お買い物
裏通りの建物は、地味なコンクリートの塊が点在するが、表通りになると虫を誘う誘蛾灯の様にきらびやかな装飾で無粋な構造を打ち消している。見栄えのいいデザインがなされたロゴマークが建物の表面を斜めに横断している『チェンジマート』あなたの生活をチェンジしてみませんかと呼びかけるような店名だった。
わたしは、起床すると、チェンジマートに日用雑貨を買いに行った。主導の料理は手慣れているので、基本的な調理器具や、消耗品、それから化粧品の類をかごに入れた。差し当たっての昼食は自炊で済ますことにした。
好奇心がくすぐられる商品の数々を手に取ってみる。思ったより軽いのはわたしが筋トレをかかさないせいかもしれない。当面の生活を安定させるための商品を買い集めて店を出る。
元いた世界では、伸縮ビューアのカタログで買いそろえていたが、実地で見聞したショッピングの方がより
購買意欲をそそる気がする。中世ファンタジー世界での買い物は、実用性が主目的だった。所変われば目的も変わるものである。
アパートに戻り、昼食の自炊をする。アボガドという奇妙な果実を細かく刻んでライスに混ぜて炒めてみた。塩コショウで軽く味付けをする。焼き豚と玉ねぎも刻んで炒めて混ぜ込む。フライパンの上をライスが舞う。
腹ごしらえを終えると、日用品を買いに家具屋へ出かける。室内履きやクッションを手に入れた。足りないものは、後で買いそろえればいい。異界のショッピングも、見るものすべてが珍しく、観光気分だ。
帰宅途中、見知らぬ女性に声をかけられた。「かやみさんを知りませんか?」と訊かれる。「知りません」と返事をすると、その背の高い女性は変だな~という表情をして突っ立っていた。こちらにも異世界転移者がと思ったが、『カヤミ』という名前に聞き覚えはない。
自室に戻って部屋を飾る。カーテンが地味すぎたような気がする。短期の転移だと思うし、しばらくこのままですごそう。夕食は、近場にある食堂やレストランを物色する。小ぎれいなイタリアンレストランをみつけて、中に入る。メニューを見て量が少なかったので、追加注文をしていたら、注目を浴びてしまった。
この肉体を維持するためにも、空を飛ぶためにも栄養は必要だった。もちろんこちらの世界では、飛べそうにもないことは事前に知っているが。
コンビニエンスストアという便利な物があると聞いていたので、栄養系のゼリー飲料を買い込む。これでしばらく栄養補給をしておこう。小型の冷蔵庫を手に入れてて正解だった。あまり出費が多くなると今後の生活費に支障が出るので、これからは控えめにしておこう。
明日はいよいよ、出勤日だ。こちらの手法をいきなり始めたら、周囲の人もびっくりしてしまうかもしれない。今現在では認められていないやり方だからだ。この時代の雇用先にも通用するのだろうか。何にせよ彼ら発達障害者の潜在能力を生かしてやりたいのだが。急に変えていくのは難しいかもしれない。
ベッドに入り、電気を消す。『バングル』では、周囲の動きを観察しつつ、こちらも少しずつ変えていくか。それとも一挙に実績を上げるか。後者は波風が立ちそうだ。まあいい、最初は大人しくして、臨機応変に対応するか。わたしは思考を止め寝入ることにした。