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アザーニの身体能力

 ウルサスの計らいで、わたしたちは農家のはなれに泊まることができた。わたしにとって屋根があることはありがたかったけど、アザーニは、この世界での宿泊を経験したことがないせいか、不満を感じていることは表情から見て取れた。彼女は、気持ちが顔に出やすいタイプなのだろう。寝相も悪く、時折り腕や足が、私の体の上に乗せられ、ぶつかったりする。わたしは半分眠ったふりをしてやりすごす。


 農家の朝は早く、雄鶏の鳴き声で目を覚ました。開拓社会の状況を会得しているわたしは慣れているが、空が白み始めた頃の起床に彼女は慣れておらず。「もう帰りたい」を連発して、ほとほと困ってしまった。少し身体能力を見るために、腕立て伏せをやらせてみたが、すぐにへばっている。


 井戸での洗顔を終えると、ウルサスに会った。おはようの挨拶を交わすと、彼は笑みを浮かべながら畑に出ていった。遠景には森が茂っていて、そこから種子が飛んでくるようだ。


「塀を作って、さえぎったりはしないのですか」アザーニが素朴な疑問を投げかける。

「塀の前で、モーグが芽吹いちゃうでしょう。森に畑が侵食されてしまうわ」状況から推理して返答した。


「その通り、だから俺たちが森の付近まで打ち返すんだ」ウルサスが答えた。片手には丸く削った棒を持ち、種が飛んでくるのを待ち構えている。


「木が生えたら斧やのこぎりで切り倒せばいいのではないですか」しつこく疑問をぶつけるアザーニ。おそらく農家の人たちが、それをしないのは理由があるのだろうとわたしは感づいた。


「モーグは恐ろしく堅い木でな」ここの主が歩いてきて呟いた。

「若木でも斧を二本駄目にする」主は額にしわを寄せていた。


 納得したのか、アザーニは口をつぐんでしまった。わたしは、飛んでくる種子に対して打ち返す術をウルサスから習った。口だけの説明でだいたいの要領はつかめたと思う。


「初めてにしてはフォームはいいな。あとは棒の中心で捕らえて打ち返してみろ」

ウルサスにいわれた通りの、振り方で種子に当ててみた。弾んだ音がして、種子は森の近くへすっ飛んでいった。


 一方アザーニは、打ち返すコツが中々つかめず、当てるのだけが精いっぱいだった。にもかかわらずウルサスは、わたしより丁寧に、フォームや重心移動についてアドバイスをしているようだった。反射神経はいいはず、後はどうやってパワーをつけるか。


「どう、彼女はものになりそうかしら?」

「基礎体力がまだまだだから難しいな。俊敏性はあるから、スピードには対応できるが、そこまでだ。」

アザーニの打った種子は、棒をかすめるか、打った先から跳ね上がって、足元に落ちるだけだ。彼女は嫌そうに靴で踏むが、壊すことができなかった。わたしは、種子を拾い上げて、手元で打ち込んでみた。種子はまっすぐに飛んで、森の近くへ落ちた。


「ほう、やるじゃないか」ウルサスの隣で、種子打ちをしていた男性が、笑みを浮かべながら、わたしをみた。「下手な男には負けないわよ」と自信満々で返事をした。


「今日の飲み代を賭けるか」髪を短く切りそろえ、くぼんだ眼の男性が私の顔を見つめながら切り出した。

「望むところよ」私は軽く受け流し、挑戦を受けた。


「くっ、この俺が女性に負けるなんて」男は悔しがって地面を棒で突いている。

 その日は、わたしも調子がよく、男に四打差で勝ち、掛け金をもらった。

ふと見ると、アザーニが半べそをかいたような顔をして下を向いていた。


「デザート用のフルーツでも買ってこようか」わたしはアザーニをなだめようと、食料品屋に行く提案をした。すでに日は落ちていたが、暗くなるまでは間に合いそうだった。

「そんなのいらない。早く帰りたいの」アザーニは雄鶏に起こされた時と同じ内容の言葉を繰り返していた。

「お嬢さん、帰ろうにも、エゼッスはだいぶ先だぞ」ウルサスは、アザーニのお嬢さんぶりから、勝手にエゼッス出身だと思い込んでいるみたいだった。

「私、エゼッスなんて知らないわ」アザーニの発言は、わたしを慌てさせた。


「ここの仕事が終わったらどうするの」わたしはボロが出ないように話題を変えた。

「そうだな、ジースタに戻って、旅人の警護でもやるかな」

「村から途中の道中で、モンスターはでるの?」

「ゴーストのような幻影を見せて、臆病者を脅かして金品をかすめ取る雑魚が出るな」

「たいしたことなさそうね」

「ジースタを越えたあたりから、凶暴度は増すな」

「じゃあ、アザーニのジースタ越えは難しそうね」

「そうだな。馬車でも使えれば安全度は増すが、何せ金が要る」とウルサスは金をジャグリングする手ぶりを見せた。


 やはり、アザーニはここの村に滞在して、さほど脅威にならないモンスターを相手にした方がよさそうだと思った。私自身は、ジースタのモンスターを退治してみたかったのだが、アザーニの身の安全を考えると二の足を踏まざるを得なかった。



◇◆◇◆



 種子の放出の時期が終わり、ウルサスもロハンスナの村を離れるという。他の男たちも村から引き上げるらしい。

「俺はジースタまで徒歩で行く。モンスターも大したことはないからな」

「さようならウルサス。わたしはアザーニとここに残るわ」

「さようなら、リヤ。そしてアザーニお嬢様」

別れようとしたその時に、アザーニが口を開いた。


「大丈夫、私モンスター除けのお札が描けるから」と自信をみなぎらせ早口で返答した。

「ちょっと何言ってるの」わたしも急な発言に驚いて(さえぎ)ろうとした。

「お札? そんな、まじないめいた物が効果あるのかな」ウルサスは、笑いながら疑問を口にはさんだ。

「今から描くわ。モンスターの特徴を教えて」アザーニは本気だった。


 これが、彼女のもう一つの能力? 私は疑問に思いながらも、魔法使いと思われないかハラハラしていた。魔法は、この開拓世界では禁忌のはずだからだ。





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