7 母と父とすれ違いの愛情
梵天と屋敷に戻る。
梵天の目がうざくてしかたない。
なんなんだ?
梵天は、かつてない程の
尊敬と畏怖の眼差しで俺を見つめている
梵天は体格もよく、
10歳にしてはかなり身長もかなり高い。
そんな男が、今まで以上に
甲斐甲斐しく世話を焼くようになった。
むさ苦しい…うざい。
さらにちょっと無下にするとシュンとなる。
きもい…ああぁ子供なのに全然かわいくない。
なぜか10歳の子供の背中に哀愁を感じる。
俺が悪いのか??
まぁ、俺を信じてくれるってだけで
ありがたい話なのだが…
そんなこんなでやっと
自室に戻った俺には
やらなければいけないことがあった。
なんといっても
重力魔法と生身の身体強化の続きだ。
できるかどうかはともかく
実験は行った。
ここは出来る!と信じてやるしかない。
俺の目的としている身体強化。
要は重力魔法で体を覆い
常に自分に負荷をかける。
そして、同時に回復魔法で
常に回復し続けるというものだ。
両目での実験も行った。
「さぁて試してみるか……」
結果的にはあっさりうまくいった。
今までも魔力は纏っていた。
ここに重力の属性を足す。
1.5倍の重力だ。
これは左目で担当した。
そして右目で体力の回復。
つまり、回復の魔力で体を覆い、
その上から重力の魔法で体を覆う。
今まで同様。
魔力で体を覆う、垂れ流し状態だが
今は、それに属性を加えた感じだ。
微量の回復を常に行うことで
体力のない俺でも
重力に耐えていけるという寸法だ。
まぁ今までと同様に
魔力の垂れ流しに見えなくない。
これに慣れたら
だんだん重力の負荷を上げていこうという
俺の目論見もあった。
しかし、1.5倍というのはしんどい。
いや、動きたくないというのが本音。
俺は、結果的に
座り込んでその重力に耐えていた。
そうしていると侍女が晩御飯を持ってくる。
正直、腹は減っていた。
でも、この重力のせいで
食欲がイマイチになっていた。
しかも、一口食べるのが…というか
手を動かすのがきつかった。
1.5倍の重力とはこんなにきついのか…
なぜか、いつもの倍ほどの量を盛られた
晩の膳の半分も食べることが出来ず、
俺は膳を下げてもらい、
そのまま横になった。
途中、涼みに一度起き上がったものの
やはり、体が重すぎて
床を敷き、今度は本格的に横になった。
魔力の枯渇のイメージはまったくない。
もしかしたら、俺は
魔力の回復力も異常なのかもしれない。。
そんなことを考えつつ、
魔法自体は維持して
俺は眠りについた。
現在の武丸の専属の侍女「かすみ」。
この侍女の本来の役職は
士津の侍女であり、
その中でも「武丸係」になる。
実はこの武丸係。
士津の侍女の中でも
魔力をある程度見ことのできる
ある意味エリートのみが
就くことができる役職だ。
かすみは武丸が寝たのを確認すると
士津のいる離宮に向かった。
今日の武丸を報告するためだ。
今日の武丸は少し、いつもと違った。
なんと朝食を4膳も食べたのだ。
しかも、朝の段階では
魔力の放出がほぼ感じられなかった。
元気いっぱいの感じで
今までの武丸からは想像できない。
それらを考慮して
夜の膳は、かなり多く持っていった。
しかし、やはり武丸はいつもどおりで
なんとなく気だるい感じで
膳の半分も食べ切らず、
早々に横になってしまった。
そしてなにより、
魔力の放出もいつもと同様に感じられた。
かすみは、たまたま朝だけ
気分がよかったのだろうと判断した。
まぁ間違ってはいないが
かすみがもう少し、魔力の識別ができたら
士津は報告を聞いて
違う考えに至ったしれない。
蘆名士津はその立場上。
跡取りである武丸という存在は
彼女にとって居なくてはならない存在。
その個人能力はともかく
身体的に健康でないと
士津自身の正妻の座も危ない。
こう書くと、
士津が腹黒い女の印象をあたえるし、
実は周りも士津は
武丸をなんらかのアイテムのように
扱っていると思われがちだ。
そう思われがち…というより
「思われている」といったほうがいい。
しかし、士津にとって、
そんなことはどうでもいいことだった。
ちなみに夫である堂水さえも
士津にとっての重要度は低い。
実はこの時、士津は思いを巡らせる。
もっとも愛する我が子と
蘆名の正妻というめんどくさい自分の立場に。
自由に我が息子と話すことも
ままならない己の立場に。
配慮をめぐらせるのであった。
矛先は8人も嫁を作った堂水だ。
「あのバカが側室ならいいのに
片っ端から嫁にするから
こういう状況になる。
めんどうだ…めんどうだ…めんどい」
独り士津は愚痴る。
いくら武丸が愛おしくても
離宮の長として
正妻として、
毅然と振る舞わなくてはならない。
少なくとも本人はそう思っている。
離宮の妻同士の関係は良好だ。
それは堂水の人柄も影響するが
基本、浮気した町娘を側室ではなく
すべて妻にしてしまった堂水。
そんな妻たちは皆、勝気な士津と違い、
ほんわかとした気質の持ち主達で
妻というより側室気分。
現状に満足しているし、
幼馴染であり、家柄も上級であり
堂水をあごで使うような士津と
離宮の中で争うなど皆無だった。
本来、士津はなんでも
自分の思う通りにできるのだが、
いくら武丸が実子でも
武丸は蘆名の跡取りという
立場の人間なのだ。
本来でれば
武丸を抱きしめて
毎日過ごしたい!
