6 幼き日の猪将軍 蘆名梵天
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日が傾きかけてきたので
俺はいつもの草原に向う。
梵天が俺を迎えに来る場所だ。
別に迎えに来てくれなくてもいいのだが
今までの慣習に倣って
寝そべって、梵天がくるのを待った。
ちょっとしたこの時間。
とりあえず俺は
目を閉じて今までの事を考える。
《まぁ考えるといっても…
もう、俺と武丸は同化している。
この世界に来る前の
あの日…あのあと、どうなったのか?
日本はどうなったのか?
もちろん、それは知りたい。
つっても俺には知る由もないし
知ったところで何にもできない。
実際問題として今、俺が武丸である
それは確実な事実。
ならば俺は、蘆名の息子 武丸として
俺は生きていかなければならない。》
「で??????
だから俺にどーしろと?」
そんな疑問を発してみる。
もちろん、答えなんて帰ってこない。
神様でも話しかけてくるんじゃって
なんとなく考えてしまった。
「ふふん」
傍から見れば10歳の少年らしかなる表情で
俺は、諦めたように自笑した
《俺が武丸なんだ。
どーしてこうなったかも
わからん。
なら、前を向くしかない。
少なくともあいつに誇れるような
あいつになっていこう…とは思う。
まぁでも俺は俺だ。
思うようにやるしかないか…》
もっと軽い感じでいいのだと
俺は改めて考えていた。
ならば、楽しもう!
幸い、体の憂いはなくなったし
魔法なんていう男のロマンの塊も使える。
旭の国を統一ってのも
なんか〇〇の野望的な?ロマンがある。
俺は再びいやらしい微笑みを浮かべた。
そんなことを考えていると
遠くから、梵天が走ってくる音が
聞こえてきた。
梵天はいつも私塾が終わると
走って武丸のもとにやってくる。
梵天にとっては日課のようだ。。
「武丸様 おやすみでらっしゃいますか」
少し小さめの声を梵天が発する。
「起きてるよ。考え事をしていた」
俺は梵天に軽めに答えた。
「では少し鍛錬をしましょう」
息を整えた梵天は細身の木剣を一本
俺に渡そうとする。
身を起こして俺はそれを受け取った。
木の枝ではない、剣の刀身を持って
俺はテンションが上がった。
俺は、立ち上がって木剣を一振り。
そして、正面に構える梵天に構えた。
すると、怪訝そうな表情をする梵天。
そして梵天は意を決して発した。
「本物の武丸様はどちらに?」
俺は目を見開いて梵天を見た。
続けざまに梵天は言う。
「今朝からおかしいと感じてました」
「武丸様はどちらにいらっしゃいます?」
梵天から凄まじい殺気を込めた言葉が飛ぶ。
俺は、なにか苛立ちを覚え、
無言で梵天に対峙した。
まぁ今までが今までだし…
正直、梵天を敵にしても仕方ない。
俺は今後も考えて、梵天に話しかけた。
「気づいていたのか…
梵天…俺は昨日から
今までの俺とは、明らかに違う。
俺は今まで常に魔力の枯渇状態だった。
理由は、魔力が体から
勝手に流れ出てしまうことにあった。
それが、昨日。うん…まさに昨日だ。
偶然にそれを留められるようになった。
まさに枯渇している状態から
通常に戻れたってことだ。
だから俺は今、蘆名武丸本来の実力を
出すことができる。」
そういうと梵天は目を見開いた。
「梵天。俺は蘆名の跡取りとして
これからやっと、前に進む。
今の旭の国の情勢は知っているだろう。
俺は負けん。
この国を統一しうる為に
生を受けたのだと心に刻み
蘆名を轟かせる為にこの腕を振るう」
なんか驚きを隠せない梵天の表情に
さらに勢いあまって
蘆名が日本を統一するために立ち上がると
梵天に高らかに宣言をした。。
途中から梵天は涙を流していた。
梵天は10歳には見えないほどの
屈強な肉体を持つ男。
完全に10歳には見えない。
そんな男が溢れんばかり涙を流した。
そして、俺が調子に乗った宣言を
聞くとそのままひざまずき、
「我が忠誠のすべてを武丸様に」
と、頭を垂れた。
実に感動的な物語のシーンなのだが
少し、めんどくさくなった俺は
「梵天。もういい。
早く立ち上がり剣技の鍛錬だ。
遅れを取り戻さないとな」
と、言い放つ。
梵天は、「はい…はい!」と
涙で濡らした顔のまま、
改めて、俺の正面に木剣を構えた。
「こい!梵天」
