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屋上の匣  作者: 春夏秋冬
1/1

1、匣の夢

そこに、匣が見えた

幾重にも重なる匣、広がる匣、見渡す限りの匣がそこにはあった

私はその光景を只眺めている。


いや、正確には眺めているのでは無い。


『眺められている』


匣にはこちらを見る無数の眼があった。

それはまるで私の全てを見られているようで身震いがする。

(ああ、これは悪い夢だ)

匣に見られ続けるなんて現実では起きる筈も無い、だからこれは夢だ。

『これ』を夢だと思わなくなった瞬間に身震いは無くなったし早く夢から覚めないものか。とさえ考える余裕すら出来た。


匣は変わらずこちらを見ている。

口は見当たらないので何かを語りかけたいのかは分からない。

しかしこちらを見る事を止めない。

他に見るモノも見当たらないからなのかもしれない。


見定める訳でも無く、無機質に、淡々と。

そんな表現がよく似合う冷たい眼だった。

「そうか」

思わず声が漏れる。


(いつもと同じじゃないか)

私がそれを自覚した途端、上下の感覚が逆転する、視界がブラックアウトする。

『何か』に引っ張られ意識が急浮上する。


「暑い」

それが全く意味の分からない夢から覚めた。現実を突き付けられた私の第一声だった。



脳内90%くらいの覚醒具合でぐるりと教室を見渡す。

いつもと変わらない、うだるようなような暑さは変わってほしかったが。

机に突っ伏して寝ていたので体が硬い。

椅子の背もたれに思いっきり体重をかけ伸びをすると聞き覚えのある声がした。


「お姫様は漸くお目覚めか、この暑い中眠れるなんて魔女の呪いでも無いと難しいだろうに」

本を閉じる音と共に私にそんな言葉をかけてくる人間なぞ一人しか心辺りはない。


笹原彩乃、幼馴染と言えば聞こえは良いが良くあるようで余り無い腐れ縁の友人である。

「この先生きていこうと思ったらこの位の特技は必要かと思ってね」

軽く頬をこすりながら机を見る、ヨダレを垂らしてはいなかったようだ。

それにしても冷房の一つも付いてないこのオンボロ校舎が恨めしい。

少し離れた所にある私立は全室冷暖房完備だと誰かが言っていた。

進学先の選択肢を間違えたか、と私が悔やんでいると手に持った本を学校指定の鞄にしまいながら彩乃が後ろから話かけてくる。

「それにしても豪快に寝ていたね、山本も凄く何か言いたそうな顔をしてたよ」

そう言うと又鞄から本を取り出す、装丁が違うのでさっきとは違う本だろう。

ちなみに山本とは我がクラスの担任である。


「ホームルーム位寝てても別に問題ないでしょ、それよりその鞄何冊本入ってるのよ」

ペラペラをページを捲る音を聞きながら私は彩乃に聞き返した。

彩乃は俗に言う速読技能の持ち主で暇があれば本ばかり読んでいる。

「今日は8冊かな、お弁当も持ってきたし」

教科書に加えて8冊の本にお弁当である、相当腕力鍛えられてるんじゃなかろうかこの女子高生。

彩乃と喧嘩するのは控えよう。そう決意した瞬間いつものチャイムが鳴り響く。

今日も退屈な一日の始まりだ。



現国、歴史と教室の熱気と闘い疲れた私は机に突っ伏していた。

周りを見ても暑さのあまり脱ぎだす男子生徒がいる始末である。

羨ましい、私も真似しようかと逡巡するが流石にそこまで捨てられない自分が恨めしい。


そんな、瞬間、だった。

ぴしり、と言う感覚と視界のノイズ。


「匣。。」


さっきの夢でみた匣が、ノイズに紛れて見えた。

見るな。

私を見るな。

見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな


「大丈夫かい?」


彩乃に肩をぽん、と叩かれた。

同時に吹き出すような汗と目眩、正直やってられない感じだこれ。

私は鞄から水筒を取り出し中身の麦茶を一気飲みすると立ち上がり。


「保健室、行ってくる」


そう行って教室を出た。

保健室に向かって歩き出す私の後方から授業開始のチャイムが鳴り響いた。




「あらいらっしゃい」

保健室に入った私に声を掛けてきたのはいつもの保健師の声では無かった。

確か最近心理カウンセラーだかなんだかで赴任してきた女性だ。

名前はえーと、思い出せん。


「すいません急に目眩がして、休ませて貰っても構いませんか」


カウンセラーの女史にそう告げると答えを待たずにベッドに移動して倒れ込んだ。

駄目と言われてもこれではどうしようもあるまい、実際立ってるのもしんどいのだが。


女史は特に気にする様子も無く何かの書類を眺めていた。

「ええ、もうすぐ先生もお戻りになるからそしたらもう一度報告を」

こちらの体調に付いて聞くつもりは無いらしい、物理的な医学知識は無いのだろうか?

そんな事を考えながら天井を眺めていた。


「ああでも名前位は聞いておかないとね」


書類をバサリと置きながら女史はこちらに声をかけてきた。

こっち来て名札見てくれ、と一瞬思ったが私は自分の名前を口に出した。

女史は何か紙に記入しているようだった。

保健室の利用者名簿か何かだろう、そう思いながら私は全開になった窓に体を傾ける。


外の様子がよく見える。風通しも良いので私は少し眠気を感じながら外を眺めていた。

その時である。


目が、合った。


夢で見た光景、こちらを見定める様な目がこちらを見ていた。

しかしそれはほんの一瞬で、すぐに目線はぐちゃり、と言う音に変わった。


反射的に身体を起こし、窓から身を乗り出す。

「止めなさい!!」

女史の声が後方から聞こえたが既に手遅れだ。


赤と白が混じってぶち撒けられている、白い部分はナンダロウ、硬そうなのは骨だけど柔らそうなのは。

そこまで考えて私は反射的に胃からこみ上げて来る衝動に逆らえず、胃の中の物を全てそこに吐き捨てた。

女史にはそのタイミングで腕を引かれ身体を支えられる。

同時にチリチリとしたノイズを感じながら私の意識が沈んで行く。

遠く、上のフロアから狂乱と呼ぶに相応しい叫び声の大合唱を聞きながら。

はじめまして。こんな隅っこの隅っこにまで来て頂きありがとうございます。

まずは話の触りだけ書いてみました、いかがでしたでしょうか?

ここからどこにでもいそうでいない女子高生の、ちょっと不思議な学園ミステリの始まりです。


どうか最後までお付き合いを頂けば、幸いです。

それでは、次回の更新で又お会い致しましょう。

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