十八歳:カップ【感傷的アナザーワールド(もしも木隠墨子と出会っていなかったら)】
本編とそこまで大きく変わらない世界観のアナザーワールドのお話です。
アタシ達の……星花女子バスケ部の夏は、終わった。
「地区大会止まりかぁ。……ま、アタシ達にしては、頑張った方じゃない?」
「おつかれおつかれー。今夜は祝杯だよー!」
「飲んだら十割リバースするくせに?」
「うっ……。それは言わないでよ……」
「前を見ろ前を」
アタシの隣で車を運転している、バスケ部顧問であり同居人の緒久間明梨は大袈裟にうなだれて、感情を表現した。
「……ともあれ、これでアタシもバスケ部から身を引くわけか……」
「椎名は、みんなと打ち上げに行かなくていいの?」
「きょーみなーし。どうせ倉田楓は来ないだろうし」
「……倉田さんに、結局渡せなかったねー。そのカップケーキ。今日誕生日だからって、昨日張り切って作ってきたのにね」
「……いいんだ。どうせ受け取ってもらえないから」
「あんなに頑張って作ってたのに?」
「うわぁいつの間に写真なんか撮ってたんだよ!?」
アタシは明梨が見せてきた携帯を慌てて手で払った。そしてアタシがスポーツバッグから取り出したのは、件のカップケーキ。
「……本当によかったの? 友達にさえならなくても。それに、倉田さん恋人いないんだし、学生でいる間だけでも、付き合えば…………」
「明梨」
「……ごめん。余計な気遣いだったね」
「……アタシ達は、あの家族に深く関わっちゃいけないんだ。いままでも、これからも」
「それは、そうだけどさ……」
「……ん」
「なに?」
「……もったいないし、一緒に食べようぜ?」
「……それじゃあ、遠慮なく」
赤信号で車が停車している間に、素早くアタシが手渡したカップケーキを食べる。
「んー! 愛がこもっているカップケーキは美味しいねー!」
「恥ずかしいことゆーな! ったく……。ねえ、明梨」
「ん?」
「……これからも、悪魔の子と相乗りする勇気……ある?」
「……当然。だって、私も同じだから」
信号が、青色に変わった。
そうして、再び車は発進した。
楓ちゃんの出番なし……。