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異星より来冠者と国際連盟宇宙開発局尋常外対策部隊 その5

 【異星より来冠者と国際連盟宇宙開発局尋常外対策部隊 その4】



「まだ死なないの! ちょっと悪役にしてはしぶと過ぎるんじゃないかしら!?」


 魔法少女ムプレは狂戦士のごとく空色の魔力を纏ったステッキを両手剣のように宙で振り回す。薙ぎ払う。旋回、回転。遠心力と重力が剣撃を加速させる。


「野蛮ですぅ。当たったら私でもぉ、死んじゃいそうですぅ」


 正直回避はギリギリだった。何度も人間では不可能な、それこそバグったゲームのキャラみたいな挙動で避けたりもした。にも関わらず我ながら減らず口だなぁと感心中。


「うーん。いろんな人をバラバラなところに送っちゃったのが不安ですぅ」


「他人の余裕を心配していられるのも今のうちよッ!」


 そんな悪役みたいな台詞を堂々と言えるのはどうなんでしょうか。私のなかでモヤモヤが募ります。いや、原作台詞だから仕方ないのですが。


「おっとっ」


 斬られるとその部分に重力が形成されて全身がぐちょぐちょの肉団子になるとかいうやばい斬撃をスレスレ回避。防戦一方だ。こんなことならルカちゃんの拳銃を借りるべきだったかもしれない。


「うーん……。しくじったですかねぇ」


 戦いより人間の心と対応を見て楽しく過ごしたいのに。今なら特にセシリアちゃんとトニーを、


「見たかったですぅ」




 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




「ヘックシュ! んー、美人の女の子たちが噂しているデスカネー」


 トニーのくしゃみが広いエントランスで反響する。吹き抜けになったそのエリアは屋内でありながら太陽光も差しており、開放感があった。


 しかし無人となった今、恋人たちが語り合うはずのカフェの丸テーブルにも、お洒落な椅子も寂しげに置かれているのみである。


「冗談も大概にしろ。そもそも私は貴様のことを仲間だとは思わない。ああ確かに、上からはイタリア、ドイツ、イギリスと協力してねって言われたがいざ来てみたらどうだ? 老いぼれ! 犯罪者! 宇宙人に明らかに盲愛しやがったくそったれ男女おとこおんなだ。わかるか貴様。おまぬけ日本が監視対象に接触するわ真実報道者が――――」


 ぐちぐちと協調性の欠片もない文句を口走るのはフランスからこの作戦に来たセシリア・ル・プィチだった。まるで子供のような幼さのある顔立ちに、低身長。真夏にも拘わらず露出皆無の黒い軍服に着られていて、恰好がつかない。


「フランスも人のことを言えないデショー? こんな可愛い女の子を寄越したん痛い痛い痛イ!」


 トニーが膝を曲げて視線を同じ位置にし、手を差し伸ばすが彼女はその腕に関節技を決め込む。惚れ惚れするような金髪が揺れ、敵意剥き出しの碧眼が睨む。


「私は! 25だ! わかるか? 多国語を話せて荒事も完璧。それでお前みたいなチンピラを油断させるこのルックス。だから選ばれた。誰も立候補者がいなかった腑抜けの国と恩赦を要求する類い稀なる犯罪者様様とは違う。一緒にするな。第一私はイタリア人っていうのが気に入らないんだ。まるで自分の国の料理が一番みたいな顔してる。お前が代表例だ。宇宙人に媚び売って楽しいか? そもそも――」


「その辺にしておけ。トニーも煽るな。セシリア、君はあの宇宙人に好かれてないからと言って八つ当たりをするな。ルーカスとあの少年が異常に気に入られてるだけだ」


 二人の間に割って入ったのはイギリス人の男だった。老年で、髭も髪の毛も白く染まっている。防弾ベストも着ておらず、暑そうにワイシャツの腕を捲っていた。


「でもレイモンド」


「愚痴を言うのはいつでもできる。わたしだって可能であれば君たちとではなくガオやレーシャと行動を共にしたかった。彼らの行動は牽制すべきかもしれないからな」


 レイモンドと呼ばれた男は時代遅れなキセルを吹かしながら鬱屈げに愚痴を零す。濁った琥珀の双眸がトニーとセシリアを睨んだ。


「……確かに、そうだな。中国とロシアは間違いなく無関係のあの女も含めて回収しようとするはずだ。我々が何としてでも見つけなくては。それにあの蜂女が人間を殺傷しようとする可能性は高い」


