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新宿デート野郎は核ミサイルにハグをする その1

 【新宿デート野郎は核ミサイルにハグをする その1】



 もし優衣が本当に捕まったのだとしたら。一緒に連行されないと二度と会えない気がした。我ながら無謀だし、無計画だ。おかげで鮫に食われ、気絶してる間に目も口も塞がれて、手錠足枷と好待遇。


 ――くそ、スマホをいっそ口のなかに入れれば良かったんだ。


 アレの能力なら胃酸で壊れることもないし、やろうと思えばいつだって吐き出せた。しかし身動きも取れない現状、事態が好転するのを祈るしかなかった。だが確証のない確信はある。こんな異常事態のなか、誰か一人の思惑だけが通るはずがない。


 そしてその考えは、間違っていなかったのかもしれない。この部屋の扉の音とは明らかに違う、木製の扉がガチャリと開く音がして、そんなことを思った。


『どうもワタシ! 真実報道者でございます! ケタケタケタ! あなたが真実を知りたがっている気がしたのでここに来ました!』


 機械的な声に人を小馬鹿にしたような笑い方。デートのなか割り込んで縁を切れだのムプレを殺せばいいだの提案してきたカメラ顔の変異体か。それは乱暴に目と口の拘束を外してくれたけど、多分助けてくれないだろうな。


「すまん。拳銃は返せないが助けて欲しい」


『ケタケタケタ! あなたが無関係に巻き込まれたのであれば手を貸しますが、そうではないでしょう。白馬のお姫様でも来ることを期待してください。ワタシはあなたが知りたいと思う真実を教えるだけです』


「なら俺と優衣とスマホがどこにいるか教えてくれ」


 いいでしょう。と、彼は快諾して耳元で囁く。ここが中国の巡洋艦の一室であること。本物の優衣がこの艦内にいること。スマホは隣の部屋にあるということ。全ての真実を教えてくれると、彼は逆に尋ねた。


『なぜあなたが捕まったのか。もしこのまま連行されたらどうなるかは聞かないのですか?』


「……無意味!」


 もう一人の自分はそれこそ真反対な奴だったが、彼のおかげで少し大人になれた気がする。


『そうですかそうですか! 随分と達観したようでなにより! ではワタシはこれから高とレーシャに真実を伝えてきましょう! あなたたちが逃げてしまったとね』


 真実報道者が玄関扉を使って悠々とその場から消えると同時、真っ白で無機質なこの部屋の、重厚な金属扉がぶぶぶぶと羽音を立てていく。そして一匹、また一匹と扉が警戒色の色彩を描いて雀蜂を孕み、産み落としていく。


「クレープの借リ、返シに来た。我ヲ、守ろうトしてくれた礼ヲ、返しに来タ」


 数百匹の雀蜂になってしまった扉をすり抜けて、彼女は大人びた眼差しをこちらに向けた。


「ははは……。白馬のお姫様ねぇ」


 廊下からこちらの部屋へとさらに多くの蜂が羽音をさざめかせて飛翔し、天井や壁を歩く。蜂女を守るようにガチガチと顎を鳴らし警戒してくる。今すぐにでも襲い掛かりそうな勢いだ。


「従エ! ……これで問題ハない。貴様の拘束を解こう」


 少女は威厳に満ちた声で蜂に命令をしたかと思うととてとてと歩み寄り、拘束具に触れる。冷たい金属のソレは瞬く間に数匹の蜂になっていく。


 大丈夫だ。刺してこない。怖がる必要はない……ああでも、耳元で羽音を立たせるのは止めて欲しい。


 恐怖心と生理的不快感を堪えながら仁は立ち上がった。蜂女と向き合って、彼女が伸ばした手を握る。もうドギマギだってしない。


「頼む。お前の力が必要だ。優衣を助けてくれ」


「我はお前デはなイ。千歌……ダ。我は力を貸ソう」


 少女はなぜか笑顔を浮かべた。部屋を出ると一直線に白い廊下が伸びていた。そこには既に、黒いボディーアーマーで武装した兵士達が数名倒れ込んでいる。


「全部お前……。いや、千歌が?」


 彼女はしたり顔で深く頷いた。頭の触角がピクリピクリと揺れ動く。


「ム、まだ増援が来ルな。我が僕ヨ! 敵を無力化セよ。仁、走ルぞ」


 命令が空気を震わせて、背後で大量の蜂が廊下を覆い飛ぶなか、仁と千歌は駆け出した。

コミックス:流星の魔法少女☆ムプレ 5


変異体能力:漫画的演出の具現化。および自分自身を五巻時点での魔法少女ムプレに姿を変え、性格、行動原理、重力を操作する能力を得る。


 漫画的演出の効果範囲は魔法少女ムプレ本体の半径50m以内または魔法が行使された場所に発生する。ズドン! などのオノマトペや集中線、吹き出しが宙に出現する。

 後者の能力によってこの漫画本は魔法少女ムプレになっていると推測できる。重力を操作し浮遊、特定のものを捻る。押しつぶすなどを得意とするが最大級の魔法を行使すれば0.01秒だけ自転を止めることもできる。そうなったときの被害は到底考えられるものではない。

 また、彼女に対し不意打ちや嘘。不誠実さを見せると暴走状態に入り、対象を殺害するか自身が無力化されるまで行動を続ける。恋愛感情に対して機敏であるため、その手の話は避けるべきである。

 身体能力もきわめて高く、魔法は至近距離で用いるものもあるが完全に密着すると捻る。押しつぶすなどの魔法は放てなくなる。

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