異星より来冠者と国際連盟宇宙開発局尋常外対策部隊 その15
【異星より来冠者と国際連盟宇宙開発局尋常外対策部隊 その9】
弾丸が頬を掠めた。ガシャンとけたたましい騒音を爆音の中心で響かせて、窓が粉々に割れた。すぐに銃を構えて振り返る。鮫の攻撃を受けて気絶していたはずのトニーが拘束も解いて、こちらに銃を向けていた。
「優衣ちゃんを守って撃たれてしまいましたガ、おかげで鮫の直撃は避けられたみたいデスネ。これは幸運か、能力か。どっちもデスカネ?」
こいつは魔法少女よりもアメリカ野郎よりもやばい能力だ。対峙したら最期、運命は彼に味方する。しかし戦って、なんとしてでも変異体を持ち替えらなければ私にも国にも未来はない。
「あなたは苦手なタイプだ。マフィアにいたのでしょう? 沢山人を殺したでしょう? 社会の汚さが見えている。なのにこうして、主人公気取りになって不意打ちをわざと外す。撃ち殺せたでしょう?」
こいつはその気になれば窓ではなく頭蓋を粉砕できたはずだ。能力を使ってもといい銃を取り出せたはずだ。力があるのに有効な活用方法に至らない。……気に入らない奴だった。
「狙いましたヨ。けどこの能力が外させるんデスヨ。アクション映画の主人公はボスを倒すときは必ず向き合ってのタイマンですカラネ」
私は分身を形成して彼を包囲した。四方八方。絶対に逃げられないように部屋の出入口にも通路にも。彼の能力が彼にご都合主義な運命を与えようとするなら、なんとしてでもそれを阻止する。
「人は進化しなければ衰退する。新たな産業を。革命的な力が必要なんですよ! 国のために! 道のために! 私は運命に勝たなければならない!」
こいつを生かしておくのは間違いだった。きっとどれだけ追い込んだって能力で逃げ出す。いつか我々の喉元を撃ち抜く。そうなる前に始末しなくてはならない。
もはや手段など構わなかった。人質が巻き込まれて死んでしまうかもしれないが、分身に引き金を引かせようとした。だが直後、何度目かも分からない衝撃が艦を酷く揺らす。
全身が痺れ頭痛のがするくらいの振動が私自身とトニーを壁へ叩きつけた。
『警告。小破。右舷に被弾。艦が攻撃を受けました。高速飛行モードの中断。依然攻撃機を探知しております。衝撃に備えてください』
分身が倒れ、はたまた窓の外へ吹っ飛ばされていく。暴発した銃が天井に弾丸を浴びせて轟く連続的銃声。誤射による消滅。
「これも偶然ですか!? それとも貴方の力か!?」
勢いのままに態勢を立て直して、トニーと同時に発砲。硝煙と眼前に広がる閃光、耳をつんざく爆ぜる音。弾道が耳を貫いた。肉片が吹き飛ぶ感覚。熱湯のごとき鮮血が飛び散る。遅れて鋭い痛みが走った。歯を噛み締めて苦痛を堪える。
しかしこちらの放った弾丸は彼の左胸へ吸われるように命中していた。確実に致命傷となる場所を射抜いたのだ。トニーが銃弾の衝撃に吹っ飛ばされて再び体を壁に打ち付ける。そしてそのままズルズルと脱力していく。
……やったか? 仕留めたのか? 一瞬の決闘を越えると、未だ外では爆発が続いているにも関わらず静寂を感じた。
「はは……はははは……!」
これであとは仁とレオン、魔法少女だ。こいつらは人質だけでまともに動けなくなるはずだ。冷静に対処すればいい。母国はもう目の前だ。私は私自身にそう言い聞かせて、不安を押し殺す。……本当にトニーは死んだのか? 疑問が過ぎって瞬間的な行動が遅れた。
「……何故、血が出ていない!!」
咄嗟にトニーに向けて残りの弾丸を全て撃ち込もうとしたその瞬間、彼は狙い澄まして拳銃を投げつけた。銃のグリップが頬にめり込む。殴打の鈍痛に頭が揺らされて立ち眩んだその一瞬を突いて、トニーが飛び掛って拳を振るい薙ぐ。
血の味がする一撃だった。続けざまに一発、二発、三発。首が明後日の方角へ捻じ切れそうなくらい殴られて、それから眼前に銃口が向かう。そこでピタリと動きが止まった。反撃できるか? 否、持っていた銃を落としてしまった。拾う前に撃たれる。殴ろうにもその前に撃たれる。
「……偶然か能力かもはやオレ自身にもわからないネ。カリーナが守ってくれタヨ」
彼は種明かしをするように胸ポケットから小さな聖書とロケットペンダントを取り出して、見せ付けた。じゃらりと金属製のチェーンが音を立てる。ペンダントは砕けて、聖書は抉られながらも弾丸を受け止めていた。
「冥土の土産のつもりですか?」
「映画では死んでも俳優は死にまセン。それがオレの能力デスヨ」
そして弾丸が撃ち込まれた。ぐらりと今までに感じたことの無い感覚が頭を震わせて、意識が暗転していく。
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