異星より来冠者と国際連盟宇宙開発局尋常外対策部隊 その17
【異星より来冠者と国際連盟宇宙開発局尋常外対策部隊 その10】
テロリストを捕らえたとして当局が公開銃殺刑をおこなった。とはいえ、撃たれたのは全て分身なのだが。結局、回収できた変異体は巡洋艦と真実報道者、そして私自身だった。
「ケタケタケタ。高さん、聞きましたか? 変異体ではない一般人がいるにも関わらず艦を撃墜しようとしたことを報道したら日本とアメリカで両国でバッシングの嵐! 暴動も起きているみたいですよ!」
白い金属製の壁に床。逃げ場のない部屋で厳重な監視のもと変異体同士仲良く軟禁状態にあっていた。機械的な笑い声が不気味なくらい残響していく。彼がカメラ頭をこちらに向けると、レンズにやつれ顔の私が映る。
「戦争にはなっていないということですね?」
カチカチと彼は頷いた。テレビで見せたかったですけどねーなどと危機感もなく呟く。
「そうです。あなたの能力で全てを知ることができるのでしょう? これからこの国がどうなるかとか分かりませんか?」
私にとって国が良くなることだけが願いだった。そこに至るまでは大切なものも多かったが、今となってはそんなものはない。
「ケタケタケタ。未来は見れませんよ。せいぜいあなたが知って雑談になることといえば、レーシャちゃんの家族が無事だったとか」
そうか。彼女は大切なものを守れたのか。……その事実は私にとって他人事で、たった二日行動を共にした人がどうであろうと関係ないはずなのに、私は重荷が一つ降りたような気分だった。肩が軽くなった気がする。
「麻真仁がお金を渡したおかげで治療が間に合ったみたいです。しかしあなたもまた、彼女の恩人なのですよ! 高さん、あなたが自ら変異体サンプルとして志願したこと。船まで皆を連れて行ったおかげで結果として船が変異体になったこと。それが彼女の平穏をもたらしましたよ!」
レンズが邪悪な輝きで煌めいた。嘲るような口調のくせに、慰めるようなことを言ってくる。私はただ国のために行動したに過ぎない。変異体を技術として確立できれば産業も、軍事にも、農業にだって革命が起きるから身を捧げる。それだけのことだ。
「……そうですか。なら、良かったですよ。彼女の家にテレビがあるなら、あなたの所為で初めて良いことをした気分になれた。とでも伝えといてください」
「素直じゃないですねぇ! いいでしょう。彼女には何らかの手段で伝えますよ。他にお話することと言えば、仁のデートがもうすぐ始まるってことぐらいですかねー。実況しますか?」
あのデート野郎は本当にデートすることになったのか。彼の青春ごっこのせいで上手く行きそうだった物事がめちゃくちゃだ。思い出すだけでも後悔が募る。次があればきっと、彼を確実に捕らえる自信もあった。次なんてきっと来ないだろうが。
「あの学生がデートですか。……クク。ハハハハハ! いいですね。ぜひあなたの能力で実況してください。彼の醜態を全世界に晒してあげてしまいなさい。いいサプライズでしょう」
これが私にできる小さな復讐であり、最大限の祝福だった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ターゲットアルファが地点デルタへと移動中。あいつ死なないよな? 壊れかけの玩具みたいな歩き方になってるんだが」
新宿の街を歩いていく対象を双眼鏡で監視しながら、オレは隣で野次馬根性を見せる馬鹿二人に声をかけた。ルカもといフレミアの奴が不満げにこちらを見上げてくる。心のなかを覗かれていたらしい。
「馬鹿二人とはぁ失礼ですぅ。私としてはぁ上が機能しなくなって実質クビなレオン君をぉ、あなたに罪滅ぼしの機会を与えるついでに就職先を用意してあげただけなのにぃ」
「おォ! 変化ありデース。ターゲットブラボー……というか優衣ちゃんが新宿に着いたみたいデース。二人揃って三十分前行動デスヨ。確実にムプレの尾行を逸らすためデショーネー」
端末から盗聴器と発信機のデータを観察し続けていたトニーが声を上げた。そもそもいつまで彼らに機械を仕掛けたままなのだろうか。疑問が残るなか仁と優衣が目的の場所で落ち合おうと接近していく。
しかしそのとき嫌な羽音が頭上から響く。見上げるとそこに蜂女がいた。彼女は触覚をぴくぴくと揺らしながら、ジッと仁のことを見つめていた。
「おい、目立つだろう。飛ぶな飛ぶな」
注意をすると思いのほか素直に彼女は従った。翅が巻き起こす風が警戒色の髪を靡かせるなか、ふわりと着地する。立ち振る舞いは以前より何倍もお淑やかで、野性味が無かった。
「ずっと山籠もりしていたから世捨て人になったと思ったんだがな。なんのつもりだ? 悪いがアレの邪魔するってなら殴ってでも止めるよう命令されてる。返答には気を遣うんだな。HAHAHA」
バチバチと軽く能力を発動させて威圧する。けど彼女は邪魔をしたいわけでもないらしく、精々これに反応したのはトニーぐらいだ。敵意の眼差しが向けられる。拳銃が向かないだけ上出来だ。褒めてやりたい。
「カリーナもどきに手を出したら容赦しまセンヨ。アメコミ野郎と映画主人公の能力のぶつかり合いデース」
「失礼な呼び名ハ止めロ。……我が山にいタのは決別ヲつけルためダ。女王様ハ、我に自由にナレと言った。それガ叶っタのは彼のおかゲなんだ。礼がしたクて来た」
蜂女はそれまでの獰猛さが嘘みたいにか細い声でそう言った。目線を逸らすかのように触覚が上の空を向く。表情を隠すように顔を俯けてしまったが、その頬は僅かに赤からんでいた。こいつにそんな感情があるとも思えないが。
「あー……。そうか。だが残念だな。今日は関わらないでやれ。あいつの大切な日だからな。ほら、来たぜ。主役の登場だ。オレ達の仕事は裏であいつを狙う馬鹿共の排除だ。お前も手伝えよ」
オレが指差した先、待ち合わせ場所を見つけられずに彷徨っていた優衣のもとに仁が駆けつける。




