8 英雄達を作った時間
異常な汗をかいて目が覚めた。
いつもよりは早い時間だ。
上半身だけ起こした俺は
なんだか体の重さを感じる。
ここで俺はやっと思い出した。
魔法をかけ続けて寝ていたことに…
でも、これでわかったことは
解除するまで継続するという
イメージで行った魔法は
魔力が続く限り継続できるということだ。
しかし、俺には不思議だった。
一晩中、魔力を放出していたのだ。
魔力の枯渇状態になってもおかしくない。
でも、現状では1.5倍の重力の
重さは感じるものの、
魔力の枯渇感はなかった。
今までどんだけ放出してんだよ!
ってツッコミたくなる気分だ。
昨日までの無駄な魔力の放出は
よほどすさまじい放出量だったか…
しかしまぁ、一度でいいから
自分の魔力の総量とか魔力の回復力とか
この魔法にどれくらい魔力を使うとか
ステータス的なものが見れれば
違うやりかたがあるのに…と
俺は考えていた。
ってそう願えば、以前にでた
世界のシステムの声的なのがでるかなぁっと
思って念じてみたが
やはり、そんな甘くはなかった。
まだ、朝も早いので、
俺は汗を流そうと水浴びにいった。
不思議だが、
たった一晩で、1.5倍の重力は
そこまで酷ではなくなっていた。
いや、重いには重いのだが
昨日よりは動ける感じだ。
一日で慣れていくものなのか?
疑問には思うのだが
常時回復の魔法をかけ続けている
俺が言うセリフでもない。
さっぱりしたところで
俺は、板の間に向かった。
俺が板の間に入るとすでに
メンバーの全員が座っていた。
毎度お馴染みの朝の光景なのだが、
なぜかいつもと違う雰囲気だ。
梵天だけが、誇らしくこちらを見ている。
なんだ??
でもその仕草で、俺はなんかわかった。
梵天はあれから、このメンバーに
あることないこと言ったのだろう。
梵天を含む12の瞳からは
尊敬ビームが俺に向けられている。
なんかめんどくさくなって
俺は「いただきます」って感じで
朝の膳を食べ始めた。
さすがに昨日ほどの食欲はない。
いくら慣れたといっても
1.5倍の重力はしんどいのは間違いない。
俺はいつもの?量を食べて箸を置いた。
すると、梵天が小声で俺に話しかける。
「ここではあまり話せませんので
本日のお迎えには、皆でまいります」
俺はとりあえず頷いた。
ここは、板の間で、色んな人間が出入りする。
耳を立ててる輩もいるだろう。
外が安全ではないが、ここよりはいい。
ってでも…
別に謀反を起こすわけでもない。
子供が蘆名の為にがんばろ~って話だよね?
なにか隠すことがあるのか?
俺は、まずそこに疑問を感じながら
板の間を出るのだった。
俺は結局、いつも場所で鍛錬を行った。
両目とも回復と重力に当てているため
ひたすらに身体の鍛錬だ。
今日は屋敷から木剣を持ち出している。
俺はこれを正眼から
ゆっくりと振っていった。
10振りもすれば、俺は
肩で息をする。
そこで、回復を強めに調節して
それを整えていく。
何時間振っていたのだろ。
俺は、体力の増減より
魔力の調節ってのを身に着けていた。
要はイメージの調節か?
まぁでもこんなことを続けていれば
いずれ、体力も向上するだろうと
俺は信じていた。
いや、確信していた。
…信じるしかなかった。
数年後、思った事だが、
この時期の俺は、
めちゃくちゃな鍛錬をしていた。
疲れるまでやる。
強制的に体力の回復。
また、疲れるまでやる。
しかも過度の負荷でもある
重力をましましにして。
最初こそ1.5倍だが
最終的には3倍までの重力に耐えた。
これで体力が強化できないわけがない。
なんでそんなんばっか…
他にやることがあるだろって思うけれども
まぁこの時期はそれしか
やることがなかったんだ。
だからこそ、こんなめちゃくちゃができた。
俺や俺の周りは
この10歳の春の時期から
どんどんと変わろうとしていた。。
陽が傾きかけるまで
俺は身体鍛錬を続けた。
それはもう、バカみたいに。
木剣をただ振り続けるように
周りには見えただろう。
それくらい自然に
俺は体力の浪費と回復を
できるようになっていた。
この草原は基本的に誰も来ない。
そういう認識がいけなかったか?
