魔法の存在
翌日、畑の前の柵に行ってみると、モンスターは出てこなかった。
別の場所に移っているかと思ったが、今日は空振りの日らしい。遅れてきたウルサスに、「襲来はない」と告げると「もうそんな時期か」と言って天を仰いだ。
タロもエイトヘッドも、畑を襲撃のは時期的な物なのか尋ねてみた。ウルサスは「一定の時期が過ぎると奴らは来なくなる。おそらく繁殖期が終わるせいだろう」と告げられた。せっかくの小遣い稼ぎがなくなってしまうことになり、これからどうするのか訊いてみると「旅人の護衛でもするさ」と返事が返ってきた。
わたしはいつものようにタロの料理に取り掛かる。下茹でをして、塩でもみ洗いしたタロを甘辛いオニオンステーキソースで煮てみた。味は昔食べた料理に似ているので一安心。農家の間でも好評だったが、あえてこれをメインディッシュにするほどではない様だった。
「確かにタロには合うが、これはメインのおかずにはならないだろう」
「努力は認めるが、副菜といったところだな」
やはり、過去に味わったあの料理は、中世の頃の人の口には合わないということだった。まあいい。やるべきことはやったのだ。少しの達成感と大きな喪失感の中でバランスを取ろうとしていると。ウルサスに訊かれた。
「今後はどうするんだ」
「もう少し、強さを上げていきたい」
「まだ、繁殖期は完全に終わったわけではない。あと一週間ぐらいは襲撃があるだろう。ただ、数は少なくなるな」
「ウルサスはここでの狩りを続けるの?」
「お嬢さんのレベル上げに付き合うのも悪くはない」
「そろそろ独り立ちできるころじゃないかしら」
「エイトヘッドに一人で立ち向かえるか?」
そう言われると自信はなかった。エイトヘッドを天空から射抜けるのなら、すぐにでもそうしたいが、この世界での魔法の扱われ方を知らないと、下手に空も飛べない。
わたしは一番気になることを思い切って聞いてみた。
「冒険者や狩り専門屋以外に、相手を倒すのに特殊な能力を使う人っているのかしら」
「ああ。いるけど。あいつらは宗教的に嫌われていて日陰の存在だ。冒険者は魔が入り込むといって、あまり考えないようにしてるのさ」
「へえ、じゃあ魔法使いもいるんだ」
「おおい。まさか雇おうなんて考えるなよ。あいつらは高い報酬をふんだくる。いけ好かない奴らだ」
「魔法使いは魔に魂を売った人間だから考えるのもおぞましい」と農夫も同意する。
どうやら、この世界で空を飛んだりはできないようだった。ただただ、クロスボウの命中精度と飛距離を上げるしかない様だった。
翌日の早朝は、エイトヘッドが二体とタロが六体現れた。射程距離に近づいたタロの頭部を全て射抜いてやった。
「腕を上げたな」と喜ぶウルサス。
問題は射程距離より離れた位置で、分裂をし始めるエイトヘッドだった。わたしは柵に駆け寄るとジャンプして上から、彼らの頭部を射抜こうとした。残念なことに、照準がぶれてしまい。頭部は射抜けなかった。
白い液が私めがけてかかり、ほうほうの体で柵まで駆け寄って乗り越えた。
結局今回も、ウルサスに助けられた。
「無茶をやったな。ただ前方に出るのはありかもしれんな」
「盾を装備したら、液体を避けられるかしら。ああ、かゆい」
「そうなるとクロスボウの操作ができないだろう」
「お金がたまったら、手足を覆う鎧を買わないと」
「大した敵じゃないから革製でいいぞ」
料理研究は、前回の甘辛く煮ただけで一応終わらせて、今回はタロやエイトヘッドは使わず普通の昼食を農夫に作ってもらった。麺にひき肉のトマトソースを絡めた食事だった。
「芋にも飽きたから、こっちのほうがいいな」
「隠し味にワインを使っているみたいね」
「味覚が細かいね。確かにその通りだ」
日々、襲撃するモンスターは、数が減ってきている。
「そろそろ、タロやエイトヘッド狩りも終わりの時期だろう」
「ウルサスには世話になりっぱなしだったわね。ありがとう」
「こちらも、冒険者を世話するのが趣味でね」
「これからどうするの」
「酒場で面白そうなミッションでも探すか。それとも旅人の護衛でもするかな」
「わたしは、もう少し気ままにやるわ」
「リヤはその生き方の方が合っているだろう」
「さようなら」
「さようなら。いろいろと面白かったぞ」
ウルサスと別れると、耳に通信が入った。
──キエミ・リヤミッションの終了です。
わたしは奥歯横のスイッチを入れ、アラームを消す。
あの貢献度だと、この程度のミッションで終わるのね。わたしは人気のない林へ行き、身をかがめた。
あとは、ここに来た時のように、元の世界に戻ることができる。私の意識は、だんだんと夢うつつになって、時間と空間が揺れ動きないまぜになったようなきがした。林の木々が意識のある存在に見えてきた。
そしてわたしは転送管理センターへ移動した。