俺が発すると梵天は、
一気に踏み込んで木剣を振り下ろす。
凄まじく…遅い。
避けるまでもない剣筋を見て
俺は梵天の木剣の根元に剣先を当てる。
手がしびれたのか
梵天は木剣を落としてしまう。
そして
なぜか、尊敬の眼差しで俺を見て
「なにをなさったのですか?」
と俺に聞いてくる。
遠慮と手加減をされていると
思っている俺は、つい強い口調で
「つまらんぞ梵天。
そんなもんなのか?本気でこい!」
と言い放った。
無言で木剣を拾い
再び、正面に構えて梵天。
もう、涙顔は消えていて
その眼光は殺気を纏っていた。
ちゃんと迫力があるだよね。
まぁさっきのじゃ幼稚園レベルの
攻撃だからな。
チャンバラやってるようなもんだ。
俺は、これから来るだろう
殺傷的な剣の攻撃を期待して
少し、体を強張らせた。
梵天は先ほどと同じく
一気に踏み込んで木剣を繰り出す。
先ほどの攻撃とは
踏み込みも剣筋、速度も雲泥の差だ。
「いいね。剣筋に力がある」
俺の言葉に梵天がさらに迫力が増す。
実はこれは梵天の本気の攻撃。
梵天は蘆名の成人前では相当に
強い部類に入る。
兄弟でもある伊之助がいなければ
12歳以下では最強だろう。
でも…
「遅すぎるな」
そう、俺には遅すぎる攻撃だった。
踏み込んで木剣を振り落とした瞬間。
梵天は手に伝わる衝撃に
再び、木剣を落としてしまった。
梵天からすると混乱状況だ。
大人以外に自分の剣を
避けられることは、まずなかったし、
避けられたとしても
その剣を切り返すことで
ほぼ避けられない剣戟となっていたのだ。
それを避けるでもなく、受けるでもない。
いなされたのだ。
高速と自負する自分の剣先を
わざと当てていなす。
そんな人物に出会ったことはなかった。
自分の師匠さえも
そんな芸当を今の自分に対して
出来るとは思えなかった。
それが…
確かに忠誠を誓った相手とはいえ
昨日まで、木剣さえ
まともに振ることもできなかった
武丸に2度までも
同じ事をされてしまうとは…
梵天の心は少し折れかけていた。
魔法の才能が少ないと
わかった時。
実に3歳から剣を振り、
その才能を磨いてきたつもりだ。
あくまで伊之助を抜けば、
12歳以下の幼年部では圧倒的。
18歳以下の青年部でもなんとか
蘆名の中では頂点に君臨できる
技量と才能を
現在の梵天は有していた。
大人の中に混じっても
蘆名では10指に入る実力を持っている。
そんな自分が相手にされていない。
特に2度目は本気の本気。
強化の魔力を纏わせ、
避けても弾いても
2撃目、3撃目と繰り出せる
そんな梵天のとっておきの剣戟。
それを「遅すぎる」と言い放ち
初撃目をまるでカウンターのように
木剣の先にわざと当ていなす武丸。
実は、梵天の真骨頂は
この初撃目のスピードと威力にある。
もちろん、梵天も
それに自信を持っていた。
それをいとも簡単に打ち砕く。
心が折れても仕方なかった。
最終的には木刀の根元に打ち込まれ
梵天は、痺れた手を
地面につき、顔を上げた。
夕日になる直前の
黄色の光を発する太陽を背に
こちらを見つめる主君は
後光が差しているかの様に見えた。
昨日までの弱っていた武丸にも
それなりのカリスマはあった。
母親に言われていたこともあったが
梵天自身、その自身の忠誠を
向けるに十分のカリスマを武丸は
持っていた。
でも、今の武丸は違う。
梵天はもう跪くことしかできなかった。
自身の忠誠を向ける相手から
自身の忠誠を誓う相手。
いや、捧げる相手として…
そうすることで
梵天自身、
心が折れずにすんでいたかもしれない。
ただ、そう考えることで
おのずと、梵天の中で
考えは飛躍していった。
《この歳にして
心から忠誠を捧げる主君に
出会えた自分。
なんと幸福なことであろうか》
主君が誇れる武将になるために
これからが自分の本番だと
改めて心に刻む梵天だった。
武丸はこうして
後世に名を残す一人の武将を手に入れた。
のちにその部隊運用の速さと
強引なまでの突撃と破壊力から
「疾風」と恐れられ、
武丸の軍において
最も相手をしたくない相手と言われる彼は
まだまだ単純で
まだまだ才能を開花していない。
~世界征服8,9話より~
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