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多量の剣を持つ男

 黒い土だらけのモンスターが柵にしがみついた。

柵の高さは、大人の腰ぐらいまでだが、モンスター同士がお互い肩車をして乗り越えようとしている。

柵の隙間に奴らの頭部が見えた時、ウルサスは皮手袋をはめて、剣を掴んで突き刺した。

派手な炸裂音がして、ウルサスに向かって白い液体がほとばしる。

剣はぬるぬるになり持てなくなった。ウルサスはタオルで液を拭うと、反対側の手に別の剣を持ち換えて、二体目の頭部を突き切った。先ほどと同じように、白い大量のぬるぬるした液体が手にかかり、剣を落とす。

剣は滑って持てなくなる。


「大丈夫?」

「ああ安物の剣をたくさん持ってきた」

リヤはクロスボウを装着すると、別の方向からやってきたモンスターを一体、射抜いてやった。

モンスターは胸から液体を撒き散らし、動きを止めない。

液体がリヤの二の腕に付着した。とたん、猛烈にかゆくなった。


「頭をやらないと、いつまでも動き続けるぞ」

ウルサスは、タオルで液を拭い、三本目の剣で、先ほど射抜かれたまま動いている化け物の頭部を切り捨てた。白い液体が、噴水のようにウルサスめがけて飛んできた。液体は運よく鎧にかかり、手には、かからなかった。続けて四本目の剣を振り払って四体目のモンスターを退治した。残るは一体、だが奴は戦況が不利と思ったのか逃げていった。


「患部は冷水で洗え」

「ありがとう。ひぃー、かゆい」

「あとで薬をつけてやる」

「イライラするモンスターね」

「クロスボウなら初動で素早くやっつけないと、後半苦労することになる」

「今思ったんだけど、なんで同じ剣で闘わないの」

ウルサスが、剣をとっかえひっかえして闘っていたのが、リヤには気になった。


「あの汁が剣につくと滑って切れなくなるんだ」

「他の人たちはどうやって闘っているのかしら」

「モーニングスターを使うのが一般的かな。後はクロスボウ使いを多人数雇うとか。あえて柵にくし刺しにして動きを止める方法もある」


 リヤは先ほどから、酷いかゆみに襲われて、二の腕は、ひっかき傷で真っ赤になっていた。

ウルサスは、冷水で丹念に手を洗うと、革袋から膏薬を取り出し、リヤの患部に巻いてやった。

「ありがとう」

「変な話だが。あのモンスターは畑に侵入すると、勝手に穴を掘って居座るんだ」

「あら、それなら大した実害はないわね」

「ところが畑中にはびこってしまう。おまけに食べても大して美味しくない」

「食べれるの?」

リヤは驚いた。


「ああ、一応はな。ただ、ぬるぬるするだけで、さして美味くはない」

「あのモンスターの名前はなんていうの」

「タロと呼ばれている。他にもエイトヘッドという奴もいる。両方とも一応食用にはなるが……」

「町の料理人でもうまく調理できないの」

「あらゆる調味料を試してみたが、塩でゆでるのが一番まともだった」


 キエミ・リヤは、ここに来る前に、世界中の料理について調べていたことがあった。クライアントは、世界中の料理を食べつくしたようなグルメな男で、まだ味わったことのない地域の食事を望んでいた。そこで、自分たちの住む地域とは違う小国の料理を作る調理人を探し出したことがあった。スキャニングで脳を読み、探し当てた。彼が作った料理の中に、ぬるぬるの食材を上手く調理したものがあったことを覚えている。あれは、何だったのか。あまりよく覚えてはいない。


「どうした。考え事か」

ウルサスは安物の剣を流水で洗い流している。粘りは、なかなか取れず、何度も水の入った器に浸している。

「この地域にない調味料なら、モンスターをおいしくできるかもしれない」

「誰もが考え付くことだが、問題はそれが俺たちの舌に合うかどうかだ」

それを考えると、せっかくのアイディアも霧が消えるように薄まってしまった。確かに、あの料理が、この中世の人たちの舌に合う保証はない。かといって、せっかく食べられるモンスターを、ただ捨てるだけなのはもったいないような気がした。


 畑の主がやってきた。布の帽子をかぶり、革製のベストを着ていた。農夫は二人に礼を言うと、礼金を差し出した。

「よそからやってきては、家の畑に根を下ろそうとする。鍬で頭を落としてやったが、二頭目が滑って切れなくなる。本当に厄介な奴だ」

「食べられるようになれば、厄介でなくなりますよね」

「塩でゆでるしかないし、ここらの者の口には合わんな」

農夫は、首を横に振った。


「ねえウルサス。この町に書物を集めたような施設はないかしら」

「ここの連中は、あんまり本を読まないんだ」

「この町以外で、書物を大事にしてそうな地域はどこがあるの」

「エゼッスの町ならあるかもしれないな」

「それはどこなの」

「ちょっと遠いな。森を越えて行かなければならない」

キエミ・リヤはためらった。前の世界にあるものが、こちらの世界にも存在する保証はないのだ。

ならば、ここの世界の調味料をすべて当たってみてからも遅くはないと考えた。


「エゼッスへ行くなら、その腕なら難しいだろうな。もっと凶悪なモンスターが出るらしい。もう少し戦闘能力を上げてからの方がいい」

ウルサスの言うことも最もだと、リヤは思った。もっとも空を飛んで行けなくもないのだが、こちらの世界の人間たちの間に流石に空を飛ぶ者はいなかった。飛行能力は秘密にしておくしかないと考えた。


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