異星より来冠者と国際連盟宇宙開発局尋常外対策部隊 その1
【異星より来冠者と国際連盟宇宙開発局尋常外対策部隊 その1】
拝啓。この通信は25ヶ国語で融通の利きそうな、もしくは力がありそうな国に連絡します。こんにちは人類。我々はあなたがたからしてみると宇宙人という奴です。本当ですよ? まぁ疑ってもこんな連絡を出来る技術は今の人類にはありませんからすぐに分かるでしょう。天文観測所では大騒ぎでしょうね。
さて、さっそく本題に入らせていただきますが、進化の隕石と呼ばれる重要なモノを誤って日本の東京のどこかに落としてしまいました。大気圏で燃え尽きるような品物でもないので間違いなくどこかにあるはずです。
我々としては人類に迷惑をかけるつもりはないのですが、その隕石の周囲にいると科学では説明のつかない能力を持ってしまう存在が現れる効果があります。きっと放置すれば地球が壊れかねません。我々としても大切なものなので回収したいのです。
そこで、もしよろしければ今度東京の美味しいお店で少しお話がしたいです。ただ権力だとか権利の問題でゴタゴタされても困るので、回収を手伝う人を任意で募集します。一カ国につき一人です。あと多分、その能力持ちを鎮圧する部隊がないと東京が機能不全になると思うので。
それと返信は結構です。以下連絡した場所に直接向かいますので。ただし誰も来ていなかった場合は宣戦布告とみなし、まず最初に地球の外殻を物質消去ビームで粉砕します。
…………そんな連絡を世界各国の天文観測所にしたのが人間時間で一昨日ぐらい。だいぶ国際問題としてゴタゴタしていたが、ダメ押しとばかりに国のトップにメールも送ったおかげで事は進んでくれたようだった。これできっと人は来てくれるだろうと思う。
「まさか隕石を落としてしまうなんて……うー、私のドジめ」
自責と同時に発声練習。本当は発光言語を使いたいところだが、ここは人間共に合わせてやろう。
映像から元に得たデータで親友が人間っぽくなれるスーツも作ってくれたおかげで、今の見た目は完璧美少女であった。多分だが、親友の趣味が入ってしまっている。
黒く長い髪。人で言うならば腰の辺りまで伸びていた。人類の9割がこの服で過ごしているのだと力説されて、キリッと整った黒いスーツを着ている。赤いネクタイがワンポイントだ。 けれど顔の造形が97%までしか出来ていないからと、仕方なくその辺のお店でパクった招き猫の仮面を被る羽目になった。
おかげで完全にみてっくれは変態だ。いや、変人? まぁ多分どちらも同じ意味だろう。
「んじゃ、飛びますかぁ」
私は約束の場にわざと遅れた。五分程度焦らしてから転送装置を起動して、約束のイタリアンの店へと飛んだ。
そこは実によろしい場所だ。蝋燭を模した照明が大人びた明かりを提供し、白いテーブルクロスが引かれたテーブルに、シックな椅子。地球人共は既に全員集まっていた。
皆、半信半疑な様子で沈黙していたが、私が無から現れて、当たり前のように席に座ったのを見ると露骨に警戒してくれた。
険しい顔に冷や汗を垂らす者までいてくれて嬉しい。そう、我々は誇り高き【フレンジィ星人】(人類語で発音すると)なのだから、もっと畏怖されたい。
フレちゃん可愛いし強いし怖いし格好いいと褒められたい。もしそうなれば私が初めて人間に褒められた地球外生命体だ。初めてっていうのは大事。とっても。処女とか童貞とかなんて言葉があるのだから、それは明らかだ。
「やぁやぁ、よく来てくれたネ。私が連絡させていただいた。【フレンジィ星人】のフレミアです。あ、盗聴器はよくないですぅ。机の裏、花瓶のなか、服のなか……ある奴全部壊して、こうですよ」
私はくしゃくしゃに潰した盗聴器を見せた。転移する際に手元に集めておいたものだ。それをちょいちょいと最新似非科学で加工して、立派なプラズマハンドガンを作って適当なやつに突きつける。
「……し、失礼であることを承知でお聞きしますが、本当に地球人ではないのですか?」
尋ねたのはいかにも気の弱そうな日本人だった。しかし狂ってもいる。銃口を額にぐりぐりと押し付けても、気まずそうにこちらを窺うだけなのだから。
手品の一環と思われているのかもしれない。なにせこの人間に見えるスーツの完成度の高さは異常だ。物理法則とかそういうものを色々がん無視しているし、本当に宇宙人かと疑われるのも仕方ない。少し脅かしてやってもいいか。
「しょうがにゃい子だなぁ……」
