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坂上妖怪屋敷  作者: 銀色オウムガイ
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坂上妖怪屋敷6

 食事の後、どうせだから、妖怪屋敷に引っ越してしまおうという話で、僕の部屋を用意してもらえることになった。

 しかしロクに荷物も持って来てなかったのと、あの澱みのこともあるので一度部屋に戻ることになった訳で。

 なんでも鈴鹿さん曰く、妖怪屋敷は現代を生きている僕が管理人となったことで常に表の世界に存在できるようになったらしく、鈴鹿さんに抱えられて家屋の屋根を飛び回るという貴重な体験をした訳で。

 で、ここでふとした疑問。

「じゃあ、常に裏側にあるのにどうやって鈴鹿さんは僕と接触したんですか」

 と訪ねてみたところ――――

「たまに歪みみたいのができるんです。それを利用してやってきました」

 との返答がありました。

 ちなみに、屋敷の門は僕と鈴鹿さんが一緒に外出するためしっかりと閉めてきた。

「おーい、おいで」

 猫の耳と尻尾が生えた澱みに……毛が生えました。

「あら……澱みがすねこすりになりましたね」

「すねこすり?」

「ええ。人に害の少ない妖怪です。人間の足元に擦り寄って、歩きにくくするだけの妖怪です。

 まあ、人懐っこい妖怪ですし、そのままペット感覚で連れて行っても問題ないんじゃないですかね」

「へえ。妖怪っていろいろいるんだなあ」

「そうですね。私だって、昔は盗賊ですよ?」

「え、そうなんですか?」

 驚きだ。今の雰囲気からはとてもそんな荒っぽいことをやっていたようには見えない。

「それに、右京と左京も元々は人を襲って食べていたような妖怪ですよ?」

「ええっ!? あの二人がですか!?」

 あんな静かな子が人間を襲っていたなんていわれても信じられないなあ。

「椿折も、紫苑も、朔も。元々は人間に少なからずの害を与える類の妖怪なんです。それを……田村麻呂様が救ってくださった」

 鈴鹿さんは、急に遠い昔を思い出すかのように、遠くを見つめ始めた。

「鈴鹿さんは……田村麻呂さんのことが本当に好きなんですね」

「ふえっ!? あ、あはは。そうですね。今も……愛してます、なんて言ったらきっとあの人は怒るんでしょうね」

 僕に振り返って笑う鈴鹿さんは……泣いていた。

「鈴鹿さん、泣いて――」

「あ、あれ。なんでもないんです。あ、あはは」

 この人は……出会ってからずっと笑っている。まるで笑う事で自分の感情を押し込めているような。

 でも、僕には何も出来ない。

「本当に、どうかしてますよね。いきなり泣き出すなんて」

「……あまり、一人で抱え込まないでくださいね」

「善処します。それで、この子の名前どうしましょうか」

 きゅー、と可愛く鳴く澱み改め、すねこすり。

 見た目は猫そのもので、たん、と飛び上がる動作もしなやかで猫そのもの。

 ただ、ものすごく人に懐いてくる点では、猫とちょっと違ってるかな。

「そうですねえ、名前、どうしましょ」

 いざ、となるとどうも思いつかない。案外名づけるって行為は難しいものなんだな。

「そもそも、お前、雌雄どっちだ?」

 と聞かれても喋れない故にどうしようもないのだが。

「ちょっと待って下さいね」

 鈴鹿さんが、すねこすりをひょいっと手の平に乗せて、尻尾を持ち上げる。

 あ、やっぱそこで判別するんだ。

「女の子ですね」

「そうなの?」

 と、一応すねこすり本人に確認を取ってみると、こくんと頷いた。

「女の子っぽい名前のほうがいいかな?」

「そうですね。この子が気に入る名前でないと意味ないですからね」

「じゃあいくらか候補あげてみましょうか」

「それがいいですね」

 とはいったものの名前が出てこないなあ。

 あ、そうだ。

「ジュン、チョーサク、ショージ」

「智也さん、絶対昭和生まれですよね」

「いえ、平成です。鈴鹿さんのほうは何か思いつきましたか?」

「えーっと」

 お、考えてる考えてる。


「チョースケ、ブー、コウジ、チャ、ケン」


「なんか八時に全員集合しそうな名前ばっかですね?!」

「いえ、つい」

「じゃああれですよ。思いついた名前を並べていきましょう」

