発達障害者の就労支援
ちょっと短くなってしまいました。
転移管理センターから連絡があり、例のミッションへの参加が決まる。
タンクから出て、時代相応の服を転送チューブから送ってもらう。無難なグレーのスーツにハイヒール。髪の毛はワインレッドではいくらなんでも目立つので、ヘアカラーの反射角度を変えて、無難なブラウンに見えるようにセッティングしなおした。当時は茶髪が定着していたから、うるさくはないと思う。
いつものようにラバースーツで滑空して、転移管理センターのチューブから室内に入る。後のおぜん立てはセンターに任せておく。通貨の基本を軽くレクチャーしてもらい。ベッドに横になる。住居から金銭に至るまで、生活の場は転移管理センターにお任せすることにした。おそらく、定住先に合わせて名前も変わるようだ。向こうでの名前は「宮浦 君江」になるだろうと連絡が来た。名前を壊されたみたいで妙な気持になる。
やがて、いつもの様に、きみょうな感覚に襲われて、目の前の物が巨大になったり縮小したり、掴もうとすると柑橘系の香りになってバラバラの破片になってしまったり、妙な経験が物体を液体に変えたりして夢うつつになっていく。
◇◆◇◆
気が付くとグレーのスーツを着たまま、路地裏で壁にもたれかかっていた。そこから、事前に知らせてあったアパートへ出向く。手持ちの鍵でドアを開けて、ベッドと机だけの殺風景な部屋に入る。部屋の中には旧式のPCが据え付けられており、ネットもできる環境だ。さっそく、仕事先の就労支援センター『バングル』の
サイトへ行き、ざっと内容を調べる。事前に知らされていた仕事内容とほぼ同じで、この時代では持て余されていた発達障害者の就労支援をするというものだった。
わたしの世界では、発達障害者も障害特性を避けた上で、彼らが最も能力を発揮できる職場に、根回しなしで就労することができている。雇用者側も、彼らのハンディに関して矯正や努力は意味をなさないことを知っているので、もっぱら彼らの発想力や、退屈な作業への耐性などに注目して活用している。
だが、この時代では、発達障害者が何者なのか知らない人が多く、たいていの就労先は、彼らの能力を低く見積もった作業場か、発達障害のハンディを努力と叱咤激励によって無い物にして、ビジネスシーンに送り込む、前近代的なやり方が主流になっている。
ここでわたしが取るべき行動は、スキャニング能力を生かして彼らの得手不得手を把握し、一番実力が発揮できる職場に就労してもらうか、従来通り不向きな職場でもダメなままで就職し永遠のお荷物として耐え忍んでもらうか。私のプライドとしては、後者は嫌だった。
そうなると、コネのない就労先に、彼らの能力をわかりやすくプレゼンして雇ってもらうしかないようだが、果たして就労先が、ハンディの多い発達障害者を受け入れるだろうか。『バングル』は果たして、どのような体質の支援センターなのか。実際に働いてみなければわからないだろう。
わたしは一旦、頭の中を白紙に戻して寝ることにした。明日は休みなので、日用品などをそろえてからゆっくり対策を立てれる。旧式のシャワーをあびる。温度設定がゆるいのか出始めは冷たかった。全身を洗いながら、明日のことは明日考えようと思った。簡素なネグリジェに着替えると、するりとベッドに入った。そうそう、目覚まし時計をセットしないと、比較的時間通りに起きる能力には優れているが、こちらの世界に来たばかりで時差ボケが発生するかもしれない。
おやすみなさい。いい夢を。