追憶の果てにて
三章:船上デッドオアアライブ
そして音が消えた。まだロケットエンジンは動いていて、爆発するような衝撃と熱エネルギーがそこにあるはずなのに、酷い耳鳴りと共に静寂が訪れた。
太平洋も中国大陸も今や遥か彼方。振り仰ぐ空はあまりに近く、月も星も遠くはない。仁は息を吐き続けた。凍りついた髪の毛と汗が今度は沸騰していく。
てっきり宇宙に行ったら死ぬんじゃないかと思っていた。けれどもスマホによって強化された肉体は耐え続けている。いや、そもそも破裂だとか血液が沸騰だなんてのはフィクションなのかもしれない。
『ははん、君は面白い力があるね。このままいれば確かに僕は永遠に飛べそうだ。それだけ破壊力も高まるけど。でも結局、僕は何のために生まれたんだろう。絶対に使ってはいけない道具で、結局お遊び半分に発射された。僕は一体何のために存在したんだろう』
核ミサイルは飄々とした少年のような声で語りかける。それが音ではない何かだと今分かった。頭に直接響いているから、静寂のなかでも言葉が響く。
仁は喋れなかった。声は絶対に音にならない。黙っていることしかできなかった。そんななか、冷静ではない頭の奥が自嘲気味に呟いた。
――――まぁ、俺に世界を救った男って称号をつけてれたことには感謝するさ。こんなことができるんだ。デートぐらいもう怖くないね。今の俺ならキスもデートもへっちゃらだと思う。はは、間違いないね。
そもそも生きて地球に戻れるかも、戻ったあとまた拘束されるかも分からないけどな。
どうしてこうなったのか。とっくにメルトダウンした脳みそが走馬灯のごとく追憶してつい数時間前のことを思い返す。思い返していくと、もう日常には戻れない気がしてならなかったが、脳裏にはくっきりとそのときのことが浮かんでいた。
高、レーシャに捕まって船で連行されそうになったのだ。ただの船じゃない。宇宙人と変異体への対策として日本領海に待機していた巡洋艦だった。