思いっきり無茶苦茶をしていた。
気配を感じてふと顔をあげる。
そこには、梵天たちがすでに居た。
どれくらい前からいたのか
俺は、かなり驚いた。
「声くらいかけろ。
ちょっと恥ずかしいじゃないか」
俺は、板の間の面々に向かって言った。
彼らは見惚れたような表情で俺を見る。
「いつの間にそんな剣術まで
さすがは武丸様です。見惚れてました」
梵天が言う。
恥ずかしい気持ちになった俺は
それ以上追求しても意味のないことを知り、
彼らの前に腰を下ろした。
彼らや面々などの表現を使っているが
こいつらは皆、異母兄弟だ。
いつの時代もどこの世界も
血のつながりというのは大切であり
それは俺にとっても大切なものだ。
彼らは俺の周りに腰を下ろすと
まず、俺をまじまじと見つめた。
それはそうなのかもしれない。
今まで武丸の瞳は両目とも漆黒だ。
だが、今の俺の両目は漆黒でもなく
しかも両目とも違うのだ。
俺は現在使っている魔法を説明した。
っていうより、魔法の放出から
キーワードが瞳。そしてイメージという
俺が身につける至った過程を説明した。
我が父の子である俺たちは
基本的に皆、魔法が多少は使える。
魔法ってのはある程度は遺伝もするらしい。
ちなみに多少といったが
全員がすでにこの国では有数の魔力量を誇る。
紅丸と空我、蓬莱に至っては
すでに父である堂水を超えているだろう。
多少とは俺と比較するとって話だ。
つまり俺が、特殊なのだ。
まぁそれはわかってはいたのだが。
ただ、使える以上、この手の話は
興味津々の様子だ。
それを身につけて実践ってのは
難しいかもしれない。
しかもまだ、重力という概念を理解できなく
体に負荷をかける魔法程度しか
話はできないのだが…
皆、兵法や剣術を勉強、鍛錬しているのだが
個々で能力が少し異なる。
圧倒的な身体能力を持つ
「梵天」(風系魔法も所持)
父と同等の火系魔法に才を持つ
「紅丸」
基本は水系だが実は希少な氷魔法を持つ
「空我」
地系の魔法ではすでに蘆名随一かもしれない
「蓬莱」
剣術では梵天を上回り、木系魔法も使える
「伊之助」
身体的にはイマイチだが座学では才を見せる
「藤丸」(火系の魔法を所持)
それから半年。
この異母ではあるが兄弟たちと一緒に
俺自身も鍛錬をし続けた。
俺達は笑いあい、叱咤しあいながら
己の能力を磨いていった。
俺は、朝から1人で色んなことを
試したり、練習したり。
もちろん身体の鍛錬もだ。
魔法も鍛錬のときでさえ、
重力魔法はそのままに
回復を解いて、片目だけで練習した。
陽が傾いてから陽が暮れるまでは
兄弟達と共に鍛錬をした。
藤丸に座学を学び、
伊之助を剣技を試しあい
蓬莱と空我に得意の魔法を見せてもらい
紅丸に父の魔法の本質を教えてもらい
梵天と重力忍耐合戦などを試みた。
そして、俺達は誓い合っていた。
蘆名を旭の国統一を成し遂げることを。
俺達は誓っていた。
蘆名を旭の国を世界に轟かすことを。
そしてその頃にはもう彼らは誓ったいた。
一生、武丸に忠誠を誓うと。
彼らは、朝食以外の時間でも武丸と接し
武丸と一緒に汗を流し
武丸と共に叱咤激励しながらも
武丸の圧倒的過ぎる能力や知識、
振る舞いや容姿などの
その存在感に、そのカリスマに魅了され
いつしか、自分達の忠誠を捧げるのは
武丸のみと思うようになっていた。
のちの歴史学者も一様に
武丸を中心とした蘆名一族の少年期は
非常に重要な時間だったとしている。
実際に東都帝国の回顧録でも
この時期は才能の開花が異常な速度で
繰り返されていて
周りが同等に進化していくため
本人達に自覚はないのだが
通常ではありえない速度で
彼らは皆、成長していった時期だったと
藤丸をはじめ、各自が各々記している。
それほど、彼らにとって
かえがえのない時間だったのだと
思わずにはいられない。
~世界征服 11、12話より~
ここまで読んでくださってありがとうございます