 セシリアは髪を軽く整えると駆け足で移動し始める。重装備で、まるで抱えるようにサブマシンガンを携帯しながらもその動きは軽快だ。


「あぁあああああ…………。あああああああああああああああああああ!!」


 ちょうどそのとき、同じ建物内から聞いているだけで胸を締め付けられるような、孤独感に泣き叫ぶ少女の声が響いた。耳にして、三人は声のする方向へ顔を向ける。表情は一転して険しいものへと変わった。銃を持つ手に力が入る。


「映画館方向デース。急ぎまショウ」


「言われなくても分かってる」


 そのとき確かに三人は同じ北欧の人間として、一蓮托生のチームとなり動いていた。銃を構えて、映画館に続く扉の前で息を整え、壁に背を寄せる。


「準備はいいか? 銃にも耐える生命力だが有効であることは判明している。襲い掛かってきても冷静に対処するんだ」


「お爺さんが体力的に一番問題ですケドネー。……行きまスヨ」


 ダン! と、打ち付ける衝撃音が響く。トニーが悪鬼のごとき形相で扉を蹴り飛ばした音だった。その刹那、セシリアとレイモンドは身を屈めながら標的を探し、即座に見つけると同時に銃口を向けて声を荒らげる。


「動くな! 動けば撃つ!」


 二人が視界に捉えたのは長椅子に倒れ込む巨大な蜂の怪物だった。毒々しいまでの警戒色。銃痕だらけの甲殻にボロボロの翅。とても動けるものではない。


「蜂の化け物か。生きているのか?」


 三人は最大限に警戒をしながらゆっくりとその蜂へと歩み寄る。


「人間共。残念ダガナ、意識ト声ダケハアル。死ンダフリダ。クカカカ……」


 蜂は穏やかな言葉遣いで、恥じるようにそう口にした。ガジガジと、悪魔のような大顎が震える。


「我々は殺傷を望んでいない。そちらが攻撃をせず、協力するのであれば今からでも保護を行う」


 セシリアが毅然とした態度で蜂に対応する。殺しを望まないと口にしながらも決して銃口を下ろそうとしない姿に、トニーは苦笑を隠せない。


「もうちょっと冷静に対応すればいいじゃないデースカ。彼女が抵抗するつもりならとっくに能力を受けてマスヨ?」


 命令に従わせる能力。どこまで効果は把握しきれていないが、先に戦闘が起きた際、レオン達からそう伝えられていた。


「あなたが文字や言葉をどこまで理解しているかはわからないが、わたしには医師免許がある。攻撃意思がないのであれば、……虫の手術は初めてだが可能な限り善処はできる」


 レイモンドは懐からそれを取り出し、見せつけた。黒い三眼がその年老いた手を見つめる。


「信ジラレヌナ。貴様ハ駆除シヨウトシタデハナイカ」


「それはそちらが攻撃したからだ。貴様は実害を与えたわけではないから和解が可能であると判断したまで。見た目がきしょいからって殺すつもりはない」


  セシリアは良くも悪くも取り繕うとはしなかった。蔑みでも敵意でもない、ただただ鋭い眼光が蒼く凛としていた。


「……攻撃意思モ何モ、コノ身体デハ抵抗モデキヌ。ダガ協力スルツモリハナイ。放ッテ置イテクレナイカ」


 聞かれるまでもなく蜂女と女子高生の行方を黙秘すると言う。拷問するとてそもそも瀕死なうえに虫に痛覚はなく、ナンセンス極まりないものだった。


「ふふ、レディは秘密があるくらいが魅力的デース。ペラペラと包み隠さず罵倒するフランスガールは見習うべきデハ」


 トニーがからかうと、セシリアは純粋たる怒りに満ち溢れた睥睨を返した。外見こそ子供そのものだが気迫と怒気は軍人のそれである。


「浮かれ犯罪者。事故死に見せかけて殺したほうがイタリアは喜ぶだろうな。レイモンド、治療してやれ」


「どっちをだ」


 さらりと毒のあることを言うレイモンドにトニーは表情筋を引き攣らせる。反して、セシリアはにやりと微笑んだ。


「くそったれ犯罪者の脳みそは不治の病だ。蜂を任せる。私たちは二人を追う。ガオとレーシャが、いや、レオンと安達でもダメだ。とにかく確実に面倒ごとになる。ほら、行くぞ犯罪者」


[分かってマスヨ」


 二人はそう言ってターゲットの捜索を再開して、足を進めていく。


《英、仏、独、伊で協力して宇宙人との問題を友好的に解決しろ。事件に巻き込まれた被害者、変異体の人間を人道に基づいて可能な限り保護を行え》


 この作戦に従事する際に言われた言葉に三人は従っていた。しかしルーカスの行動は既に紀律を乱している上に、現時点で蜂女は人を殺そうとした危険な存在として認知されていた。

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