知っているニオイがする。
それも、私の嫌いな類のニオイだ。
なんとかできないものか……うぅむ。
「あ、あの……鈴鹿さん?」
直接手を下す、というのもアリですが、それではこの屋敷の存在意義を、根底からチェス盤をひっくり返す――――もとい、ひっくり返すようなもの。
「どうやったら……あの陰陽師のニオイを消せるんでしょうか」
「陰陽師のニオイ、ですか」
「ああ、すいません。ちょっと考え事をしていまして」
燐ノ介さんと喋っていたのに、その直後にいきなり意識の外に追いやっていた。
それほど重要な問題なのですよ、これは。
権利争いで、ロボットとキャラクターの権利はとれたけれど、世界観の権利を勝ち取れなかったので後々のシリーズに出し辛くなってしまった、という問題くらい重要な問題なのです。
ネタがかなりマニアックなので、どれほどの人がこれを言って理解できるかどうか。
「智也さんから、どうも私達の敵のニオイがするんですよね」
「そうですね……右京さんと左京さんに調べてもらっては?」
「ああ、あの双子はダメです」
「どうしてです? 優秀だと思うのですが……」
「あの双子には無理です」
「だから、どうして――――」
「学校で爪研ぎしたらどうするんですか」
「……あ」
「ね?」
猫ゆえに、柱見るたび爪を研ぐ。
お、綺麗にまとまった――――でなくて。とにかく潜入が得意で、それなりに戦闘力もあって、目立たない人材を選ばない、と?
「……」
目立たない?
「紫苑さんにお願いしましょう」
「鈴鹿さん、今ものすごく失礼なことを考えたでしょ」
「てへっ☆
――――いや、ないわ。自分でやってて今ものすごく死にたくなった……」
「だからってそんなに青ざめて身震いしなくても……」
二〇一〇年六月十八日。
本日の天気は、晴れ。
降水確率二十五パーセント。周辺への隕石落下確立十二パーセント――――
「って何だこの新聞!?」
なんで隕石落下確立なんて書いているの!?
「今朝天狗が持ってきた新聞ですよ」
と、紫苑さんが僕の読んでいた新聞をそっと取り上げて読み始める。
天狗め。なんて訳のわからない新聞を。
ていうか、僕の知ってる天狗のイメージと大分違うんだけどさ。
「えーっと……あらま」
「どうしたんですか?」
「地球上で最強の生命体にセガールが認定ですって」
「セガールが?! え、何、妖怪よりも強いの?」
「ス○ウターで計測したところ、○カウターが壊れるほどの戦闘力が――――」
「何で調べてんだよ!? ていうか、どうしてスカ○ターなんてあるんだよ!?」
「セガール氏は、インタビューに対して「ジャッキーかシュワちゃんかと思ってたよ」と答えた」
「何妖怪の取材に答えてるのセガール!?」
「惜しくもセガールに敗れたジャッキーさんは「いい試合だった。感動した」と答えたと――――」
「それ、日本の総理大臣の名言だからッ!!」
「一方、遅れをとったシュワルツネッガーさんは「アシャルリターン」と答えたと――――」
「そこは、「アイルビーバック」だろ!? なんでそれなの!?」
なんだこのツッコミどころ満載の新聞は。
「おはよーございま……すぅ」
「ちょっと、朔さん。なんで来た途端に畳に寝転がって寝ようとしてるんですか。
夜行性なのはわかりますけど、せめて朝食くらい食べてから寝てください!!」
「それもどうかなあ、と思うんだけど。あっ……これは」
紫苑さんが天狗が持ってきたという、ツッコミどころ満載の新聞を凝視する。
「あの、何かあったんですか?」
「いやあ、たいしたことありませんでした。ただツチノコが捕獲されたっていうだけでして」
「いやいやいやいやいや!! それ大ニュースだから。たいしたことあるから。何その新聞。ふざけた内容ばかりかと思ったら、とんでもないニュースも仕入れてるじゃん」
「そうですか? ツチノコって結構美味しいんですよ? 特にダンボールの中に隠れて食べるのが絶品とか」
この屋敷の人間は全員ゲーマーかアニオタか、そんなのばっかりだったりするのか?
「あ、そろそろ時間ですよ、智也さん」
しまった。ツッコミに集中しすぎて朝食食べ切れてない!
ご飯を一気に口の中に入れ、それを味噌汁で流す。詰まりそうになったが、何とか飲み込み、口にアジの開きを咥える。
「あら、智也さん。学校に行くんですか?」
今は喋れないので、鈴鹿さんの問に頷いて答える。
「じゃあ門を開けますね。屋敷に戻る時は連絡していただければ、開門の準備はしておきますので」
「あ、はい。お願いします」
一度アジを口から離し、また咥える。
「いっへふぃふぁふ!」
今日から、ついに新しい家からの登校が始まる。
なんだかちょっとワクワクしてきた。