「そうですね。そしてこの子に選ばせましょう」

 といって紙に思いつく名前をすべて書いていく。

 まずは鈴鹿さんから書き出す。

 書いた名前は、杉崎、春原、伊藤まこ――――

「って待て。待ってじゃなくて待て」

 思わず鈴鹿さんの手を掴んで、名前を書くことを阻止する。

 やべえ。この人実はかなりアニメやゲーム好きだな。

「はい?」

「なんでヘタレを全面的に押し出されて、時々しかかっこよくならないキャラを選択したんですか。ていうか今明らかに、と、って書こうとしましたよね?」

「ハハ、ナンノコトヤラ」

「というか、この子女の子ですから!」

 まったく。女の子らしい名前ねえ。

 言葉、世界、レナ、秋葉、琥珀――――

「待って」

 今度は鈴鹿さんが僕の手を止めた。

「なんでヤンデレになりそうな名前ばかりなんですか。人によってはルート限定ですけど」

「鈴鹿さん、実は夏と冬の祭典とか行ってるでしょ」

「ええ、かなりの頻度で。月○とひぐ○しのなく頃には買いました」

 やっぱりか。

 しっかし、なんで二人ともボケ倒すかな。このままじゃあラチがあかないぞ。

 あと、こんだけボケ連発してたら面白くない。

「そろそろ、真面目に考えましょうか」

「そうですね。じゃあ、ねねこ、とかどうです?」

「ねねこ、ですか?」

 すねこすり本人は、どうやら気に入っているようだ。

「じゃあ、今日からお前はねねこだ」

 喜んでいるのか、その場で飛び跳ねるねねこ。

 よかった。気に入ったようだ。

「さて、本来の目的に戻りましょうか」

 そういえば、僕はここに荷物を取りに来たんだっけか。

 全然整理してないなあ、何処になにがあるやら。

「智也さん。ベッドの下は……」

「何もありません。だから顔を赤くしてもじもじしないでください」

「そうですかー」

「あからさまにテンション下がらないでください」

「とりあえず、このベッドどうします? 私ならこのまま運べますけど……」

「いや、それは置いておいてください。さすがに窓から持ち出せる大きさじゃないですし」

「それもそうですね」

 とりあえず、大きくて丈夫な袋は持ってきたけど……これに部屋中の本全部入るかな。主に漫画だけど。

 部屋の中をせわしく走り回っているねねこが、どことなく微笑ましい。

 鈴鹿さんの足にすりより、甘えているように見える。

 擦り寄られている鈴鹿さんのほうも、嫌な顔せず「あらあら」なんて笑っている。

「あ、これは……」

「どうしたんですか、鈴鹿さん」

「これ、なんですか?」

「そ、それは!!」

 ポケットピ○チュウじゃないか!! しかもカラー。

「初めて小遣い貯めて買ったのに、親が勝手に部屋を掃除して行方不明になってたんだよなあ」

「そうなんですか」

 おお、懐かしい。流石に電池は切れてるよな。小学生のころからの行方不明だし。

「あ、こっちにもこんなものが」

「手のひら○カチュウじゃないか!!」

 さすがに十年以上放置していて、塗装もはげているが、間違いない。

 それだけ放置してたら流石に電池切れかな、と思った矢先。

『ピカ○ュウ』

「電池切れてねえ――――――――――――――――――――!?」

 鈴鹿さんの手で通電して音出た!!

 なにこれ、無駄な感動をありがとう、手のひらピカチ○ウ。

「とりあえず、単行本と衣類。あとはゲーム機くらいですかね」

「そうですか。ならこの袋で十分ですね」

 というわけで、荷物の選別終了。

「あ、そうそう。ご両親にはもう引っ越すって伝えたんですか?」

「……いいんです。あの人たちは」

「……そうですか」

「行きましょう。僕はもうこの家にいたくありません」

「分かりました。ですが、いつか両親の大切さを知る事になる、ということは覚えておいてくださいね」

「はい」

 それは、僕にも解っている。いや……正しくは解っているつもりなんだろうな。

 きっともっと年を重ねない限り、それを理解することなんてできないんだろう。

 今はただ……両親のことが疎ましい。

「さて、帰りますか。私達の家に」

「え、あ。はい」

 そうだ。これからはあの妖怪屋敷が僕の家なんだ。

「はい!」

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