異星より来冠者と国際連盟宇宙開発局尋常外対策部隊 その7
【異星より来冠者と国際連盟宇宙開発局尋常外対策部隊 その5】
セシリアは偏頭痛に顔を歪めながら、ゆっくりと体を起こした。服は真っ赤に染まっていて、脳天からだらりと血のようなものが垂れる。
「……私は、生きてるのか?」
疑問系だった。記憶が正しければトニーと銃撃戦になって撃たれたのだ。けれどもどこも痛まない。状況理解が追いつかずに撃たれた場所を触ったが、弾痕はなかった。血も作り物だ。
「まさか、ありえない。確かに弾丸は道路を砕くぐらいの威力が……」
半ばパニックになりながら彼女は周囲を見渡した。いつのまにか屋内に運ばれていて、天井は高い場所にあった。そのとき、ガコンと遠くで音が響く。
レイモンドが自動販売機で飲み物を買った音だった。
「ようやく起きたか。死んでいると思ったのに息があったから慌てて運んだのだよ。高とレーシャが案の定動き出したからな」
冷えた缶コーヒーを彼は渡した。受け取って、セシリアは自身の金髪を指で遊びながら忌々しげに眉をひそめる。
「トニーめ。情に流されておかしなことをしやがって。今はどういう状況だ? 石は、変異体はどうなった?」
レイモンドは遠くを見つめた。達観したように一服して、柱に寄りかかる。
「石は回収し終えたらしい。ルカに仕掛けた盗聴器からそう聞こえた。変異体は……いや、我々以外は中国ロシアに連行された。宇宙人への対策として近海で待機していた船は各国あるが、手を出せないでいる。我々はここに待機していろとのことだ」
「化け物蜂はどうなった? 死んだのか?」
「いや、それが……死んだだけなら良かったのだが。もっと酷いことになった」
煙を吐いて、レイモンドは嘆息した。どさりと、土が満杯に詰まったビニール袋をセシリアの隣に置いた。青い瞳が困惑に淀む。まさか、と言いたげに口を半開きにした。
「弾を取り除いていたら突然だ。あれの体が全て土になった。弾丸とかはそのままだ」
「変異体の能力か。トニーのも。その土くれも」
「土に関してはこれが変異体というわけじゃなさそうだ。これはただの土だ。そもそも生きてすらいない。だから致命傷でも問題なく会話ができた。おそらくだが、――――蜂女の能力だろうな。もしくは彼女も土でしかないか。まぁ、我々にはもう確かめる手段はないがな」