私は仰々しく立ち上がった。艶かしくこの女体をくねらせて、ばさりと、スーツの一枚を脱いでワイシャツのボタンに手をつける。胸元を一つ開けた。それだけで彼らは僅かに目を見開いた。
ここに来ている人のほとんどが男だったこともあって、性的な眼差しと警戒心が入り混じった気配は感じていて楽しい。
さて、遊んだところで人間に似れるスーツを脱いだ。ちょっと恥ずかしいので数秒だけ。でも充分だった。彼らの好奇の眼差しは一瞬にして恐怖と焦燥に切り替わった。そうそう飴と鞭。多分こんなんで合ってると思う。
「信じてくれましたかぁ? 皆さん。あとそれとぉ、お店の外からの盗み聞きも厨房の裏に隠れてる人も出て行ってくださぁい。私は友好的ですがぁ、次はみじん切りですよぉ」
警告をした。みじん切りにするつもりはないけど、私の本当の姿を見て既に恐怖に支配されていたのか隠れていた奴らは皆脱兎の如く逃げ帰って行った。
静かだった店内がより静寂に包まれた。沈黙すると、厨房から何かを焼く音だけが聞こえた。
「さぁて、本題に入りますぅ。私に協力してその隕石を探してほしいのですぅ。拒否した国にはそれなりの制裁を与えるつもりですぅ。お上に相談してもやれ天文極局だの軍部だのがうざっ殺したくなるのでぇ、その辺は柔軟にお願いしますぅ」
「あー……発言いいか?」
アメリカ代表の男が遠慮がちに声を上げた。ちょうど私の向かいに座っている人で、くすんだ金髪とキリっとした黒と青の瞳が綺麗な人だった。筋肉質で、きっとナンパでいきなりホテル行こうって言っても何人かは受け入れそうなぁ、ルックス。
「もちろんですぅ。さっさと実行に取り掛かりたいから若干暴力をちらつかせてるだけでぇ、代表者の君たちはこれから手伝ってくれるボランティアですからぁ、傷つけるのはバカですからねぇ。ええと、名前なんでしたっけ?」
「レオン・ガルシアだ。まぁできれば覚えないでほしい。これが終わったあとにUFOにさらわれたくないんでな……HAHAHA。それで、なら聞かせてもらうが……探すと言っても手がかりはないのか? 大きさとか見た目とか」
「色は白でぇ、大きさはこれくらいですぅ。でも割れてる可能性が高いのでぇ、クワトロカットですかねぇ」
私は手振りで大きさを説明した。大体、スイカぐらいの大きさだったと思う。あいにくどうでもいいことはすぐに忘れる性格なのだ。
「僕からも質問がありマース。シニョリータ。そしてこちらは前菜のモッツァレラチーズとフレッシュトマァト。それとヤリイカと北海道産ホタッティのガーリックソテーデース」
厨房から陽気な声が響くとともに、ガーリックとローズマリーの香ばしい匂いがテーブルを満たしていく。
現れたのはこの店の料理人代理兼、イタリア代表の人だった。名前は確か……トニー・ルチアーノだったと思う。
唯一スーツを着ておらず、コック服と帽子を被った高身長の男だった。鼻が高く、ヒゲは生えているが不潔感はなく、むしろキリっと整った、それこそ映画俳優みたいな男だった。
「おぉ! いい匂いですぅ。けどチーズのほうはチーズ? なのに匂いもないですしぃ、味しなそうですぅ」
「オー! それはトマァトォと一緒に食べるデース。それと質問なんデースが、どうして僕らまで皆さんの言語が分かるデスか?」
質問に答える前に言われた通りにチーズとトマトを口にする。モチッとした食感、優しい味わいと酸味がマッチして素晴らしく美味。
私は思わずトニーの腕に縋り付いた。さりげなく胸を押し当てると喜ぶと聞いていたが、本当にトニーは鼻の下を伸ばしてくれていた。
したり顔で私の本当の姿を見た人間共を一瞥しているところなど可愛いらしい。彼らが送る同情の眼差しも見ていて面白い。これだから、これだから人間大好き。愛してる。娯楽に関しては我々以上!
「……結婚してほしいくらいですぅ。あと言葉については皆さんのを勝手に変換させてもらってますぅ。質問が無ければ話を進めますぅ」
「料理食べてほしいデース」
「いらないなら私が貰いますぅ。あ、毒はなかったですよぉ」
緊張が緩んだのか、仕方なく従ってるのかは知らないが、ゆっくりとナイフの音が鳴り始めていった。
「本題に戻りますぅ。まぁもうあんまり言うことないですけどぉ、隕石の回収をしてもらいますぅ。そのために私をリーダーとした組織を作ってもらいたいですぅ。各国にはお金と武器、それと日本で色々暴れる権利がほしいですねぇ。名前は……尋常外対策部隊なんてどうです?」
お願いではない。私は瞳に翡翠色の炎を燈した。口調は穏やかに冷淡な殺意を込めて提案するのだ。