新宿デート野郎は蜂と宇宙人と手を繋ぐ 終
――――そして帰路についた。本当は十五分で帰宅できたはずなのに、炎天下のなか一時間だ。堪ったもんじゃない。汗だくだくで服が張り付いて不快だった。だからクーラーを掛けっ放しにしておいて、冷え切った部屋でちょっと高めのアイスでも食べようかななんて、ありきたりなことを考えてたんだ。
だから誰か、どうか答えて欲しい。この眼に広がる光景は一体なんなのだろうか。仁は目と正気を疑った。二度見して、それからすぐに眼科と精神科へ行くべきか本気で熟考した。
人だかりができていて嫌な予感はしたのだ。とてつもない不幸がデートに誘われた代償として降り注いでいる。
…………家がなかった。今朝は確かにそこにあった閑静な住宅街の一軒が、二階建てのモダンな家があった場所に直径十数メートルはあろう巨大なクレーターが出来ていた。象二匹分ぐらいまで地面は抉れてガラスやら木材は道路にまで散在していた。倒壊して、宙から落ちたのだろう小さな隕石を中心にして、自宅がそれこそ踏まれたカナブンみたいに潰れていた。
ちりちりと漂う灰色の異臭がもの悲しさをこみ上げさせる。野次馬共は他人事だから人の気も知れずに写真を撮りまくっていた。
「ようやく来たわね麻真仁!!」
親の声より聞いた少女の声と共に突如として全てを包み込むような白い光が街を覆った。それは刹那のことだった。
次の瞬間には光は失せて、誰もいなかった道路に一人の少女が現れた。ふわりと、重力という世界の常識を無視して、羽のように地面に降り立つ。桃色の靴が小さな赤いリボンを揺らしながら、アスファルトを打ち鳴らした。
「な……!! 嘘だろ……!?」
仁は戸惑いを隠せず声をあげた。それが重力を無視したからとか、そんなちゃちい理由じゃあない。……少女の腰まで伸びた虹色の髪。光の反射で青にも深紅にも輝いて、風が吹くと可憐に靡いていた。
「あら! 私に見覚えがあるのかしら!?」
少女は夜空色の双眸とその奥にうっすらと煌めく五芒星を輝かせながら快活な声をあげた。こちらにカツンカツンと靴音を立てて歩み寄っていく。それから、片足だけに履いた薄紫タイツの位置を欝陶しそうに調整していた。あどけなさが残るも艶やかな脚線が際立つ。
彼女は背中側だけがマントのように長い白のミニスカートを穿いていた。少女が脚を動かすと縁についたフリルが柔らかに揺れる。薄紫のブラウスの上に異様に裾が長いピンクと白の星模様のあるカーディガン。袖はなく、肩の辺りに白い翼のようなフリル、襟元に紫のリボン。三日月の髪留め。
すべてに見覚えがあった。あまりカラーで見ることはなかったけれど、今日映画を観たからハッキリと色合いもわかる。
「魔法少女ムプレ……!」
「そう! 正解! もしかして私この世界でも有名人!?」
ぴょんぴょんと嬉しそうに少女は跳ねた。跳ねるたびに無から現れる平面的な『ピョンピョン』という文字と星マーク。何メートルも飛んで、けれどスカートは決して翻らない。それも彼女の能力だった。もし彼女が原作通りの能力を持っていたら――――家があんなことになってるのも納得できる。理解はしたくないけど。
「仁って言ったわね! 今日からあなたはこの子の家に同居しなさい!!」
キャピ! って感じでウィンクにピースで決めポーズ。動きに合わせてハートマークがいくつも湧いて出てきたかと思うと、そのなかから見覚えのある少女がもう一人出てきた。……優衣だった。来週の日曜日にデートに誘ってくれた彼女そのものだ。今日も気弱そうで、胸が大きい。
「え、ええと……その…………ご、ごめんなさい」
前髪で見え隠れする青い瞳は明らかに涙で潤んでいた。ぺこぺこと頭をさげてから恐る恐る顔をあげてこちらの様子を窺っている。さて、何がどうしてこうなったのか。考えれば考えるほど迷宮入りは待ったなしだ。
「……スマホ、俺はどう対処するのが模範解答なんだ」
「…………さぁ」
スマホもお手上げと言った様子だった。まぁ、彼女に手なんて無いのだが。




