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宙にて追憶

 二章:お台場波乱



 雲ひとつない空を核ミサイルは貫く。青空は限界が見えなくて、せめて雲の一切れでもあればここがいかなる場所かより現実味をもって知れたと思う。音速をも超えてただ気圧と速度の生み出す暴風に引き剥がされないように仁はハグを続けた。


 髪の毛どころか服も皮膚も凍っていく。呼吸をしようたって唾液が凍って喉に刺さる。そもそも口なんてまともに開けることだって難しい。けどそのくせにロケットの爆炎と黒煙がすぐ足元で渦巻いて、途方もない熱が脚に伝わる。衝撃と熱さと寒さが全身に畳みかける。


『仁様。現在ワタシの理想の所有者に宇宙でも生きていけるという項目を追加致しました。しかしそれが叶うかどうかは仁様次第でございます。お祈りは致しましたか?』


 胸ポケットのスマートフォンが語り掛ける。内臓を殴打されるような轟音が耳や脳を震わせるのにその声はよく聞こえた。


「俺が祈らないって分かって言ってるだろう。ああ……なんでこんなことに」


 ――――よく考えたら新宿でのデート自体はあのときやってたのか? なぁ、デートの練習でデートするのもデートだと思うか? こんな状況であまりにも場違いな質問を繰り出す自分。馬鹿げてる。新宿を泳ぐ鮫も二次元にいるべき存在が三次元にいることも。全部腹立たしくて仕方ない。


 仁はミサイルと地球の物理法則がもたらす無慈悲な気圧と風よりも自分自身が鬱陶しくて顔を歪めた。するとお節介な核ミサイルがまた語り掛けてくる。


「それで君は僕にしがみついてどうするの? 僕はあの隕石のおかげで強くなった。上空1500キロまで行ったあと落ちるだけ。火力も射程も人類の科学を超えた。地球そのものだって破壊できる。正直僕は誰も殺したくないけどね」


 幼い少年のような声だった。どこから発しているかは分からない。飄々としているようでもあったし、どこか物悲しさもある。――――可哀想なやつだな。こいつは。なぁ、そう思わねえか? ……大量殺戮兵器に同情なんてするな。心のなかでのやり取りに仁は嘆息した。


「殺したくないなら殺さなければいい。俺がそうしてやる。……じゃないと、うるさいんでな。頭のなかが」


 空の青さは消えようとしていた。だんだんと紺と群青を殴り描いたみたいな宙が見えてくる。星が近づいてくる。多分、核ミサイルでこんなところまで飛んだ馬鹿野郎は人類にはいない。


「アハハハ。面白いね。ならば救い出して見せてよ。僕を。僕を作り出して、撃ってしまった愚かな人類を」


「格好つけてるところ悪いが核ミサイル。いや、風狼41だったか。俺の関心事は家でゴロゴロすることで、もう一人の俺は今週の日曜日に新宿でデートをすることなんだ。青春っぽいだろ。人類とかどうでもいい」


 ――――いや、どうでもよくはねえだろ。でも言う通りだ! わかるか!? 俺は青春したいんだよ! んで、あわよくば優衣とイチャイチャしたいんだよ!!


 どうしてこうなったのか。考えれば考えるほど理解外に思考が飛んでいく。ああ……宙を飛んでる所為か? 仁は呆れと数多の思考停止の果てに思い返す。……どうしてこうなった。脳みそがぐちゃぐちゃにメルトダウンしそうなくらい思い返して、浮かんだ思い出はお台場でのデートだった。

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