しかし、さすがにそれはまずい。
「私は一応正妻なのだから
こんな中だからこそ、
私だけでも
気丈に振る舞わなければ…
武丸…ごめんね」
そう言い聞かせ耐える…
過保護の息子ラブの母親が
ここには居た
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蘆名術方王堂水。
通称は、術方堂もしくは蘆名の鬼神。
旭の国の中でも豊かな土地を持つ
蘆名家の家主であり、君主でもある。
そして、武丸達の父でもある。
「紅蓮」と言われるの炎の使い手で
一騎当千などではなく
一騎当万などといわれるほどの魔力と
旭の国に名を轟かすほどの剣の使い手。
彼は実は大変な子煩悩である。
そして弱点は、能天気な性格と士津。
妻を8人も抱え、
さらには、幼馴染でもあり
もっとも愛する士津を正妻とし
子供を何人も賜った。
しかし、妻同士のいざこざも多く、
おのおのの子供と接してしまうと
さらに熾烈な争いの種になる為、
彼は基本的に子供とは関わらないでいた。
(ちなみにこれは勘違いである。
堂水が勝手に思っているだけで
妻同士の仲は良好でかしない。
堂水の想像と願望?みたいなもの)
唯一の別格が武丸だ。
というより、
彼にとって士津という女性は別格である。
幼い頃からの仲でもあるっていうのも理由だが
彼にとって唯一、本気で愛する女性である。
その子供が武丸だ。
しかも待望の男子である。
愛おしい以外のなにものでもない。
正妻とはいえ士津を相手にすると
他の妻からのバッシングがひどくなり
それこそ、やっかみがえげつなくなる想定。
実は、そんな事情から
あまり、士津とは会えない状態だった。
(士津に会うと怒られるから
ちょっと避けている部分がほぼ)
しかし、武丸はまた違う。
正妻の長男である以上、跡取りでもある。
跡取りとしての教育など
大義名分が整っていて
多少は接しても、問題ないのだ。
彼は実は、何かというと
武丸にちょっかいを出していた。
しかも武丸は非凡な才の持ち主だ。
魔力だけなら圧倒的だ。
本来であれば、毎日武丸と鍛錬をし
魔法の使い方も剣技も教えたい。
しかし、彼は君主だ。
彼の行動は逐一、妻達のもとの報告され
武丸を必要以上にかまうと
あれこれと意見が飛んでくる。
(基本、慈愛の意味の言葉なのだが
堂水が勝手に斜めに捉えている)
それでも彼は自分の子供の中で
唯一、武丸にだけは声をかけ続けていた。
でもそれは、父ではなく君主として
接している言葉で。
まぁそれは彼が武丸を溺愛しすぎてて
照れ隠しのように発していたのだが…
とはいえ、その言葉に
武丸が怯えていていることを
周りから聞かされ、落ち込んだりもしていた。
武丸が9歳頃(俺が武丸になる前)の話だ。
それ以降、彼は武丸との関係修繕に
努めようとしていた。
もちろん、士津にも相談したのだが
不器用な男扱いされ、
出来る限り、やさしく適度に接しようと
心に決めていた。
しかし、武丸が10歳なる頃。。
そんなことにかまっていられない状況になる。
北の蟹崎だけでなく、中央の木曽までもが
この土地を狙ってきているのだ。
今で言う関東地方と東北地方の
お互いの領地の間でも
小競り合いが頻繁となってきていて
多くの兵力を駐屯させている。
そこに中央の木曽が
海岸線に攻め立てようとしていた。
蘆名は今で言えば
関東と静岡、山梨、長野を領土としている。
木曽は近畿と福井、石川、岐阜、新潟、
そして愛知を領土。
四国と中国地方は三好。九州は尼川。
そして、東北と北海道を蟹崎が握る。
今まで木曽は三好方面に戦力を割いていた。
それが蘆名方面に向くとなれば
木曽、三好になにかしかの条約が
結ばれたのかもしれない。
実は彼は情報を大切にするタイプの人間。
実の子供達をはじめ
武丸に至っては、3人もの間者を
護衛がわりにつけている。
特に武丸の話はここ最近、
ニヤつきながら聞くのが日課だ。
そんな彼は海の向こうの国にまで
間者を飛ばしている。
国内であれば、なおのことだ。
その情報には、停戦も条約のことも
全く入ってこない。
彼は、蘆名の首都である東都と
最前線でもある、静岡の県境あたりを
行ったり来たりの毎日を過ごしていた。
~世界征服 10,13話より~
ここまで読んでくださってありがとうございます