異星より来冠者と国際連盟宇宙開発局尋常外対策部隊 その9
【異星より来冠者と国際連盟宇宙開発局尋常外対策部隊 その6】
「レオン・ガルシア。起きてください。あなたに掛かっていた能力と麻酔はもう解けたはずです」
事務的な声に呼びかけられて、朦朧とした意識が覚醒していく。ガチャリと手足に圧し掛かる重みが落ちた。目と口の拘束が外される。ゆっくりと目を開けると白い天井に壁。それにサラリーマンのような風貌をした男が映る。安達宗真だ。オレが、協力しなきゃいけなかった相手。
そもそもどうして気絶していたんだったか。HAHA、そうだ。仁って野郎に脚を捕まれたら能力が消えたんだ。そっから殴られまくって、吹っ飛ばされて、意識も飛んだんだ。
「……ここはどこだ? お台場じゃないな。嫌な予感がしてならない。床が揺れてる」
質問すると、安達の奴はチーズみたいに安っぽい似非笑いを浮かべて得意そうに説明してくれた。
「ミサイル巡洋艦揚子江の一室ですよ。しかも護衛艦としてロシアの潜水艦やらが周りにいるみたいです。建前上は高とレーシャ、その指揮下にいた人たちが命令を無視して独断行動を取っているってことみたいですが。もう体調も回復したと思いますが、立てますか?」
手を差し伸べられて、大人しく立ち上がった。彼は自分の力を治癒能力だと言っていたが、どうやら嘘らしい。確かに仁に殴られた打撲の痛みも内出血も綺麗さっぱり消えたが。
「HAHAHA……。どうやってお前がオレを助けれたのか知りたいところだ」
手足の動きを抑え込んでいたのだろう拘束具は、オレの足元でただの金属板になって白い床に転がっていた。よく見れば、部屋の扉もおかしなことに、丁寧に取り外されて壁に寄せられていた。
「あなたは優秀です。けれど家族が、人情的なものがある奴はソレが危険に晒されない限りいざってときに冷徹な判断ができないとぼくは思っています。信用。そう、信用がありません。ですから、能力を教える気はありませんよ。しかし命令だから協力しましょう。あなたは家族のために働くべきだ。これが正義でなくても」
黒い瞳に感情はない。どこまでも冷えていて、底が見えない。一体どんな教育を受ければこんな事務的になるんだ? 嫌なものを見た。娘にはこうなって欲しくない。
「……それで、オレを起こしたってことはまだ仕事があるんだろう? こんな状況でも変異体確保か?」
「いいえ。みすみす変異体を奪われてしまうくらいなら処分してくれとのことです。あなたの力があればそれこそワンパンKOでしょう?」
変異体を確保するのは人類がさらなる進化を遂げるためだと言われていた。おかしなことだとは思ったけど、一理はあった。オレの力が有効に使われれば何人も助けれる。扉の力があれば。真実が知れれば。……けど、この命令は違う。この命令にオレは。
「――――家族が最優先だ。仕事を続行できるなら従う」
従うべきものなのか?




