?歳:ウエディング【起こり得る、いつかの日】
今回は、本編と繋がっているとも、アナザーワールドとも言えない、「いつかの明日」の世界です。
「いたっ!? 痛いよ楓ちゃん。そんなに奥深くまで急に突っ込まないで……」
「……ごめん」
やっぱり、わたしは不器用だ。妻の耳掻きもまともにできないなんて。
わたしは慎重に墨子の耳から耳掻きを引き抜き、浴衣姿の彼女の体を起こした。
「……やっぱり、自分でするよ」
「……本当にごめん」
「気にしないでいいよ。……それにしても、初めて……だね。家以外の場所で楓ちゃんの誕生日を迎えるのは。ありがとう楓ちゃん、誘ってくれて」
「……うん。たまにはいいかなって。新婚旅行にもまだ行ってなかったし……ん」
言い終わった直後、わたしの右頬に「温かくて湿ったもの」が触れた。
「……大好きだよ、楓ちゃん」
「墨子…………」
「温かくて湿ったもの」の持ち主は、はにかんで言った。
胸いっぱいに、染み渡るものがあって。
「……わたしも………………っ?」
強くはないはずの抗いがたい力で、敷かれたばかりの布団の上に倒された。
そのはずみで、畳の上に置いていたわたしの携帯電話が弾かれ、床の間の段差にぶつかって画面が明るくなった。
その待ち受け画面には、ウエディングケーキをバックにしたわたしと墨子が、きらびやかに、そして艶やかに、映っていた。
短い間でしたが、最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。よろしければ、引き続き本編もよろしくお願いいたします。
それでは。